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ぶつかり合う思念

 表情の動きが乏しかったはずの少女は、口も端を大きく釣りあげ声高々に笑っていた。肩が揺れ動く度に、黒いマントが海のように波打つ。


「これで!これでこの身体は私の物だ!」


 喝采を受けるように高く大きく広げた両腕が、飛来した長剣に勢いよく切断された。吹き出たのは血ではなく黒い粒子のようなものだ。


「喜びに横槍を入れるとは無粋なガキめ」


 眷属の言葉にアズリカは冷えきった声で答える。


「は?寧ろ敵の前でよく的をデカくしたな。いいからさっさと来いよ。俺は怒ってるんだ」


 据わった目には強い殺気が宿っている。青年は自分の両隣に幾本もの武器を無秩序に出現させた。アズリカの怒りを表すかのようにギラりと光る切っ先に、眷属は笑いながら首を傾げた。


「はて?貴様が怒ることなどしただろうか?私はこの身体の持ち主に悪戯はすれど、貴様には何もしていないはずだが」


「……お前はシノブの感情に反応して利用しようとしたんだろ?」


「その通りだ。あの感情は実に良い音色を奏でていた。怒りを主軸に創られた私にとって最高の依代だった」


 さも当然のように、当時の興奮を思い出して身震いする眷属にアズリカは一気に武器を射出した。

 腕を再生させた少女は暗器で全て叩き落としていく。


「よく聞け!心、感情、選択。それはいつだってソイツのもんだ!外部から弄んで捻じ曲げちゃいけないんだよ!」


「知らんわ、そんなこと」


 霞む速さで投げられたクナイをアズリカは軽々と避ける。眷属は無限に暗器を生成できるらしく、射出される武器同士の火花があちこちで散った。


「そんなのどうでも良い。私は私の感情を最優先させる。手始めに、まずは貴様から破壊してやろう。我が怒りの矛の威光に跪くが良い!」


 投擲され続けるクナイが赤黒く輝く。紅黒のオーラを纏い、自由自在に飛び始めた。叩き落とされた暗器も呼応するように動き出す。


 対処する武器が一瞬で倍以上に増えてアズリカは舌打ちをした。そして修行をしておいて正解だったと、己の悪運に感謝する。ラーズとの鍛錬がなければ今頃呆気なく殺されていただろう。


 相手の武器が増えたのなら自分も増やせば良いだけのこと。暗器より多く武器を精製し、あの気に食わない眷属をすり下ろしてしまおう。


「馬鹿が!跪くのはお前の方だ!」


 暗器の数五十に対し、青年の武器は七十。十分に対処できる。

 勝てる、そう確信したその時だった。


 トン、と軽い衝撃が胸を穿ったのは……。


「っ!?」


 そっと視線を落としたアズリカの瞳に映ったのは、自分の胸に深々と突き刺さった漆黒のナイフだった。


「暗器への対処に気を取られすぎたな。おかげで貴様自身ががら空きだった」


 眷属の声がまるで死刑宣告のようにやけに大きく響いた。


 ☆*☆*☆*


 ラピスとフェンリルが睨み合っていたのは僅か数秒程度だった。言葉を交わすまでもなく、戦いは始まっていた。


 戦況はラピスの劣勢。エンチャントで己を強化していてなお、フェンリルに攻撃が届かなかった。

 着実に蓄積されていくダメージを他所に、少年は考え続ける。

 フェンリルに対抗するにはどうすれば良いのかを。


 どうすれば良いのかは実はもう思いついている。正しくはそれを実行するための時間をどう確保するかを、戦いの最中で思案していた。


『知の力』の持ち主に相応しい処理速度で、フェンリルの攻撃の対処と、方法の模索を同時進行させていく。

 心ここにあらずの少年にフェンリルは獰猛な笑みを浮かべた。


「一人で戦うのは初めてで怖気付いているのか?ここに、貴様を助けてくれる仲間はどこにもいないぞ」


「……仲間ならいるさ。リーシェとアズリカが戦っている。それだけで俺も頑張れる」


「ハッ!戯言を!だが現にお前は押されているぞ。上手く致命傷を防いでいるようだが、いつまで続くか見物だな」


 会話の途中でラピスはようやく方法を思いついた。フェンリルの攻撃的な笑顔とは対照的に、知性を感じさせる笑みを口元に刻む。


「一人だからこそできることもあるだろう?」


 底知れない笑みになぜかフェンリルの背筋を戦慄が走った。同時になぜ少年如きに自分が恐怖しているのか、という苛立ちに一瞬動きが止まる。

 その隙をラピスは見逃さなかった。


「ヒューマンエンチャント"オールラウンダー" "バーサーカー"」


 いつも知性の輝きを称えていた黄金の瞳からそれが消える。まるで獣のように真っ直ぐフェンリルを睨む少年は、明らかにラピスとは別存在であった。

 フェンリルは一目見てラピスが何をしたのかを察する。


 少年はエンチャントで狂戦士となったのだ。理性を無くし、敵を葬り去ることだけを渇望する獣と成り果てた。確かにこれはリーシェたちと一緒にいたらできない荒業だろう。

 理性が無くなるということはすなわち、生きることを強く望む人間の第六感が封じられるということ。しかし、これを考慮してもなお些細であると感じるほど、少年は強大な力を手に入れていた。


 片や理性を捨てた獣。片や神を殺す獣。

 獰猛な戦いの幕が切って落とされた。

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