第三十五話 油断大敵です
戦闘描写入れるために、33話を新しく投稿しましたので、昨日投稿したこのお話は34話となっています。ややこしくてすみません
爆炎の破玉が谷を飲み込む。グレイスたちの様子は赤い輝きが消えない限り確認は難しそうだ。
今回こそ、本当に再起不能にさせるつもりで一撃を放った。
さすがに太陽のごとき焔をまともに受ければ重傷を負ったはずだ。
そう判断して上空で胸を撫で下ろしていると、炎の中から鎖が飛来してきた。
「なっ!?」
寸分違わず足を絡め取られて重力を一切無視した力で引っ張られた。
遠心力のまま叩き付けられそうになるのを、体の表面を極硬の氷で分厚く覆って直撃を防ぐ。
だが凄まじい衝撃と痛みがリーシェを襲った。
経験から直感するに左腕が折れたのだろう。
激痛を叫ぶ左腕を強引に無視して、紅蓮に染る眼前を見る。
足に絡みついたままの鎖は焔で熱せられていて、どんどんリーシェの皮膚を赤く爛れさせた。
「あ”……~~~~~っ!!!」
食い縛った歯の隙間から呻吟を漏らしながら、目を眇めて炎の中を見るとフラフラと複数の人影が立ち上がるのが見えた。
(うそ。立てるの?あの攻撃を受けてもまだ……)
信じられない思いで見続けると、やがて内側から焔が消されていく。
完全に鎮火した場所から一番先に登場したのは、紫色の髪の女性だった。
僅かに毛先が焦げた髪を気にしながら、優雅に歩いてくる。
「まったく。まだそれぞれの能力を使うのが未熟だから隙を見つけて何とか消せたけど、これがもっと完璧なものになったら確実に誰か死んでいたわね」
紫に塗られた唇が苦笑いを浮かべながら、ダメージを逃がしきれなかったリーシェに告げた。
「重力と焔。同時行使は慣れていなのよね?おかげで助かったわ。ありがとう」
女性が言うには、炎の玉を投げる時に制御していた重力が僅かに効果を落として隙ができ、おかげで対抗する策を実行する時間ができたということだった。
リーシェの弱点を指摘されて臍を噛む思いだった。
「ちょっと早く起きてきてよね!貧弱共!……はぁ。さすがにダメージはあるわよね」
「………」
「………」
「………」
「ねぇ」
「はい?」
短い沈黙の後に女性は唇を尖らせた。僅かに頬を膨らませて抗議の意を表していた。
「なにか喋ってよ!」
(こっちは左腕も両足首も痛くてそれどころではないのですけど……)
「暇は大っ嫌い!!静寂なんて大っ嫌い!!ということで、軟弱共が起きるまでの間、名を名乗らせてもらうわ!」
序列が何位なのか気になっていたので正直それはありがたかった。どうやら彼女は退屈を酷く嫌うようだ。
「私は魔人序列3位の一族ディカイン家の長女、ディケイラ·シュレアミス·ディカインよ。操るは『打消魔法』。あなたは?」
魔人の名前は三節構成が基本らしく、序列一族全てを覚えるのは骨が折れそうだった。序列三位はエグゼだったはずだと疑問に思う。
「打消魔法」とはなんだろうと考えているとこちらに質問をされてリーシェは首を傾げた。
「私はリーシェですけど……」
「ちっがーーう!!もっと私のようにかっこいい名乗りは出来ないわけ!?私のようにね!!」
女性のノリにはもう諦めることにしようとリーシェは目を半目にさせた。
「……私はリーシェ。『技の力』を授かった者です」
よく分からなかったので短く終わらせると、黒煙から出てきた人影が引き継いだ。
「そして、『重力魔法』を保有しアクレガリアイン王家に連なる者である、が抜けているぞ。間抜けめ」
「やっと起きたか軟弱その一。寝るにはまだ早いぞアズリカ」
「そう。この馬鹿の言った通り、俺の名前はアズリカ·レイギア·ミシュエル。序列六位の一族の末端だ」
「馬鹿とは何よ失礼ね。私ほど聡明で賢明な淑女はいないというのに!」
「お前ほど阿呆で馬鹿な魔女もいないがな」
緑色の髪の毛を左半分爆発アフロさせながら登場した青年は淡々と言葉を述べていった。
