第二十四話 ラピス様のおとうさんと会いました!
ラピスに真っ先に連れていかれたのは、王がいるという"王の間"だった。
荘厳な雰囲気の中、リーシェはラピスの父であり国の王である天上人と対面した。
上質な旅装に身を包む少女を品定めするようなねちっこい視線を送ってきた。
リーシェは深々と頭を垂れながら、王の言葉を待っていた。
やがて。
「顔をあげよ」
と、短く命令され背筋を伸ばす。
ラピスによく似た黄金の輝きが真っ直ぐリーシェを射抜いていた。
目の前にいるのは正に、国の頂点に君臨するものとしての風格や雰囲気、カリスマを放っていた。
人の機微に敏感なリーシェだからこそ、痛い程感じ取れた王の空気に無意識にうちに表情を引き締めていた。
「そなたがもう一人の伝説の存在か。よく来たな。我が息子より話は聞いている」
まだ発言を許されていないリーシェの代わりに言葉を発したのはラピスだ。
「父上。時間をとっていただきありがとうございます。この娘は近く来訪する魔人の代表に会わせるために連れて参りました。よって、代表が帰国するまでの間、城に住まわせてやってほしいのです」
ラピスの言葉に王は特になんの反応も見せず、黄金色の瞳でじっとリーシェを見つめた。
やがて、唐突に口を開いた。
「リーシェ、と言ったか。発言を許そう。余の質問に答えよ」
「はい。どうぞ何なりとお聞きください」
「そなたは死ぬ気はあるか?」
刃のごとき鋭い視線に、リーシェのなかで何かのスイッチが切り替わる。
イメージとしては、これまで大根を売ってきた商人が次の日に突然魚を売り始めるほど、真逆のスイッチが音をたてた。
この時、リーシェは自分がどんな顔をしているのか自覚していなかった。
笑っていた。
艶笑と呼んで差し障りない美しい笑みに、これまで無数の美女を見てきた王もわずかに目を開く。
無意識につり上がった口許を隠すように、ゆったりとした動きで右手を顔に持ってくると、手を介して言葉を放った。
「死ぬ気はありません。ラピス様に力を譲る気も、力を奪われる気もありません。私は争いなど望んでおりません。完璧な力など必要ありません。ただ平穏に生きること。平和な生を謳歌すること。それだけが、私の望みでございます。……ゆえに」
息を少し吸って、少女は真の強い心を覗かせながら王を牽制した。
「私のたった一つの願いを破壊するもの、阻むものは絶対に許しません。ないとは思いますが、それが例え人の上に立つ天上人だとしても」
平穏な日々を送ることに関しての執着は、本人が知っているより深いものだった。
あまり多くを望まないからこそ、これだけはと望んだものを何よりも慈しみ、庇護する存在。
それが、リーシェの本質だった。
王にも負けない程の、一種の覇気を出す2人の間に入り込める護衛兵はいなかった。
生唾を飲みながら、王子さまに助けを求める視線を送っていた。
それを感じ取ったラピスも、最初こそリーシェの別人のような雰囲気に驚いていたが流石の頭の回転の速さで父親を宥めた。
「父上。伝説の力については、お互いに協力することで完璧に近い能力を発揮させると、報告書でお伝えしたはずです」
"わざわざ挑発するとは大人気がない"と言外に言うと、ようやく緊張感が和らいだ。
「うむ、そうだな。リーシェ殿。失礼をした。息子の力が奪われかねないと考えると、どうしても警戒してしまってな。客人と会うことは許可しよう。城の案内は、我が息子から受けるように」
玉座の肘掛けに頬杖をつくと、いくらかリラックスした様子で目を閉じる。
どうやらそれが退場の合図らしく、護衛兵が退室を促した。
「お前……あんな顔できるんだな」
廊下を歩きながら突然、ラピスが驚いたように呟いた。
もちろん、自分がどんな顔をしていたかなど分かっていないリーシェはただ首を傾げるだけだった。





