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報復だ

わりとエグめの表現があります。苦手な方はご注意ください

 いたぶられる弱者。

 暴力を振りかざす強者。

 飢えに腹を抱える幼子。

 病に意識を朦朧とさせる老人。

 私利私欲に国を治める権力者。


 残虐な日常を送っていた者たちの頭上で、その戦いは突然始まった。

 晴れ渡った快晴の下で、焔や氷がぶつかり合い剣戟の調べが地上の者たちの鼓膜を揺らす。


 ある者は訳も分からず阿呆のように空を見上げ。

 ある者は初めて見る王の姿に畏敬を抱き。

 またある者は唐突に開始された決戦に眼を極限まで開いた。


 路地裏に倒れていた義兄弟であり親友の少年を見つけ、介抱していたゼキアはそのどれにも当てはまらない行動を起こした。


 重傷を負って動けない少年を家に置き手当は妹に任せると、勢いよく駆け出したのだ。


 向かった先は今も上空に戦いを見上げている権力者たちの元である。

 王のいる建物と権力者がいる建物は別棟だ。


 王が自らの居城を両断した技の被害から免れた建物は、堅牢な扉と護衛に守られていた。


「何者だ!止まれ!!」


 急速に接近するゼキアに気づいた見張り兵が荒々しく刀を構えた。


 兵士の言葉に律儀に答えるわけもなく、ゼキアは刀を鞘から抜きながら種族固有魔法の韻を唱える。


「『武闘』第28番、奥義。『桜弁絶花』」


 桜の花弁のような斬撃が束のように1つの斬撃になる。

 刀から中距離から放たれた斬撃に、為す術なく兵士が真っ二つにされる。

 人1人を切り崩しても斬撃の勢いは止まらず、硬い扉をも一刀両断してみせた。


 中に配置されていた兵士が土煙の中から現れたゼキアを油断なく睨む。

 ゆっくりと歩きながら、三本傷を歪めて少年は言った。


「今虫の居所が悪ぃんだ。雑魚じゃ話になんねぇ。とっとと強ぇ奴を出しやがれ」


 刀を一閃させれば再びそこから斬撃が放たれる。

 この先にいる強者たちにとって捨て石以下である兵士たちは、次々と放たれる斬撃にタジタジになった。


 そこへ戦場に似合わない明るい声が響く。


「何なに〜!なんの騒ぎ〜!?」


 建物の上層から飛び降りてきたのか、空から少女が降ってきた。

 緑髪を雑に結んだ馬鹿っぽそうな女だ。

 その隣に紫の髪の男が降り立つ。


「上で王様が戦ってるから"革命"ってやつなんじゃねー?」


 妙にゆっくりとした口調だ。

 男と女は侵入者であるゼキアの姿を確認すると、何かを心得たようにニヤッと笑った。


「もしかして一昨日ボッコボコにした雑魚のお仲間?」


 緑の髪を揺らして女が笑う。

 目的の2人が出てきたことにゼキアは内心舐めずりした。


「金髪に鈴をつけた若い男の義兄弟だ」


「え、もしかして仇討ちってやつ!?アイツ死んじゃったりした〜!?」


「あの程度の出血で死ぬとか弱すぎでしょ〜」


 キリヤを馬鹿にして笑い出す敵に、既に沸点を超えていたゼキアが怒りを爆発させた。

 強烈な怒りは逆に冷静にさせ、ゼキアは冷めた顔つきのまま刀の切っ先を突きつける。


「権力者の掃除ついでにてめぇらのこともゴミ箱行きにしてやる。その下卑た笑いしまってさっさと武器を抜けよ」


「コイツ、やる気じゃん?」


「上の戦いも見学したいし、さっさと終わらせよぉ〜」


 女の方は物干し竿のように長い刀を。男の方は死神が持っていそうな巨大な鎌を構えた。


「あんま舐めてんじゃねぇぞ」


 瞬きをした次の瞬間にはゼキアは2人の後方を歩いていた。

