第二十三話 王都ラズリに到着です!
収穫祭から三日後。
ビーグリッドへ資源を届けに別行動していた調査隊がセルタへ戻ったのを確認して、リーシェは王都へ旅立った。
事情が事情なだけに、アンたちも少女の遠出を快諾してくれた。
今リーシェは、空の旅を楽しんでいた。
ラピスが発明した、梟を調教する機械『梟と仲良し機(仮)』は首輪の形状となっていて、梟の首の自由を奪わない程度に優しく装着されていた。
巨大な梟は軽々と人間二人を乗せて、快速で飛行中だ。
万が一にも落ちることがないように背中には専用の鞍がつけられていた。
ラピスの腰に抱きつきながら、リーシェは川の流れのようにあっという間に流れていく地上の光景にすっかり興奮していた。
「わぁ……!見てくださいラピス様!町です!セルタとは別の町が見えます!とても大きくて、遠目でも分かるほど発展しています!」
「見えたな。あれが王都ラズリだ。十数キロ離れてるから小さく見えるが、近くまで行くと圧巻の広さだぞ」
ずっと遠くに見えた人の生活圏を指で指すと、ラピスはそう教えてくれた。
思っていたよりも、梟は早い速度で飛んでいたらしい。
ちなみに、本来なら容赦なく顔を叩くはずの風はラピスの力によって軽減され、髪を優しく揺らす程度のそよ風レベルになっている。梟の速さを認識できなかったのは、風が穏やかだったからかもしれない。
どんどん近づいてくる王都は、西の大陸……もしかしたら東西南北すべての大陸になかでももっとも発展しているといわれている場所で、ありちあらゆる発明があの場所から生み出されているらしい。
文明を進める発展をしている天才こそ、リーシェと一緒になって空からの眺めに目を輝かせている目の前の少年だが、なんだか今の姿からは全く想像がつかなかった。
「どうした?意味深な笑顔を浮かべて」
「いいえ。何でもありません」
リーシェの生暖かい視線に気づいた少年が首を捻るが、少女は不自然なほど素早く乾いた笑みを浮かべた。
そうこうしているうちに、王都の真上へ到着。
賢い梟は、ラピスがなにも指示を出さなくても専用の出入り口へ降り立った。
ゆっくりと降下する梟の着地場所付近には、既に多くの人々が敬礼をして出迎えていた。
全員、上等な装備を身に纏い固い雰囲気を持っている。
セルタに初めてやって来たラピスと調査隊が纏っていた雰囲気とよく似ていた。
梟の足が地面について、ラピスと一緒に背中から飛び降りる。
その勢いでリーシェが来ていた旅装がふわりと風で膨らんだ。
いつもはポニーテールで纏められている髪も今は下ろされ、真っ直ぐ背中を流れている。
美しい赤髪を途中で隠すように首に着けられているのは、大きめのフードだ。翡翠の宝石で両端を止められて、本来の用途に使われることなく肩の上に乗っている。
着ているのは水色のノースリーブのワンピースだが、体に走る傷痕を隠すために肌の露出は様々な方法で必要最低限になっていた。
この装備は、最初からリーシェをラズリに連れてくる予定だったラピスが予め用意していたもので、恐れ多くも材質は最上級の絹が使われていた。
王子さまが出発したときはいなかったはずの人物に、出迎えてくれた人たちは内心困惑中だろうが、それを表に出すことはなかった。
「「おかえりなさいませ!ラピス・ラズリ王子殿下!!」」
「ああ」
はっきりと揃った挨拶に彼は短く返しただけでさっさと歩いてしまう。
その姿は、まるで反抗期を迎えた子供のようだった。十四歳。時期が時期なので仕方のないこととは分かっているが、これでは出迎えてくれた人たちが可哀想だった。
なのでリーシェがしっかりとお礼を言っておく。
「みなさん。お忙しいところ、このように素晴らしいお出迎えをしてくれてありがとうございます。私はリーシェ。この度、ラピスのご提案によりしばらく王都ラズリに滞在することとなりました。短い間かもしれませんが、どこかですれ違った際は挨拶をしてくださると嬉しいです。これからも、お仕事頑張ってください」
深く頭を下げてろくに彼らの顔も見ずにラピスの後を追うと、しばらくしてから少年が呆れたような視線を向けてきた。
「何をしているんだ?お前」
「何って、挨拶ですよ?」
「いや、分かってるんだが……」
「ラピス様はなぜここへ来た途端、雰囲気を硬くしているのですか?このお城はあなたの家なのでしょう?」
何気なくそう問うと、彼はバツが悪そうに言った。
「苦手なんだよ。この場所が」
その言葉に隠された本当の意味を、リーシェはまだ知らなかった。
ただ、彼の苦しそうな無表情の顔が目蓋の裏にしっかりと焼き付いた。





