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ひとまず安心ですが……

 暗闇から意識を浮上させる。

 見覚えのある天井を見て自分がいる場所をすぐに悟った。


 学校の天井が崩落した後、診療所に運ばれて治療されたのだろう。


 最後まで瓦礫相手に抵抗したおかげで、酷く痛む頭以外は軽傷で済んだようだ。

 ムクリと体を起こすと、ちょうど様子を見に来た看護師と目が合った。


「リーシェさん、目が覚めたんですね」


 確か名前をソフィアと言ったはずだ。

 優しい笑顔を浮かべながら彼女は色々と教えてくれた。


「昨日の学校の火災で運ばれた子供たちと先生たちの中に、危篤状態の方はいません。重症の患者さんもいますが今は安定しています」


 リーシェが自分のことより助けた人の事を真っ先に聞くのは既に予想していたようで、ソフィアはスラスラと言った。


「流石に学校は1から建て直すことになりましたが、死者が出なかったのは不幸中の幸いでしょう。リーシェさんの傷も頭以外は軽いものなので、半年前のように絶対安静というわけではありません。ただ急に動くとかはまだ控えてくださいね」


「アズリカ……。私と一緒にいた男の子はどこに?」


 姿が見えない青年のことを聞くとソフィアは困ったように眉を寄せた。


「それがリーシェさんをここまで運んでから姿が見えないのです。『静寂の森』に向かって走っていたのを見た人はいますが、そのあとの動向は誰も知りません」


「そうですか……」


 アズリカはきっと何かを掴んだのだろう。学校で火災が起きたことについて、事故ではなく事件だと考え、思いつく場所に確認しに行ったのだ。


 1人で無茶をするような人では無いし、ある程度の危機は1人で処理できるので心配はしていない。

 万が一があったとしても、路地裏で生き抜いた経験を生かして上手く逃げてくれるだろう。

 何より、どこに行ったのかはだいたい推測できる。


 川の方向へ行ったということはビーグリッドに行ったということだ。あそこには特に何の危険もないはずなので、ひょっこり帰ってくるはずだ。


 ベッドから足を下ろすと1日寝て凝り固まった体を伸ばす。

 流石に体の傷が痛かったが構わず伸ばすと、ソフィアに怒られた。


「明らかに傷が開くことはしないでください!薬液だって包帯だってタダじゃないんですよ!」


 リーシェの身を案じているのが4割。経費の心配をしているのが6割と言ったところか。


 思わず半目になってから立ち上がると、学校で負傷した人達が療養する病室へ案内してもらった。


 病室に入ってきたリーシェに比較的軽傷な患者たちが歩み寄ってくる。


「リーシェさんや。助けてくれてありがとうねぇ。あなたも怪我したって聞いたけど大丈夫?」


 学校側を代表して年配の教師がお礼を言う。リーシェは元気に笑うと小さく首を横に振った。


「いえ、当然のことをしただけなので。傷も浅いものなのですぐ治りますよ。先生方もこの際ゆっくり休んでください」


 きっと連日元気な子供たちのお世話で日頃から疲れていただろう。

 怪我を理由にのんびり休んでくれたら何よりだ。


 今度は保護者を代表してアンがリーシェの肩を叩いた。


「リーシェ。本当にありがとう。あんたのおかげで犠牲者は出なかった。あたしからも礼を言わせてくれ。

  ほらお前たち!さっき練習したアレ、言いな!今だけ診療所で大声出すことを許してやる!」


 リーシェがセルタに来た時に、診療所で泣き叫んだシュウを怒る演技をしたことがあった。

 実際、病人やけが人がいる診療所では静かにするのが決まりだが、今回だけは施設側から了承が出たらしい。


 体に包帯を巻いているが軽傷な子供たちがズラっと目の前に並んだ。

 ご丁寧に、「前ならえ!」と列をまっすぐ揃えている。天使たちがそこにいた。


「「「リーシェさん!僕(私)達を助けてくれてありがとう!!」」」


 小さな声で練習したのか、声は列と同じようにピッタリ揃っていた。

 いつもなら謙遜する少女も、この時ばかりは素直に感謝を受け取った。


「はい。どういたしまして。診療所でもしっかり勉強してくださいね」


「「「はーい!!」」」


「「「えぇ〜!?」」」


 主に元気に返事をしたのはまだ学年が下の子供たちだが、不満げな声を出したのは高学年の子たちだった。高学年ともなると勉強が嫌になるらしい。


 だが勉強で得た知識は何にも変えられない財産だ。誰にも奪われない宝物だ。


 先生たちも意地悪な顔をして、どこからか課題のプリントを出し高らかに笑った。

 言っちゃなんだが、まるで悪魔のように意地悪な笑い声だった。


 怒られない程度に賑やかになった病室をそっと抜け出して診療所の外に出ると、出かけていたアズリカがこちらに走ってくるところだった。


「あ。アズリカ」


「リーシェ!?もう起きたのか!?傷は?痛いところは!?」


 大袈裟に心配し、リーシェの回りをワタワタと慌てるアズリカ。

 それに苦笑していると、ようやく青年は落ち着いた。


 ゴホンと咳払いをして、自宅に向かって一緒に歩き出す。


「何か手がかりは掴めましたか?」


「え?」


「火災についてきな臭さを感じ取ったんですよね?」


「お前もか?」


「いえ。私はみんなが無事でよかったと安心するので精一杯ですから」


「そうだろうと思ったよ」


 それっきり話さなくなったアズリカだが、家の前まで来ると思い切ったように本題に入った。


「まず、今回の火災及び天井の崩落は事故ではなく事件だ」


「それは確定なんですね?」


「間違いない。犯人に直接確かめに行った。ついでにそいつからお前宛ての伝言を預かってきた」


 無造作に紙切れを渡される。

 アズリカは既に内容を知っているようで、「実際にどうするかはお前次第だがおすすめはしない」と憮然と呟いた。


 折り曲げられた紙をそっと開く。

 そこには、「雪が溶けて花が舞う季節になったら魔境谷の神殿に来い」と書いてあった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 丁寧な描写と、ハイファンタジーのストーリーがマッチしてて面白いと思います。やっぱり主人公が往年のアニメ「世界名作劇場」のように健気でたくましく、魅力があるとも思います。まだまだ先は長いと思…
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