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再スタートを切りましょう

 リーシェが魔人の国イグラスから帰還し、アンたちにこっぴどく叱られて泣き崩れられてから早くも一週間が経った


 ニヶ月放置されていたはずの畑は、ちょうど収穫した直後だったということもあり、植えたものが枯れたという事態にはならなかった。

 リーシェが王都に行っている間に畑や家を任せていたレガリアが、ラピスの畑の野菜を収穫してくれていたおかげもあるだろう。


 最も暑い時期をセルタで過ごせなかったせいで夏の野菜は少ししか作れなかったが、来年の楽しみにしておこう。


 さて。リーシェがセルタに始めて来た時から6ヶ月になる。半年も経てば、気候や気温も変わり、育てる野菜も変わってくる。


 苗屋には何が置いてあるのか期待に胸を弾ませて、スキップで町へ向かった。


「ボルさ〜ん?」


 テントの中に入って店主のボルの姿を探す。

 棚の奥から彼はひょっこり現れた。


「やあリーシェちゃん。野菜の苗を買いに来たんだね?」


 最初に会った時と同じように、ボルはおすすめの作物を丁寧に教えてくれた。


「これからは少しづつ涼しくなって、3ヶ月もすれば雪がパラつくようになる。今植えて冬を超えて春先に収穫できる野菜や、冬までに収穫できる野菜の苗はそこの棚に置いてあるよ。好きなだけ見ていくといい」


「ありがとうございます」


 ボルが指さした棚にはいつも季節の野菜の苗が並んでいる。

 普段なら野菜の苗ばかりのそこに、今日は変わったものが置いてあった。


「ボルさん。これって、花の苗ですか?」


「ん?あぁそうだよ。リーシェちゃんが来てから王都との交流が盛んになったからね。お客さんをもてなすために花を植える人が増えているんだよ」


「へぇ〜。寒い時期に咲く花って特別な愛着が湧きますよね」


「そうだね。逞しく生きる姿に励まされることもあるだろう。良かったらリーシェちゃんもどうだい?」


「ちょっと見てみますね」


 ボルはそれっきり棚の奥で仕事に励んだ。

 邪魔をしないようになるべく静かに店内を物色していく。


 苗屋と言ってもここは苗ばかりを売っている訳ではなく、ドライフラワーや造花などもラインナップされている。


 苗ばかりを売っているとどうしても冬場は売上が落ちてしまいがちで、室内で楽しむための植物グッズを取り揃えているそうだ。


 本格的に雪が降り始めたら、家に飾る小物として造花を買ったり、畑仕事が無くなるため暇になった時間で読む本の栞にドライフラワーを買ったりするだろう。


 店をある程度回ってから本命の季節の棚を見る。


 棚の右側は三ヶ月程で収穫できる野菜が、左側は春に収穫できる野菜が置いてあった。苗以外にも種も置いてあるので、品物は幅広く揃っている。

 まずは右側から見ることにした。


 すぐに興味をそそられる野菜を発見した。

 にんじんだ。


 にんじんと一言で言っても、春にんじんと秋冬にんじんがある。

 春にんじんはみずみずしく歯ごたえが柔らかいのが特徴だ。

 逆に秋冬にんじんは実がしまっていて加熱すると甘くなる特徴がある。


 収穫はタネから植えておよそ三〜四ヶ月程で、その頃には寒くなって温かいシチューが食べたくなるだろう。

 そこに甘いにんじんを入れればとっても美味しいものが出来上がるはずだ。


 次に見つけたのは毎日使うおかずとして人気のチンゲン菜だ。

 炒める以外にも、和え物や漬物、煮物やスープにも使え汎用性はかなりある。栄養もたっぷりなので、食べるものが偏りがちな冬にぜひ蓄えておきたい野菜のひとつだ。


 収穫はタネから植えて一〜ニヶ月とかなり早い。淡白であっさりした食感なので沢山植えても飽きることなく食べることが出来るだろう。


 続いて目に止まったのはコールラビと呼ばれる根野菜だ。

 生でも加熱しても食べることが出来るこの野菜は、サラダや漬物にすることができる。煮込み料理や炒め物もおすすめだ。

 薄緑色と紅色のニ種類があり、キャベツとカブを合わせたような不思議な風味がするのが特徴だ。


 タネから植えてニ〜四ヶ月で収穫できる。

 北の大陸で植えたキャベツの仲間なので、こちらで栽培してからあっちで試してみるのもいいかもしれない。


 にんじん、チンゲン菜、コールラビの他にも山芋やほうれん草を購入した。


 両手いっぱいになった買い物を家に置くために、冬を超えて育てる野菜は後で見ることにした。


 それにそろそろ「頼んでいたこと」がおわるころだろう。


 自宅に到着すると、荷物を持ったまま畑を足を向けた。

 そこで鍬を握って土を耕す青年の名前を呼ぶ。


「アズリカ〜」


 肩口で切りそろえられていた髪を1つに結った青年が、汗を滴らせながらこちらを振り向いた。


「リーシェ。戻ったのか」


「どうですか?畑の方は」


「とりあえずお前が魔人たちに教えていたように腰を入れてやっている。あらかた終わったから確認してくれ」


 彼の肩越しに整えられた畑を見る。概ね問題は無さそうだ。


「はい、よく出来ました。少し休憩しましょうか」


「あ、その前に……」と汗と土で汚れたアズリカを見る。


「お風呂に入ってきてください。さっぱりしてからおやつにしましょう」


「ああ。さすがにこのままじゃ気持ち悪いからな。言葉に甘えて湯に入るとしよう」


「私はその間におやつを作っているのでゆっくり入ってきてくださいね」


 足に着いた汚れを拭いてからお風呂場へ向かうアズリカ。

 彼はゲートをくぐって西の大陸へ来たあと、すぐにラズリへ連れていかれた。

 尋問はたったニ日で終わったようだが、それはアズリカが自分から全てを話してくれたかららしい。


 かつての青年がコンプレックスに感じていた過去も、その過去を今は誇らしく思うこともラピスに明かしたそうだ。

 そして少年も、彼を認めざるを得なかった。

 アズリカが悪い存在では無いことを。


 そしてアズリカはつい先日セルタに来て、今こうしてリーシェの手伝いをしてくれている。


 人の手が一人分加わったことで管理できる畑の面積も広がり、より多くの植えることが出来そうだ。


 これから始まる寒い季節の到来がリーシェは待ち遠しかった。

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