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もっと強くなりたいです

 急いで向かった戦場は凄惨な状態になっていた。


 真っ赤に汚れた砂。破壊された建物群と数え切れないほど転がる怪我人。

 怪我人の中には片腕がない人や、両足を折られた人もいる。


「シュウナ様。この方たちは……」


 顔を青ざめさせながら赤毛の少女を見る。

 彼女はなんて事ないような表情で淡々と言った。


「十中八九、『中央』で最後まで抵抗しておる者達じゃろうな」


 ここで「中央」について少しおさらいをしよう。

 弱肉強食を正しく表した南の大陸、シルビア。


 大陸自体が大きな国であるシルビアは、日常的に喧嘩の強さで民の上に立つ者を決めてきた。


 シルビアにとって、強さとは正しさであり勝者は正義だった。

 勝てば全てが手に入る。負ければ何もかも失う。


 そんな熾烈な日々の中で、見事、人の上に立つことを認められ国を治めることを許された者はシルビアの役人となる。


 国の運営は役人によって自由に取り締まられる。その主な業務を行う場所を総じて「中央」と呼んでいるのだ。


 国のほぼ中心部に重要な役所は集まっている。

 腕っ節の強さで役人となった彼らは、もちろん屈指の実力者たちだ。


 戦闘狂もいれば、国を中から変えるために強者になった者もいる。


 シュウナが国の改善に旗を上げ本格的に舵を取り始めた今。抵抗しているのは戦い事にしか興味がない戦闘狂たちが主だ。


 逆に、どちらかと言うと革命派寄りの考えの役人たちは、既にシュウナの旗の下へ集っている。


 現在進行形で激しい抵抗をしている戦闘狂の役人たち。彼らをどうにかしなければ、国の根本的な部分は変わっていかないだろう。


 リーシェとシュウナは、無力化された役人を踏まないように再び走る。

 すぐに舞うように敵を相手取る金髪の少年が見えた。


 その剣技は、少年の普段の様子からは想像できないほど優雅で美しい。

 頭の横に飾られた狐の面が優美さと艶美さを引き立てていた。周りを舞い散る桜の花びらが、さらにそれを強調していた。


 刀も似合うが、今の彼には笛が似合いそうだ。


 なんて呑気に考えている場合ではなかった。よく見れば、「知の力」の強化が切れているようだ。


 いつも羽織っている薄紫の衣装がところどころ赤く染っている。

 顔にも元々の三本傷の他にいくらか切り傷を負っているようだ。


「赤く 紅く 朱く 燃ゆれ

 古よりこの身に焼き付いた 精霊の焔よ

 焔刻」


 ゼキアの周りに群がっていた戦闘狂たちを焔で引き剥がず。

 迫り来る深紅の輝きに流石に立ち向かうようことはせず、役人たちは距離をとってリーシェたちを見た。


 口の中を切っていたらしいゼキアが、血の混ざった唾を地面に吐き捨てる。


「遅ぇぞ」


 短く淡々と少年は言った。

 戦闘中で興奮しているらしく、その瞳孔は開き、息は荒かった。


 遠目に見た戦う姿は優美だったのに、近くで見ると勇猛に見える。なんとも不思議だ。


「すみません。ご無事ですか?」


「見りゃ分かんだろ。それより……おいシュウナ」


「何かの?」


「テメェ、強化だけしたらなんも言わねぇで離脱しやがって……」


 どうやらゼキアも1人置いていかれたことに腹を立てているようだ。

 こめかみに浮いた青筋が、少年の怒りの深さを表している。


 そう思ったのに、次に告げられた言葉の内容は予想からだいぶかけ離れていた。


「トイレなら戦い始める前に行っとけ」


「トイレなわけないじゃろうが!応援を呼びに行っていたのじゃ」


「キリヤはどうした?」


「安静に療養中じゃ。傷が開いても困るじゃろ」


「力不足かもしれませんが、キリヤ様の代わりにお手伝いします」


 リーシェは先程までのゼキアの戦いぶりを見て、正直気後れしていた。

 あんなに鮮烈に自分は戦えない。あんなに強く自分は有れないし、あんなに圧倒的に強さを示すことが出来ない。


 伝説の力がなければ自分はただの人で。

 伝説の力に頼らなければ自分はただの平和ボケした人間だ。


 魔人族の血が半分流れているが、これまでの人生の大半を人として過ごした。


 この1年の間にだいぶ戦闘経験を重ねてきたつもりだったが、やはり自分は無力な人間だとリーシェは再認識していた。


 そんなリーシェをシュウナは妹を見るような眼差しで見つめていた。やがて、何を思ったのか静かに口を開く。


「のうリーシェ。お前、『スイッチ』は知っておるか?」


 その言葉にリーシェは小さく首を傾げた。


「わしやお前、そしてもう1人のお前の片割れ……ラピスじゃったか?伝説の存在には何かしらの『スイッチ』が存在する」


 鼻とかにはないぞ、と冗談を挟んでシュウナは続けた。


「精神的なものじゃが、元々伝説の力は精神の状態によってその在り方を大きく変えるのじゃ。つまり、その『スイッチ』さえ自由に切り替えることが出来れば、お前はもっと強くなれるじゃろう。わしが遠い昔に憎しみで覚醒したのと同じじゃ」


 シュウナはリーシェと同じ伝説の存在。本来は世界を調停するために生み出された力だ。その強さは際限なく高まっていくものらしい。


 使えば使うほど強くなり、使わなければ初期状態の弱いままだそうだ。


 確かに、1年前に伝説の力を初めて知った時よりリーシェの力は大きくなっている。


 そして「スイッチ」についてもリーシェ自身心当たりがあった。

 今まで何回もあったはずだ。


 人格が変わったかのように顔つきも言動も変わり、普段なら言わないことを口走ったことが。

 ダンジョンでは「技の力」の自我自体に体を貸し出したこともある。


 もう一度あの自我を呼び出し、リーシェの自我と馴染ませれば力は上昇するだろう。「スイッチ」を切り替えるコツを掴めば、自分の能力を最大限活用出来る。


 リーシェが強くなれれば、大切なものを守ることができ、もしかしたら神の足元くらいには手が届くかもしれない。


 シュウナのアドバイスを聞いて、リーシェは自分の可能性に気づいた。

 焔刻の焔が消え、戦闘狂たちが奥から姿を見せる。


 もっと強く。

 その一心でリーシェは敵陣へ突っ込んだ。


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