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僕の最大の目的

 長い夢を見ているようだ。

 獣たちの王として君臨して、覚えている年月は数百年。


 断片的な統治の記憶の底に、ただ一つだけの明確な願いを抱いている。

 それは気が遠くなるほど遥か昔の、小さな……けれどとても大切な『約束』。この魂がこの世界に産み落とされた時に契った、存在の契約。


「"その時が来たら俺を殺しに来い"」


 誰と交した約束かだけは忘れずに胸に抱き続けた。この魂と力はそのためだけに、永遠にも思える年月を消費してきた。


 その時とはいつだろう。考えなくたってすぐに分かった。約束を果たせる戦力が整った時だ。つまり『伝説の存在』が半神に至り、あの絶対的な存在を打ち倒せる可能性が出てきた時。

 そう。まさに今だ。


 覚えているだけでも数百年。覚えていない分を考えればそれこそ数千年以上。待ち続けた時がようやくやって来た。


 長く永い歴史の中で形を大きく変えることなく聳える居城の一室で、安堵にも似たため息を吐いた。


「どうした?レウス」


 背中に声がかかる。

 獣の王の異母兄弟。本来ならありえないはずの肩書きを背負う青年は、まるで僕の色違いだ。


 白亜の髪を気まぐれに紫に染める長髪。動きづらいとの理由で面積の少ない服。人型であれば僕の従者兼話し相手であり、獣型であれば僕の忠実な騎馬となる。


 魂は数千年以上変わらず。しかし体は何度も燃え尽き、その灰の中から生まれ直してきた。わずか数日の子供時代を、純粋な親切心で世話をしてくれた女性がいた。三百年ほど前だったか。僕より先に保護していた白い子馬と育てられた。

 それがこの青年だ。僕と同じ、非常に数が少なく普通の生命循環からは生まれてこない、イレギュラー的な獣種。


 女性からルキアと名付けられた青年がどこでどのように誕生したのかは、本人も分からないため説明のしようがない。

 だけど代わりに僕のことなら語ることができる。


 獣の王もかつては自我の薄い子竜だった。『魔境谷』の最奥、ダンジョンの最下層で新たな神の誕生と同時に生まれた。神に創られた子供。神が最後の『人間味』を全て捧げた、希望の竜。それが僕だ。まだ生まれたてでぼんやりとしていた時、全く同じ容姿の神は僕と小指を絡めた。そして、先程の約束を交した。


 唯一絶対神が創り出した、唯一絶対神の終滅装置。星の誕生と共に繰り返されてきた悲しき『神の役作り』を終わらせるための、最終手段。


 だから僕は神を討伐する。神がいない世界を創り、神になる犠牲者をなくす。それが親の望みであり僕の望み。明確にして最大の存在理由。


 いよいよだ。ようやく約束を果たせる。

 眷属との戦いで想像以上に消耗した者たちの治療も、僕が直々に行い快癒している。欠けた腕は、生身よりも強力な竜の筋肉で形成させておいた。


 声をかけた青年に振り向き、僕は心の底から喜びの笑みを浮かべた。


「神討伐のために集めていた戦力を召集しろ」


「あぁ。……やっとだな」


「時は来た。いよいよ開戦の狼煙をあげる時だ」


 全てを知っている青年は、力強く歩き出した獣の王の後ろを追いかける。

 神討伐の開幕まであと四十八時間を切っていた。


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