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だから僕は叫ぶ

シルビアでの物語はそろそろ幕を閉じる予定です


たくさん評価していただいて作者も嬉しいです!未熟な文章ですがよろしくお願いいたします!

 黒焦げになったレリヤの体が力なく地面に倒れた。すでに絶命しているのに、その唇は弧を描いている。彼女の味方であったはずの者たちもその不気味さに言葉を失っていた。


 雷がなりを潜めた灰色の空の下。

 この場で誰よりも高い場所にいる少女の瞳の色が、少しずつ失われていく。


 風穴が空いた己の左足と胴体を茫然と見下ろし、やがて意識を失ってグラリと落下した。


 華奢な体が茶色い地面に叩きつけられれば、風前の灯火となっている命も散るだろう。


 受け止めんと駆け出そうとしたゼキアの横を、もう1人の金髪の少年が駆け抜けていった。


 半ばスライディングするようにギリギリのところで少女の体を受け止める。

 そして悲鳴にも似た声で名を呼んだ。


「リーシェ様!目を開けてください、リーシェ様!」


 身体中を自分の血で染め上げ、風穴を2つ空けている姿にキリヤは泣きそうな顔をした。

 白い包帯が服の下に見え隠れする少年は、勢いよくもう1人の赤髪の少女を見る。


「シュウナ様!お願いです!リーシェ様を助けてください!!あなたなら、致命傷を治すことも可能ですよね!?」


「あぁ。致命傷の治療はもちろん1度だけなら死者をも蘇らせることができる」


「それなら今すぐ……!」


「じゃが断る」


 少なからずリーシェを気にかけていると思っていたキリヤは、拒絶に言葉に目を大きく見開いた。その間も少女の小さな体からは血が溢れ続けている。この事実は、キリヤの焦燥をより大きくさせた。


 ゼキアも信じられないといった表情で隣のシュウナを見た。


「わしがリーシェを助ける理由は特にない。いわば、奴はわしの劣化版に過ぎないのじゃからな。役立たずを生かす必要はどこにあるのじゃ?」


 緋色の髪。翡翠の瞳。

 キリヤの腕の中にいる少女とよく似たシュウナは、決定的な価値観の違いをここで見せてきた。


 確かにシュウナにとってリーシェを助ける理由は特になかった。

 情報源としては既に使用した後。

 戦闘力としては自分より劣り。

 知識もシュウナより優れている訳でもない。


 彼女にとってリーシェはただの捨て石に過ぎなかった。


 シュウナは強い。その力は死者にも手が届くほどに。


 この世の未知を含めた森羅万象を司るのが「神」ならば。

 この世界の安寧を司るのは「伝説の存在」だ。


 だが、なんの力もない只人にとって細かい区別など無いに等しい。


 その焔は全てを焼き払う。

 その氷は全てを凍てつかせる。

 その雷は全てを撃ち貫く。

 その癒しは全てを救済する。


 そんな規格外の能力を持つ者は只人にとって「神」でしか無かった。

 それが可能な人物がシュウナだ。


 反逆者もとい戦闘狂たちは、自分がどんな存在に刃向かっていたのかようやく悟った。

 一瞬で戦意を喪失し、力なくその膝を折っていく。

 ゼキアですら、シュウナの異常性に目を伏せた。


 だがキリヤだけは最強の存在に眦を決した。


「ふざけないでください!リーシェ様があなたの劣化版?決してそんなことはありません!」


 リーシェの体をそっと横たえ立ち上がると、シュウナとより少し高い目線で訴えた。


「リーシェ様はシルビアに危機に駆けつけてくれました!関係ないと、勝手にしろと切り捨てることもできたはずです!」


 キリヤはリーシェにシルビアの話をした時、危険性について包み隠さず全てを話した。

 普通なら聞けば行く気が無くなるような事実も繰り返し言った。


 それでもなお、少女は穏やかに微笑んだ。「困っている方がいるなら、私は助けたいです」と言ってくれた。


 その笑顔にキリヤは光を見た。

 その言葉に少年は未来を見出した。

 その人柄に1人の人間は夢を抱いた。


 彼女はその性格で多くの人を救ってきたはずだ。


 痛みに呻き、辛苦に耐え、絶望に抗い、自分の居場所を傷だらけの手で掴み取った。

 だからこそ、リーシェの言葉は心に真っ直ぐ響く。


 そんな存在が「劣化版」と評されていいはずがなかった。こんなに素晴らしい人が切り捨てられていいはずがなかった。

 彼女をここで死なせるなんて、キリヤは絶対に認めなかった。


「自分の命を顧みず、他者のために全力になる。あなたにそれが出来ますか!?こんなに傷だらけになるまで逃げずに戦い続けることが出来ますか!?」


 リーシェは本来、南に大陸と全く接点のない人物だ。キリヤが「伝説の存在」の力に助けを求めて関わりを持った。だが、逆を言えばキリヤさえ居なければリーシェはこんな傷を負うこともなかった。


 だからキリヤは何としてもシュウナを説得するしか無かった。

 だがそ言葉は本能のままに口から出てきて、なんだかシュウナを貶めているような雰囲気になっている。


「生きる者として1番大切な力は『暴力』の強さなんかじゃありません!対話で誰かを救う、そんな力が最も必要なんです!シュウナ様は今までそれをやってきましたか!?」


 何度も続く問いかけにシュウナは口を結んだ。

 キリヤが言っていることとは全く逆のことをしていたことに、シュウナは強い自覚を持っていた。


「彼女には帰りを待っている人がいます!」


 ここより遠い場所で共闘した黒髪の少年と緑髪の青年を思い浮かべる。黒髪の少年の方は、忙殺されそうになりながらも毎日少女を心配しているだろう。緑髪の青年はあの家で1人、少女を信じて帰りを待っている。


「彼女にはいるべき居場所があります!」


 あの穏やかな町を脳裏に描く。

 この優しい少女の居場所はあの町以外にはありえない。


「この世界に今必要なのは強者でも神様でもない!この方こそが、世界を平穏にできる!だから……!」


 見ただけで虫の息となっているリーシェの前で膝をつき、頭を地面に擦り付ける。


「お願いします!リーシェ様を助けてください!!」


 そして言葉は原点へ回帰する。

 力強いが悲愴を滲ませた少年の声が空気を揺らした。


 ゼキアは何も言わず状況を見守る。

 戦闘狂は震えながら王の選択を聞く。


 キリヤは目を固く閉じて裁定を待つ。


 そのすぐ横をシュウナの足音が通過した。


 ハッとして土下座の姿勢のまま後ろを振り向く。

 視界の向こうでシュウナの白い手が、傷だらけの少女の方に触れた。


 そして歌は紡がれる。


「【友の亡骸 我が慟哭 神は全てを見放した


  疾病の悪夢 絶望の予知夢 私は神を信じない


  神などいない 奇跡などない 久遠などない


  嗚呼 全てを諦め 全てを憎む 罪深な咎人よ


  諦念の果てに希望を 無念の末に祈りを


  私は神を信じない 私は私を信じる


  この力が この声が まだ貴方へ届のなら


  どうか目覚めて欲しい 強き我が友よ】」


 春の日差しのような燦光がリーシェの体を包む。

 キリヤの目の前で傷はみるみるうちに塞がっていった。


 青白かった肌に血色が戻り、途切れ途切れだった呼吸が規則正しいものへ変わる。

 数秒後には、なんの傷も負っていない姿のリーシェがいた。



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