言い合いに唖然としてしまったリーシェだったが、彼の手に握られている鎖を見てあっと声を上げる。
「ん?あぁ、コレのことか?俺の魔法は『拘束魔法』だからな。鎖にひとたび絡まれれば俺が許可しない限り逃げることは許さない」
だから二人とも妙に余裕そうだったのかと唇を噛む。
鎖はどうやっても外れないし、アズリカが少女を解放するわけが無い。
しっかりと鎖が握られた青年の右手をどう切り落とそうか考えていると、今度は黒煙の向こうから蟲が飛んできた。
折れている左腕の傷口から侵入され、途端に体に力が入らなくなる。
「フン。さすがに繋がれていては防げぬよなぁ?さきほどは随分簡単に防いでくれたものだ」
現れたのは、モノクルをかけた妖艶な美女だった。
ディケイラよりも圧倒的に露出が多く、肌を惜しげも無く晒していた。
僅かに火傷を負ってはいるものの重症ではなかった。
「我輩は魔人序列二位。フォール家の族長、アシュア·レイブン·フォールである。『蟲魔法』に関してはエグゼが世話になったなぁ」
アシュアと名乗った女性がエグゼに蟲を埋め込み、戦争を起こすきっかけを作った張本人だ。
明確な殺意を向けて睨むと、だいぶ薄まった黒煙の奥から気絶した六人の魔人を宙に浮かせたグレイスが出てきた。マントは一部が炭化していた。
「貴様ら、話はそこまでにしておけ。不意をつき拘束できたからと言って油断はできない。ラズリ軍が着実に近づいてきている。この黒煙に紛れて戦場を離脱するぞ」
いよいよ不味い。
鎖を砕こうと力を使おうとするが、いつまで経っても焔も氷も出現しなかった。
「なんで……?」
無意識に声を発すると、歩き始めたアズリカが振り向いた。引っ張られてリーシェも同じ方向へ連れていかれる。
「力のことか?悪いが、それも諸々拘束させてもらった。お前はもう何も出来ない」
鎖で戒めただけで能力の使用を全て禁止する魔法の持ち主がなぜ序列六位なのだろう。
「魔法に頼ってばかりじゃいられないだろ?鎖で縛ったって、俺を引きずって走り回るやつはいるし、体術で俺をノックアウトさせる奴もいる。俺が六位なのは上の五人より体術が優れていないからだ」
魔人たちは意外にもリーシェに色々なことを教えてくれた。
機密情報を漏らしたことで戦争を起こしたのだから、てっきり無駄なことは何も喋らないかと思っていた。
それとなく緑髪の青年に聞くと、彼はその端正な顔に僅かな笑みを載せて言った。
「お前はもう、魔人の領土から逃げられなくなるからな。同じ種族のやつには教えてやるのが普通だろ?」
彼が言った言葉をしばらく理解出来なかったのは決してリーシェの頭が悪いからではない。
衝撃的すぎて思考が停止しただけだ。
真っ白になった頭の片隅で、少女は黒髪の少年の無事を祈った。
☆*☆*☆*
ラピスはやっとの思いでリーシェがいた場所まで到達した。
少女が炎を地面にぶつけてしばらくしてから、魔人軍の動きがさらに活発になりだいぶ時間がかかってしまった。
疲れた馬の首を撫でてまだ少し煙さが残る場所に到着した時、そこにもう彼女はいなかった。
大きい血痕と打撃跡があり、砕けた氷が地面に散らばっているだけだった。
最初に視認していた時にリーシェの前に立ち塞がっていた魔人たちもいなくなっている。
たどり着く結論は一つだった。
間に合わなかったのだ。
魔人族トップ十の一族の実力者たちに、リーシェは油断して足元を掬われたか何かして敗北したのだ。
血の痕を見る限り、また大きな怪我をしたのだろう。
ラピスは一度だけ地面を強く殴ると、突如として魔人が一気に消えたことで追いついてきたルブリスを率いてセルタへ向かった。
連れていかれたが、すぐに救出に行くことも出来ない。
ならばまずセルタに行き事実を伝える必要があると判断したのだ。
「必ず取り返す」と町の人々と約束をするために、少年はリーシェの帰還を待ち続ける町へ向かった。
まだ戦闘経験が少ない隙を狙われてしまいましたね





