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俺の魔法

 崩れ去った発展の中心地で熾烈な戦いが繰り広げられている。


 伸縮自由自在の獲物を呆気なく砕かれた悪魔は、その体を武器にして敵対者を相手取っている。


 アサシンの如く悪魔に肉薄し黒紫の鱗を剥がしていくジュアン。

 真正面から斬りかかり悪魔の意識を大きく集めるリン。

 その存在に付与された称号に相応しい強さで確実に攻撃を加えていくリーシェ。

 血肉を飛ばして戦う戦士たちを多大なる力でサポートし、己もまたタイミングを見つけてはアタックしに行くラピス。


 実力者たちを相手に互角に立ち回っている悪魔は、横に大きく裂けた口をさらに吊り上げた。未だ余裕の色は消えず、四人を相手に余力を残しているのがありありと窺える。


 アズリカは激しい戦闘の外野にいた。

 青年の髪を揺らすのは戦闘の余波であり、戦塵ではない。

 青年の心を掻き立てるのは戦闘の高揚感ではなく、何も出来ない自身への苛立ちである。


 十日前も味わった辛酸を再び舐めているアズリカは、真顔で戦いを見守っていた。

 無論、立ち尽くしているわけでも、力の差に絶望しているわけでもない。


(今、俺に何ができる……?)


