第二十二話 今後もお世話になります!
数時間後。ちょうどお昼を過ぎた時間帯に野菜スープは出来上がった。
数十分かけて、全員にスープが波々と盛られた器が配られて、町長のリーが収穫祭の司会を勤める。
「え~、今年もこうして無事、作物を収穫できたことを祝って、杯を掲げるのじゃ!皆の豊作と、来年の豊穣を願って……乾杯!!」
「「「かんぱ~い!!!!」」」
スープ湯気をたてる器があちこちで高々と持ち上げられ、お腹を空かせた子供たちが必死に冷ましながらスープを啜り、野菜を頬張っていく。
「旨い!すげぇ旨いよ!かーちゃん!」
「当たり前だろ!誰が監修したと思ってんだい!」
「すげぇ!!さすがかーちゃんだな!!」
シュウとアンが仲睦まじい会話を繰り広げて、アンは当たり前だと胸を張しつつも耳を真っ赤にさせていた。よほど嬉しいようだ。
リーシェとラピスも、熱いスープをスプーンで掬って一口食べる。
とても優しくて力強い、アンらしい味付けのスープの美味しさが口いっぱいに広がった。
「おいしい……」
「ああ。正直、王宮の料理にも勝るとも劣らない味だ。驚いたな」
王宮で出される食事は毒味やら何やらをしているうちに冷めてしまうので、今のように出来立てを食べたことはないという。
初めての出来立ての手料理がこんなにおいしいスープだったら、ラピスはきっと王宮で出来立てを渇望することになるだろう。
おかわりはたくさんあるようで、すでに食べ終わった人たちが長蛇の列を作っていた。
鍋の中身がなくなる頃には、同時進行で作られていたつまみが振る舞われて大人たちは酒を飲んで大いに騒ぐ。
子供たちには手作りのお菓子が配られて、みんな笑顔で収穫祭を楽しんでいた。
そして、催しも中盤に差し掛かった頃少し興奮気味のリーの声がマイクで全体に響く。
「え~それでは。五ヶ月前に新しくセルタに加わり、良い変化をもたらしてくれたリーシェより一言貰おう。リーシェや。こっちへおいで」
ラピスに背中を軽く押されて、町長が立つ壇上の上へ上がる。
リーから未使用のマイクを渡されて、ニコリと微笑まれた。
緊張しながら、少女は自分が思っていることを素直に伝え始める。
『まず初めにお礼を言わせてください。素性も分からなかった私を、温かく迎え入れてくれて本当にありがとうございます。
診療所で目覚めた私が悪い人じゃないかどうか。その試練から、私のここでの生活が始まりました。今思えば、あの時なんて失礼なことを言ってしまったんだろうと、反省するばかりです。
そんな私を、みなさんは怒らず、優しく接してくれました。家も畑も贈ってくれました。
上から目線かもしれませんが、私はセルタとそこに住まうあなた方をとても誇りに思います。
今から三ヶ月前。私の本当の正体が明るみに出ました。
私は伝説の存在の片割れであることは、みなさんはもう承知のことと思います。
いつ何に狙われるか分からない。もしかしたら、私が原因で町に被害を出してしまうかもしれない。
魔境谷から戻ったとき、私はそう言いました。
それでもみなさんは、私を捨てないでくれた。さらには、両親の遺体を森に埋葬する許可もくれました。
ビーグリッドで虐げられ、優しさなど知らなかった私に、あなた方は最上級の優しさを教えてくれました。改めて感謝を述べさせてください。
こんな私に優しくしてくれてありがとう。
こんな私を捨てないでくれてありがとう。
私に幸せを教えてくれて本当にありがとう。
そのお礼の証明としては足りないかもしれませんが、私はセルタをどんな危機からも守ると誓います。私に刻まれた伝説の力は、みなさんを守るために与えられたのだと、私は思うのです。
今この場所を借りて、"守護の祝福"をお送りいたします』
マイクを通して、美しい言葉が空気を振るわせ鼓膜を揺らす。
マイクを持っている方とは別の手を夕焼けの空へ向けて、リーシェは紡いだ。
『護ろう 愛そう 慈しもう
この力は御身のために 我が力は汝のために
古よりこの身に宿された 愛女神の灯火よ
焔氷刻 守護一陣 』
その瞬間、町中に浸透する温かい光。
途端に分かるのは、明らかにその光によって守護されている感覚だ。
誰かに抱き締められているような。心のそこから安堵できる感覚が、人々に安寧を与える。
『これから何が起きようと、私はあなた方を守ります。
ですから、どうかいつまでも元気に生きてください。
これからも、私をよろしくお願いします』
深々と頭を下げる。
これまでよりもずっと大きい歓声が響いて、リーシェは笑顔を浮かべながら壇上を後にした。
後にセルタは"伝説の少女の加護を受けた永劫平穏の地"として名前を轟かせることになるが、それはもっと先の話だ。