 一瞬の移動に男女が振り向く。だがその途中で2人の背中から血が吹き出した。


「「ガッ……!?」」


 痛いだろうに、根性はあるのか男も女も倒れることなく武器を構え直す。その目には既に遊びの色はなく、強者を前にした時の真剣さが宿っていた。


「ふ〜ん、お兄さんやるじゃん?あたしに傷を負わせるなんて、平民ではあんたが初めてだよ」


「馬鹿か?誰がもう攻撃が終わったなんて言った?」


 女の体からまた血が吹き出す。

 霧状になって体外へ放出される鮮血は、女が致命傷を負ったことを示していた。


 軽い音と共に首のない胴体が地面に投げ出される。


「え……リンネ?」


 男が女の名前を呼んだが答える口はない。

 消えた頭はゼキアの左手に乗せられていたからだ。


 キョトンとした顔のまま動かなくなった相棒の最期に、男は無表情になった。


 ブチギレるか、悲しみで泣き叫ぶかを予想していたゼキアの目の前で、しかし男は満面の笑みを浮かべる。


「あーあ、やっと死んだのかぁ」


 狂気、と言って差し障りない笑顔だった。

 まるで子供が欲しいものを買ってもらった時のように無邪気な笑顔だ。


「おにーさん、強いんだねぇ」


「てめぇ、何笑ってやがる?」


「人ってあんな風に死ぬんだぁ。人ってこんな顔するんだぁ。リンネって死んだらまともになるんだねぇ」


 ヒュン、と空気を切り裂く音が聞こえたかと思ったら、鎌の先端がリンネの頭に突き刺さっていた。


「死人は喋らないって本当だったんだぁ。あぁ、面白いなぁ。すごく面白いなぁ」


 ゼキアの手から奪われた生首が刃の先端で弄ばれ、中身を地面にぶちまけていく。


「頭の中ってこうなってるんだぁ。こんな色してるんだぁ」


 常軌を逸した光景にゼキアは思わず目元を歪める。

 その不気味な笑顔は少年にも向けられた。


「ねぇ。お前もこんな色してるの?中身ぶちまけて俺に教えてよぉ」


 コイツはヤバいとゼキアの本能が警報を鳴らす。

 そこに何かが勢いよく落下してきた。


「ぜ、ゼキア様!?」


 ものすごい速さで落ちてきたくせにピンピンしているリーシェだった。

 大小様々な傷がついているが負けを意識している様子はない。


「お前、王と戦ってたんじゃ……?」


「戦ってますよ。そろそろ追いかけて来るはずです」


 と爽やかに言っていたリーシェだったが、リンネの頭を弄ぶ男の姿を見るとその顔を恐ろしいくらい凍てつかせた。


 あれほど穏やかな少女がこんな顔をするのかと、ゼキアは柄にもなく冷や汗を流す。


「あなた、つい最近お会いしましたね」


「あれぇ?あの時捕まえた伝説の子じゃん?」


 今にも殺しに行きそうな雰囲気のリーシェだが、何かを感知すると氷で作った剣を振り向きざまに構えた。


 目に見えない速さで接敵していた赤い髪の見慣れぬ少女がリーシェに激突する。

 僅かな拮抗状態の末にリーシェが吹っ飛ばされ、少しの静寂が訪れた。


 赤い髪に緑の目。

 今しがた吹っ飛ばされた少女とよく似た人物は、ちらりとゼキアに視線を飛ばす。


 この少女が王なのだと直感した。

 全ての強者の圧倒的頂点にいる存在が、この少女だということに驚きつつも納得した。


 出で立ちや雰囲気、顔を見ただけでわかるのだ。

 コイツは異常だと。


 自分の強さに多少なりとも自信を持っていたゼキアだったが、この少女の前では息を殺すことしかできなかった。




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