お墓参りに行きましょう
家と同じくらいの広い面積に畑は充実した姿をしていた。
苗屋で購入したタネを植え終えて水やりをしながら、リーシェは満足気に鼻を鳴らす。
「フン!やっと理想的な畑が出来ました!」
畑の手前ににんじん。真ん中の右側にチンゲン菜。左側にコールラビ。奥の右側にほうれん草があり、左側に山芋が植えてある。
ラピス用に一角を確保しつつ十分な余裕を持ってそれらを植えることが出来たので、春からはもっと種類を増やしても良さそうだ。
と言っても、チンゲン菜などはアブラナ科で連作できないのでそこは別のものを考える必要があるだろう。
芽が出るまでまだ時間がかかるので、現時点では水をあげるだけにしてリーシェは家へ足を向けた。
玄関の扉を開けると、ちょうど靴を履こうとしていたアズリカと目が合う。
すっかり隈の消えた健康的な顔を見て少女は微笑みかける。
「お出かけですか?」
青年も表情を柔らかくしながらせっかく履いた靴を脱ぎ始めた。
「いや、水やりの手伝いをしようと思ったんだが終わったみたいだから暇になった」
「夜ご飯の仕込みは?」
「おでんとか言うやつか?明け方からやったんだ。もう終わった」
「さすが、アズリカは仕事が早いですね」
座ったままの緑色の頭をワシャワシャ撫でると、アズリカは不愉快そうに目元を歪めた。しかし振り払わないあたり、照れ隠しなのだろう。
「畑の作業もひとまず落ち着きましたし、食材の仕込みも終わりましたし……。暇になってしまいましたね」
「ああ。この家は娯楽が少なすぎる」
「2人だから早く終わるだけで、1人でやったら日が暮れるまでかかるんです」
「チェスの1つくらい置いておけよ」
「ここにそんなオシャレなもにはありません!イグラスの城には置いてありましたけど、そもそもルール分かりませんから」
「この町、どっか楽しいとこは無いのか?」
「学校とか楽しいですよ」
「そういうんじゃなくて!」
えぇ〜、とリーシェはげんなりとする。
セルタの中央部にある学校は、町中の元気な子供たちが毎日通っている場所だ。
畑や手伝いも大事だが教育はもっと大事だという、住人の総意で建てられた学校は、週5日解放されている。
今なら元気な子供たちに癒してもらえる時間帯だ。
そう思って提案したがアズリカはお気に召さなかったらしい。
「ん〜。それなら……」
しばらく悩んで、リーシェは別の提案をした。
「私のおかあさんとおとうさんのお墓参りに行きますか?」
「お前の母親……ディアナ·フィリアル·アクレガリアインか」
「セルタの外れにある『静寂の森』に埋葬しています。2ヶ月ほったらかしてしまったので、掃除に行こうと思っていたのですが」
すると、意外にもアズリカは即答で了承した。
お墓参りに必要なものを準備しに一旦家の奥へ消えたのを見届けて、リーシェも右手に持っていたじょうろを物置へ置きに行く。
汗も掻いたので軽くお湯で体を流すと、黒っぽい服に着替えて再び玄関に向かうと、既にアズリカが待機していた。
服も色合いがなるべく落ち着いたものに着替えている。
「じゃあ、行くか」
1人で持つには多い荷物を半分手伝いながら、リーシェとアズリカは少女の両親が眠る穏やかな森へ歩き出した。





