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共闘です

 シュウナを無事に説得してから2日。

 リーシェはゼキアの家でシュウナが動き出すのを待っていた。


 あの後、「あとは任せておけ」と言って彼女は「中央」へ入っていった。腐った国に蔓延るダニを掃除しに行くと息巻いていたが、もう2日も連絡が無い。


 いくらシュウナでも、強者ばかりのシルビアの暗部に単身で乗り込むのは無理があったのではないか。

 不安に揺れる翡翠の瞳には、包帯を巻かれている金髪の少年がいる。


 怪我はだいぶ良くなったのか、縁が欠けた湯のみで優雅にお茶を啜っていた。


「そんなに焦らなくとも大丈夫ですよ。王は絶対的強者であり伝説の存在なのですよね?」


 ゼキアからの報告を聞いているキリヤは、安心し仕切ったように穏やかに笑っている。

 その表情からは、刺客に襲われて気絶する直前の切羽詰まった様子は微塵も感じられなかった。


 彼にも彼で重い過去がありそうだと思いながら、リーシェは静かに頷く。


「はい。とても強いので万が一にも負けて捕縛されることはないと思いますが……」


 シュウナは「技の力」と「知の力」の他に、戦人族として生まれ持つ『武闘』の能力を持っている。

 2日前に戦ったリーシェは、シュウナの強さを痛いほど知っている。


 赤毛の頭に巻かれた包帯を指先で撫でると、キリヤは心配そうに眉を寄せた。


「傷が痛みますか?」


「いえ……。傷は平気ですけど、なぜか胸騒ぎがするのです」


 胸の不快感に名前をつけると、狭い家に重い沈黙が流れた。

 そこへ明るい声が響く。


「キリヤおにーちゃん、お茶のおかわり!」


「ありがとう。イチカ」


 あどけない顔。幼い声。桃色に染まる頬。柔らかい栗色の髪。

 ゼキアとキリヤの義理の妹であるイチカだった。


 キリヤの湯のみのお茶が無くなったことに気づいて、新しいものを持ってきてくれたようだ。


「イチカ。リーシェ様にもお茶をお願いできるかな?」


「いいよ!はい、リーシェおねーちゃん!」


「ありがとうございます」


 湯のみから伝わる温かさとイチカの笑顔に、ザワついていた心が落ち着いていく。

 ほっと息を吐くと、見計らったように家の扉が空いた。


「邪魔をするぞ」


 夕焼け色の髪。森の色を宿した瞳。そして独特の威圧感。待ちわびたシュウナだった。


「シュウナ様。ご無事でしたか」


「なんじゃ。お前、わしがくたばるとでも思っておったのか?」


 不満そうに鼻を鳴らされ、慌てて首を横に振る。少し不安だっただけで、そんなことを思っていた訳では無い……はずだ。


「そこの幼童。年寄りに茶を出してくれぬか」


「よーどー?イチカはイチカだよ?」


「そういう名なのか。ではイチカよ、わしに茶を出せ」


「分かった!」


 奥の台所へ幼い背中が消えていく。お湯を沸かすところから始めるのでしばらくは戻ってこないだろう。


 シュウナが疲れた様子で家に入ろうとするとキリヤが制止した。


「女王様、お待ちください。血の匂いがしますね。イチカがいるので、そういったものは落としてもらって良いでしょうか?」


「落とせと言っても、この辺りに風呂はないじゃろ?」


「そういう衛生的な環境を整えさせなかったのはどこの誰でしょう?あなたなら、風呂がなくとも匂いを落とす方法を知っておられるでしょう?」


「む……。なかなか肝の座った若者じゃな。ゼキアの義兄弟なだけある」


「シュウナ様。ゼキア様はどこにおられるのですか?共に行動されていたはずですが」


「あぁ、用事はそれじゃ」


 家には上がらず玄関先で話すことにしたらしい。疲れた様子でありながら背筋を伸ばして立ったシュウナは、淡々と状況の説明を始めた。


「実はゼキアと共に内部のゴミ掃除をしていたのじゃが、ワラワラと厄介な実力者たちは湧いてきての」


「シュウナ様でも手間取るのですか?」


「リーシェ。お前忘れてはおらんか?わしは何百年と戦うこともなく過ごしてきたのじゃ。体力は思っていたより落ちておったのじゃよ」


「まぁ、どんな強者もよる年波には勝てないと言いますからね」


 シュウナに対して当たりの強いキリヤは、ツンとした態度でそう言った。

 シュウナは不老不死の呪いにかかっているが、動かなければ体力も筋力も落ちるらしい。


 一応、気が向いた時に運動をしていたらしいがそれだけでは足りなかったのだろう。


「生意気な小僧め。じゃが簡単に言えばそういうことじゃ」


「つまりゼキア様は今たった1人で、その厄介な実力者たちの相手をしている、ということですか?」


「うむ。流石に何もせず置いてくるのはゼキアが死んでしまうのでな。『知の力』で強化付与はしてきたぞ」


 あっけからんとした様子でシュウナは笑った。

 いくら強化魔法がかけられているとはいえ、ゼキア1人ではあまりにも危険だ。


 シュウナは援軍を頼みに来たのだろう。

 キリヤは怪我がまだ完治していないし、タタラは諸々の状況説明を革命軍へ伝えに行っている。


 万全ではないがリーシェしか行ける人材がいなかった。


「リーシェ様。すみません。僕が未熟なばかりに……」


 怪我で動けないキリヤが申し訳なさそうに肩を下げる。

 リーシェは安心させるように微笑んだ。


「気にしないでください。私の怪我は軽いですから。キリヤ様は少しでも早く回復できるように、イチカちゃんと待っていてくださいね」


 壁に立てかけてあった刀を取ろうと手を伸ばすと、シュウナが一言言葉を放つ。


「やめておけ」


「え……?」


「無理に刀を使おうとするでない。お前は剣を持ち始めたのはつい最近じゃろう?慣れないことはするものでは無いぞ」


 ダンジョン攻略のために剣を持つようになり、シルビアへ来て刀を使うようになっての合計期間は約2ヶ月。


 自由自在に扱えるようになるには短すぎる期間だ。

 リーシェにはそれよりももっと関係が深い力はある。慣れない武器より、最初から持っていた武器を磨けとシュウナは言った。


 伸ばした手をゆっくりと下ろす。

 神からその身に授かった「技の力」と、母から受け継いだ「重力魔法」。人間として備わった「発展」の固有能力。


 厄介な実力者を相手取るには十分な武器だろう。

 勝つか負けるかはリーシェ次第だ。


 深呼吸をして気を引き締め直すと、2人の赤髪の少女は戦闘音が響く区画へ向かった。

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