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複雑な感情

 柔らかな寝台の上でリーシェは目を覚ました。

 だがぬくぬくふわふわと気持ちの良い暖かさに、開いたはずの瞼が再び閉じる。


「おい寝んな」


 頭を控えめだがしっかりとした強さで叩かれて、驚いて身を起こした。

 寝ていた寝台の傍には退屈そうな顔をしたゼキアが立っていた。


 常に不機嫌そうな三白眼を見てようやく状況を悟る。

 確か自分は致命傷を受けて死にかけたはずだ。もしかしたらこれは夢で、実は死んでいるのだろうか。


 せめて見るなら、ゼキアに叩かれる夢じゃなくてセルタの住民たちと笑い合う夢が良かった。


 そんなことを考えていると被っていた布団を勢いよく剥がされる。


「寝ぼけてんじゃねぇぞ」


「私……生きてる……?」


「当たり前だろ。死後のお前の夢に俺が出てくるなんてこっちから願い下げだ」


 なんだか辛辣な言葉に心が少し痛くなった。この痛みは間違いなく現実だ。

 白い雲のような寝台から出ると、ゼキアが静かにどこかへ歩き始めた。


「目が覚めたら連れてくるように言われてる。足は問題なく動くか?」


 太い棘に貫通された左足を見ると、不思議なことに跡を残さず治っている。腹部に手を触れても、刀が刺さったはずの傷もなかった。


 だがあの鮮烈な戦いが夢だなんてことはありえない。

 きっと、シュウナがリーシェも知らない力を使って治療してくれたのだろう。


 問題なく動く足で歩を進めて少年の後を着いていく。


 意識がはっきり覚醒してから気になっていたことを控えめに尋ねた。


「あの。女性の方……レリヤ様はどうなったのですか?」


 ゼキアは前を歩いたままこちらを見ず淡々と答えた。


「死んだぜ。何がお気に召したのか、笑って死んでいきやがった」


「そう……ですか」


 もっと良い方法があったのではないかと自問する。殺さなくても和解できる可能性があったかもしれない。

 争いが嫌いなリーシェだが、争わずに解決出来ることばかりでは無いことを知っている。


 だから必要ならばこの手を血に染める覚悟も……できている。

 だが人を殺すことに何も思わないわけではない。


 少しの後悔と大きな罪悪感が、初めて人を殺したあの日からリーシェの心に影を落としている。


 ダンジョン十五階層で死神になったスティの首を切り落としてから、リーシェは無意識に考え込むことが多くなっていた。


 自分にもっと力があれば、と悔やまない日はない。

 自分にもっと知恵があれば、と渇望しない日はない。


 もしもリーシェに「知の力」があったなら……。


 そこまで考えてリーシェは勢いよく首を振った。

 馬鹿だろうか。一体何を考えているのだ。


 あの力を手に入れるためには、片割れであるラピスを殺さなければならない。力のために大切な友達を殺すなんて、リーシェは絶対にできない。


 そうしないために、あのダンジョンで神を殺すことを決意したのだ。


 握った拳で知らないうちに頭を抑えていたリーシェを見ていたゼキアが、気遣うような表情を見せた。


「あまり自分を責めんなよ」


「え?」


「どうせ、もっと良い手段がどうとか考えてんだろ。無駄だ。あの女はあの時殺さなきゃ、大陸に平和なんざ訪れなかった」


 感情の読めなかった声に僅かに心配そうな音が混ざる。


「お前は正しい選択をした。たとえどんな絶望があの女に降りかかったって。どんな不利な状況になったって。レリヤは死ぬまで敵対してきた。アイツはそーいう女なんだよ」


「……随分と詳しいのですね」


「……実はな、俺とアイツは元々幼馴染なんだよ」


 躊躇いながら告げられた言葉。その内容にリーシェは暗かった思考もどこかへ投げて、目を大きく見開いた。


「あることがきっかけで完全に縁を切った」


「あること?」


「レリヤはキリヤにとって仇なんだよ」


 またもや驚きの内容。

 止まってしまいそうになる歩みを進めながら、リーシェは脳を回転させた。


 ゼキアの幼馴染であるレリヤは、キリヤにとって仇。恐らくそれをきっかけにしてゼキアは幼馴染と縁を切ったのだろう。


「あんま俺の口からキリヤは言って欲しくねぇだろ。詳しいことは本人に聞け」


 キリがいいのか悪いのか、ちょうど目的の部屋に着いたらしい。


 基本的に自由に生きているゼキアに指示を出せる人物は、二人ほど心当たりがあった。

 一人目はキリヤだが、何となく扉の向こう側から感じる威圧感的にシュウナの予感がする。


 入室した部屋には案の定シュウナがいた。なんだか不機嫌で、部屋の真ん中で仁王立ちしている。


「遅い!」


「ご、ごめんなさい……!?」


 何故か怒られて、反射的に何故か謝ってしまった。

 ゆっくり歩いたつもりはなかったが、シュウナにとっては長い待ち時間だったらしい。


「寝坊助……いやこの場合は寝坊嬢め。治したその場でひょっこり起きるかと思ったら、三日も眠りおって」


「三日!?」


「お前が寝ている間に、これまでの犠牲者の埋葬は済ませておいた。……大半は中身が空っぽじゃがな」


 再三の驚きに見舞われるリーシェを尻目に、シュウナは椅子に腰かけた。


「今日お前を呼んだのは、お前に話しておきたいことがあるからじゃ」


 リーシェも椅子に座りながらゴクリと喉を鳴らす。

 真剣な顔でシュウナは言った。


「『伝説の力』。その全能力と影響について」

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