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新しい力を

 四方八方から振りかざされる刀の銀の煌めき。

 リーシェは全ては避けきれずに小さな傷を重ねていった。


 だが不思議と痛みは感じない。

 虐待されて育ったせいで痛覚はある程度鈍くなっている。

 常人の痛覚が10だとするなら、リーシェの痛覚は5程度しかない。


 痛みの半減は、切り刻まれても動き続けることを可能にさせていた。

 血飛沫が飛び散る。傷口がカッと熱くなる。それすらも動力源にようにして、リーシェは集中の糸を張り詰めさせていった。


 少女の頭にあるのは、目前の銀光をどう躱すかではなかった。リーシェは自分自身に問いかけていた。


 すなわちその問いは「自分が戦う理由の再定義」だ。


 1年前と状況は大きく変わっている。

 リーシェを取り巻く環境も、リーシェの視界に映る世界も。


 ビーグリッドで馬車馬のように働いていた頃は、こんなことになるなんて思いもしなかった。


 自身に特別な力が宿っていたこと。

 両親が自分を守るために身を呈したこと。

 母が王族だったこと。

 自分が異種族のハーフだったこと。

 伝説の力を完全にするには、もう1人の伝説の存在と殺し合わなければならないこと。

 それでも共に手を取り合おうと決めたこと。

 世界はとても広いこと。

 広い世界は様々な問題を抱えていること。

 そして自分は、その世界を調停する役目を持っていること。


 本当に多くのことが変わった。多くの人に出会った。多くに喜びを受け、多くの悲しみに浸った。


 1つの想いばかりが強くなっていった。


 平和にしたい。


 最初は、自分と大切な人たちだけが穏やかに過ごせれば良かった。それが精一杯だった。


 だが今は違う。

 たくさんのことを知った。自分の手がもっと遠くへ届くことを知った。


 この想いは、無意識に伝説の力によって引き起こされているのかもしれない。

 けれどこの想いはリーシェが自分で見て考えて芽生えたものだ。


 他の何でもない、リーシェの心が決めたことだ。


 ここに再定義は成された。

 世界を平穏にする。そのためにリーシェは戦う。


 誰もが笑顔になれる世界。当たり前の平和を享受できる世界になるまで、戦い続ける。


 この想いの高まりを「スイッチ」とする。


「リーシェ!」


 シュウナが名前を叫んだ。

 その声でリーシェは思考の海から身を浮上させた。


「考え事しながらとはいい度胸だなァ!?」


「死ねやァ!!」


 視界いっぱいに突き出された刀の切っ先。今にもリーシェの頭を貫いてしまそうだ。

 時間がゆっくりに感じた。自分だけが加速しているような錯覚を覚えて、リーシェは1度瞬きをする。


 そして「スイッチ」を切り替えた。


 少女の小さな体から焔が吹き上がる。

 森を宿した瞳に氷の粒が瞬き、幻想的な景色を作り出す。


 そして上へと翳した右手から(いかずち)が放たれた。


「空を 水を 大地を 迸れ


 古より駆け巡るこの想いを時代に刻め


 雷刻(らいごく)


 民の心を忘れ、人の営みを忘れ、戦鬼と化した圧政者たちを撃ち貫いていく。


「穿て 雷鳴の槍


 叫べ 稲妻の剣」


 右手に一筋の雷撃が直撃する。

 眩く光り、誰もが思わず目を覆った。


 稲光の中心にいるリーシェと、安堵したような表情のシュウナだけがその光景を見る。


 右手に落ちた雷が、姿形を忙しく変えていく。

 激しい轟音が鼓膜を叩き、荒ぶる風が髪を揺らす。

 数秒後、リーシェの右手には雷を纏った一振の斧が握られていた。


 瞳に氷を宿し、全身から花弁のような火の粉を放ち、神々しいまでの戦斧を掲げるその姿。それは正しく、世界を調停する「伝説の存在」に他ならなかった。


 静寂が訪れた頃、僅かに残っていた戦闘狂が気圧されたように息を飲む。


「この斧は悪を断ち切る平和の剣。この斧は平和を保つ繁栄の刃。刀も剣も弓矢も槍も私には使えません。ですが斧なら、自由自在に扱ってみせましょう」


 その斧に重さはない。外見的には重そうな斧だが、それは雷から形成されている。だから、巨軀でも馬鹿力でもないリーシェでも軽々と振り回すことが出来た。


 リーシェが斧を一閃させる。


「生まれてから今まで、斧と鍬にはとてもお世話になっています。悪鬼の皆さん。命を捨ててまで戦いたいのならかかってきなさい。まだ生きたいのなら、改心することです」


 さぁ、どうしますか?と首を傾げる。

 彼らの足元には焦げた戦鬼たちが転がっている。

 国でも屈指の実力者だった味方が伏している光景に、流石の戦闘狂たちも顔を青ざめさせた。


 だが筋金入りの戦闘狂がこの場にいた。


 リーシェの問いかけに足を踏み出す者がたった1人。


「誰も出ないの?それじゃあ、私が相手をしてもらおうかの。黙って見ておるがいい。腰抜けどもめ」


 それは入国して初めて会ったこの大陸の人間、レリヤだった。

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