閑話 : 神の眷属の心中
この世界はあまりにも出来が悪い。
人も在り方も何もかもが気に触る。
どれほどの争いを生もうと最後には綺麗事で片付けられてしまう。
どれだけの悲劇を起こそうと結果はいつも「人の前進」と決まっている。
こんな世界になんの意味がある?一体なんの利益がある?
何千年も前に口を閉ざしてしまった神は、眷属の問いに今も沈黙を貫いている。
耄碌した神。その目は既に盲いている。
知恵の果実は砕け、最盛期の面影はどこにも見当たらない。
可哀想な主。疲れてしまったのだろう。
哀れ極まりないその姿を、誰にも晒したくないのだろう。
ならばその椅子は眷属が貰い受けよう。
休んで欲しい。ゆっくり眠ってほしい。
ただそれだけだった。
その願いを叶えるために心を闇に染めあげた。世界を壊す計画を立てた。同じ眷属を裏切って、主が力を与えた者すらも排除しようとした。
主が創ったものを無に帰さなければ、主は世界の滅びまで命を尽くすだろう。自我があやふやな状態でなお、己の箱庭のために命を削るのだろう。
主の為に主の世界を破壊する。
主の役目は自分が責任を持って全うしよう。
自分が神となる。
世界を壊し世界を造り新たな箱庭を立派に管理してみせる。
あぁ。だけど……誰も自分のことを分かってくれないんだ。
死ぬ訳には行かないと灰から復活すれば誰もが化け物を見る目で自分を見る。
主の救済に一歩近づいたと笑えば誰もが恐怖に顔を歪める。
主が選んだ心優しき赤毛の申し子も黒髪の申し子も、その友人たちですら。
異質な目で見てくる。
どうしてそんな目で見る?
誰だって喜ばしいことがあれば笑うだろう。
腹立たしいことがあればどこかにぶつけるだろう。
目標に近づけば味をしめて覚えようとするだろう。
同じなのに何が違うというのだ。
計画を遂行するために最善の策を取っているだけだ。
何かを利用するのもそれが必要だから。
すべては全てを捧げた我が主の為。
大切な我が主の為。
自分の青い髪を揺らす穏やかな風が憎らしい。
赤い目を射る日差しが鬱陶しい。
人々の笑い声が。街の喧騒が。こんなにも腹立たしい。
こんなに頑張っているのに世界はなかなか壊れない。
なんて無力なのだろう。己の力じゃ計画が達成できない。
強者の力を借りなければ世界は壊せない。
だが強者はこちらを殺そうと武器を取る。
強者の心は真っ直ぐで自分と比べれば反吐が出るほど清らかだから。
退屈な御託とくだらない正義感で奮い立ち世界を救おうとする。
綺麗事も正義感も砕いて手駒にしようとした回数はもう数え切れない。
どうしても上手くいかない。
つい最近、やっと納得した。
主がそういう風に世界を創ったから。
自分の目的を阻んでいるのは他ならない主なのだ。
だけど、もう少しで上手く行きそうな者がいる。
精神的に未熟で非常に不安定。平穏に渇望し、平和こそがすべてだと思い込んでいるあの少女。
この前は惜しかった。あと一息で手駒にできたのに、世界のシステムに邪魔をされてしまった。
これまで見てきた強者たちの中でもあの娘は異質だ。
力の伸びしろが計り知れない。
精神の反転が極めて起こりやすい。
あの娘の中に眠っている負の感情を呼び覚ませばきっと上手くいく。
これがラストチャンスだ。
蘇生の術はもう使えない。世界のシステムに封じられた。鎌は折られ、眷属としての力は大きく減衰している。
失敗すれば手駒にしようとした少女に討たれるだろう。
行き先は決まっている。
最後の大陸で待っていれば必ず現れる。
傷は癒えた。出発しよう。
すべては主の為に。
この世界を壊すために。
ゆっくりと立ち上がり、くせっ毛の青髪を指で払う。
沈む太陽が山に消える。
同時に眷属はその姿を影に沈ませた。





