表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/207

竜と少女の出会い

 メイティアと名乗った美しき少女は

 傲慢そうな口調の割に優しい性格をしていた。


 問えば答えるし自分から率先して大陸について教えてくれる。おかげで、短時間の間にリーシェたちの知識量は増えていた。


 中でも特に興味をそそったのが、『獣人族』の誕生の歴史だ。


 東の大陸はこれまで小さな争いはあれど、平和に歴史を紡いできたらしい。

 唯一絶対神が四つの大陸を形成し、四種族の原初たちへ言葉を残した『創造神話』より前の話。


 東の大陸の果てにある湖に一体の竜が誕生した。純粋な力の強さのみを重要視し、破壊衝動だけで欲を満たす悲しき竜だった。

 竜は最初、一人ぼっちだった。広大な大地にポツンと存在し、ひどく退屈していた。


 大地を壊し空を割り、文字通り天変地異を起こして暴れ回っていた竜の元に、一人の少女が訪れる。


 愚かなまでに優しい少女はか弱い人間だった。夕暮れ時のような赤紫色の髪は鎖骨まで伸びていたらしい。

 荒ぶる竜が起こす攻撃の余波に髪を揺らしながら、少女は毅然と竜と相対した。


 片や破壊の暴虐竜。片やひ弱な人間の少女。

 真逆の性質を持つ双方は互いに惹かれ合う。


 竜は少女が語る世界の姿に憧れを抱いた。

 少女は全てから大切なものを守れる力に憧れを抱いた。


 やがて竜と少女の間に一人の子供が生まれる。

 強大な力と優しき慈悲を兼ね備えた、黒紫の髪の男の子だ。


 高い知性を備え豊かな感情を持った子供は、三歳ほどになると友を欲しがるようになった。


 この頃には少女と同程度の感情を有していた竜は、その強大な力を初めて創造することに使った。

 自分で破壊した大地を回復させより頑丈な地面へと作り替えた。色とりどりの花を咲かせ、草木を芽吹かせる。穏やかな風を吹かせて、最後に様々な『獣人』を創り出した。


 竜族を除けば、ほぼ全ての動物を生み出し人の形と知性を与えた。

 男の子は数多いる獣種の中で唯一『幻馬族』の少年を友と認めた。


 東の大陸は瞬く間に発展を遂げていく。小さな村が大きな街になり、やがて都市や国に進化していく。その過程で起きた小さな争いで、獣種の数も多く減ったらしいが生き物の摂理として竜も少女も特に気にとめなかった。


 竜と番になった少女は人の身でありながた長寿の肉体を得ていた。竜が死なない限り少女が寿命で死ぬことはなかった。


 だがある日、最大で最悪の事件が起こる。

 少女が忽然と姿を消してしまったのだ。


 何のきっかけもなく、穏やかな昼下がりにぱったりと消息が途絶えた。

 竜は怒り狂った。最初の三日は帰りを待って息子と静かに過ごした。四日目で我慢の限界を迎え都市を一つ滅ぼした。六日目まで竜は暴れ回り、数十あった都市や国はそれぞれ三つずつまで数を減らした。


 そして七日目。怒りが収まった竜は嘆き悲しむ。慟哭はやがて涙となりため息は嗚咽混じりの吐息になった。その後の竜の姿を見たものは誰もいない。


 それから現在に至るまで、東の大陸は雨が降り続け霧が煙り続けている。

 まるで消えてしまった竜の涙が雨に、吐息が霧になったようだと言われている。


 残された男の子は大陸の再建に尽力したという。


「伝承ではここまでしか伝えられていない。だが、竜の子が半永久的な寿命を持っている故、どこかで生きていると言う説もある」


 リーシェと同じ傘に入ったメイティアが、スラスラと語ってくれた伝承。その内容はやけに具体的で、作り話のようにも思えた。真実がどうかはどれだけ考えても分からない。もし本当なら、少女が消えてしまった理由が知りたかった。


「黒紫……と聞くと俺はアイツを思い出すんだがな」


「奇遇だなラピス。俺もだ」


「彼と深い関わりがありそうですね。メイティアは竜王に会ったことはありますか?」


 リーシェら三人の頭に思い浮かんだのはレウスの笑顔だ。しかも悪いことを考えている方の黒い笑顔。かの青年の髪は、艶やかな黒髪に何房か紫色の毛が混じっていた。そしてレウスは竜王だ。

 伝承が本物ならレウスが竜の子で間違いないはず。


 リーシェの問いかけにメイティアは首を横に振った。


「見たことは無いな。だが、聞いたことならある」


「噂……とかですか?」


「そのような不確定な情報ではない。竜王本人の声で聞いた情報だ。『自分には伝承のような記憶はないし、そんなに長生きしているつもりもない』と言っていた。伝承は何万年も前の話だ。いくら竜の子でも、そんなに生きていられるとは思えない。例え半永久的な寿命でも、魂に限界が来るだろう」


「……しかし、本当に竜の子が生きているのだとしたら厄介になるのでは?」


「その時はその時だな。ほら……次の街が見えてきたぞ」


 キメの細かい白い指が前方を指さした。残念ながら深い霧でそんな遠くまで見えないリーシェたちは、近づいてきた街が全く見えていない。


 目を眇めて歩くこと十分。

 ようやく新しい街の姿をその目に捉えたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