 ただ考える。

 鎖の使い道を思考し、己の戦法の最善策を模索する。


 かの国ではアズリカの存在意義を乗っ取っていた『拘束魔法』。

 種族固有能力として『魔法』を持つ魔人族には絶大な効果があり非常に強力だった。


 だが『魔法』を使える者などこの場には味方であるリーシェしかいない。

 最大の特徴である『魔法封じ』が使えないのなら、アズリカの『拘束魔法』はただの鎖だ。


 それでは力不足だ。何の役にも立たない。


「一体……どうすれば……」


 剣戟の音を聞きながら考えていると、サポートのために戦場から一時的に離れたラピスが青年の方肩を叩いた。


「アズリカ。お前、十日前のことを忘れたのか?」


 煽っているのだろうか。アズリカに力不足を強く実感させたあの時のことを忘れられるはずがなかった。


「もう一発殴られたいか?」


 拳を作ると黒髪の少年は呆れたように笑った。


「違う違う。俺がお前の魔法を跳ね返した時のことだ」


「……お前が跳ね返した鎖に巻かれて俺は気を失った」


 そのせいでリーシェを追い詰めさせてしまった。


 反省は後回しにしてラピスの言わんとすることを予想する。

 確か、少年は「リフレクション」と言って跳ね返したあと「アウェイク」と言っていた記憶がある。


「『アウェイク』ってなんだ?」


「跳ね返したものに成長段階がある場合、それを一時的に最高段階まで引き上げるエンチャントだ」


「ッハ。なんだよそれ」


 規格外な付与効果に思わず笑いが込み上げた。

 つまり、少年が跳ね返したあとそのエンチャントを使えば、反射した対象を最も優秀なレベルにまで成長させるのだ。


 リーシェの『技の力』に使えばあらゆる攻撃を最大効力まで引き上げるだろう。

 この感覚で話せば、アズリカの『拘束魔法』には敵を一瞬で昏倒させる力があることになる。


 だが、それが分かったからと言って今実現できるかどうかは別問題だ。

 どれほど成長させれば昏倒させることができるのか不明なので、現状を大きく変えることはできないだろう。


「アズリカ。まだお前には謝っていなかったな」


 唐突にラピスが言った。そうしている間も戦いが続く戦場へエンチャント送り続けている。

 顔の横を流れる汗も拭わず少年は穏やかに笑う。


「謝罪の代わりと言っては何だが、今回はお前に力を貸してやろう」


「あれだけ俺と手を組むのを嫌がったのにか?」


「詫びだからな。勘違いするなよ!?今回だけだ」


 何を照れているのかラピスが顔を赤くする。こういうところは年相応だと思った。


「分かってるよ。それで?ラピスは何をしてくれるんだ?」


「俺に『拘束魔法』を打て。それを跳ね返し成長させる。持続時間は十分だ」


「跳ね返ってきた鎖は触れても大丈夫なのか?」


「悪魔にしか効かないように制御しておいてやる。自由に振り回すと良い」


 随分器用なものだ。

 反射する一瞬の間に『成長』と『特攻』をエンチャントできるとはラピス自身の能力の高さが知れた。


 ラピスの精一杯の詫びにアズリカはニヤリと笑った。結局、人の手を借りてしまったが一人で戦えることだけが強さではない。


 少年から距離を取って十本の鎖をラピスへ射出する。


「スペースエンチャント "リフレクション"。アビリティエンチャント "アウェイク"。アタックエンチャント "デーモン"」


 綺麗にすべて跳ね返されてなんだか悔しくなる。

 無事に戻ってきた鎖をすべて回収し、改めて少年と視線を合わせた。


 一回り成長し背もだいぶ伸びたラピスの顔つきは大人びている。

 曇りのない満月の瞳にアズリカは安心する。


「アズリカ。ありがとな」


 声に出すのは恥ずかしいのか口パクでラピスが呟いた。ああいうとことはまだまだ子供だ。


 彼を弟のように、ライバルのように思っていたアズリカは成長と未熟さを嬉しく思いながら戦場へ駆けていく。


 全身を少年の加護が包み、飛躍的に上昇した身体能力で一気に駆け抜けた。


 苦しくなっていた三人の戦士がキージスが起こした突発的な突風に姿勢を乱した。

 悪魔の腹が淡くオレンジ色に光っていく。


 大爆発が起こることを直感しリーシェたちの顔色が青くなった。


「お前ら!避けろぉ!!」


 エンチャントを纏った鎖が最大数放たれる。

 反応の早いジュアンとリンが真っ先に回避したが、ダメージが蓄積されているリーシェがワンテンポ遅れた。


 悪魔の肉体が膨れ上がる。

 爆発範囲に間違いなく含まれているリーシェの顔が照らされる。


 熱の暴走を明らかにするキージスの胴体を五本の鎖が貫いていく。

 キージスの目が閉じる。しかし爆発の兆候は収まらない。


 体が大きく膨れ上がる。


 アズリカの躊躇いは一瞬だった。


 鎖を限界の長さまで引き出し、明滅する悪魔の胴体に巻き付ける。

 当然、発生源であるアズリカは幾重にも巻いた鎖を挟んで悪魔とゼロ距離の形になる。


「アズリカ!!」


 何とか回避したリーシェがこちらに手を伸ばした。

 それを無意味と嘲るように悪魔は大爆発を引き起こす。


「ぐっ……!グゥゥ〜〜〜〜〜!!」


 凄まじい熱さがアズリカの肌を焼き焦がす。

 途方もない衝撃がアズリカの腕の骨を砕く。

 轟音がアズリカの鼓膜を破き少女の声をシャットダウンさせた。


 鎖を防御膜のように利用したおかげで爆発の被害は最小限に抑えられた。

 瀕死になりつつも何とか意識を保っていた青年は、戦いの終わりを焼けた肌で感じ取る。


 目も焼けたのか何も見えない。しかし目を開けている自覚はあった。

 皮膚を焼かれたので触覚もない。しかしリーシェの指が触れたのを感じた。


 すぐ横にいると思われる少女から温かな光が溢れる。

 聴覚が。触覚が。視覚が順番に回復し、最後に意識がはっきりする。


「あ……リーシェ……。無事だったか」


「アズリカの馬鹿!なんでこんな無茶したんですか!?あなた頭脳派じゃなかったんですか!?少なくとも脳筋ではないですよね!?」


 大声で捲し立てられて顔を顰める。


「う……。どっちかっていうと脳筋だ……」


 文字通り血を吐きながら戦っていた少女の口元は赤く濡れていた。

 指でその色を拭ってやりながら起き上がると、悪魔の体だったものが灰になっていた。


 まだ警戒を解いていないのかリーシェは目元を険しく歪める。


 キツい表情は遠くまで退避していたラピスたちが合流すると一瞬で消えた。


「アズ坊!いい活躍だったな!死んだと思ったぞ!」


「思ったより肝が座っているのね」


「俺も死ぬかと思った……」


 異国の二人の後ろからラピスが歩み出る。


「勝利を喜びたいところだが、まだ戦いは終わってないぞ」


「キージスの言っていたもう一つの計画がまだ明かされていません。何の考えもなく自爆するとは思えませんし、まだなにかあるはずです」


 少年の言葉にリーシェは賛同した。

 先程の警戒にはそういう意味があったらしい。


 だが、そう言う少女の口の端から再び血が溢れ出す。

 痛覚を遮断しているせいで体の状態が分からなくなっているリーシェは、重い動きで立ち上がった。


 嫌な予感がしたアズリカは咄嗟にリーシェの前に腕を出す。

 タイミング良く少女が前傾した。


 今までで最も多量の血で地面を汚した。

 真っ青な顔は血の足りなさを物語っていた。


「リーシェ!!」


「おいリーシェ!」



 アズリカとラピスが名を叫ぶ。意味のない叫び声が虚しく響いた。

 確実にリーシェの命の火は消えかけている。

 この場での回復の術はない。


 内蔵の回復を薬でどうにかできるほど、王都は医療面で発展していなかった。


 少女の危機に畳み掛けるようにして灰が巻き上がる。


「ふぅ。再生に少し時間がかかってしまいましたねぇ」


 灰から人の肉体を元通りに再生させたキージスが楽しげに笑った。


「嘘だろ……?」


 誰の声とも分からぬ声が小さく空気を揺らす。


「最後の計画こそわたくしが最も実現させたかった計画。その結果を見ずしては死ねませんねぇ。さぁ!皆様、ご覧あれ!!」


 芝居かかった動きで男が指を鳴らす。

 巨大な水晶が空中に出現し見覚えのある景色を映し出した。


 ラピスが景色の名を言った。


「あれは、セルタか」


 そして「ありえない……」と目を溢れんばかりに見開いた。


 王都から離れどこかへ派遣されていた兵士と騎士が、次々と穏やかな町の建物を襲っていたのだ。

 町民の悲鳴が水晶から響き渡る。

 赤い鮮血が町民の服を汚す。


 ラピス、アズリカ、そしてリーシェが最も恐れていた光景が繰り広げられていた。




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