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トップは何者でしょう?

 リーシェがタタラから受け取った刀は、大太刀とまでは行かずとも普通より大きなサイズだった。


 攻撃の範囲が広く威力も高い反面、扱いが難しく狭い場所での戦闘には向かない。

 故に路地裏での交戦はリーシェが最も避けたい状況であった。


 対して敵は予め路地裏で戦うことを想定したため、小回りの効く短刀を装備している。

 キリヤの刀も路地裏では振り回しづらそうだ。


 戦況が劣勢になるのは当然のことだった。


「わはははは!ほら、避けてみなよ〜!」


「くっ……!」


 襲撃者たちは先にキリヤを無力化させようとしているらしく、実力の高い女性の方が休むことなく少年に襲いかかっていた。


 ギリギリのところで致命傷を躱しているキリヤだが、その手足には着実に生傷が増えていっている。


 援護に行きたいのも山々だが、リーシェももう1人の襲撃者の対処で手一杯だった。


「余所見ばっかしてていいのぉ〜?うっかりしてると殺しちゃうよぉ〜?」


 確か目的はリーシェの捕獲だとか言っていたが、それを覚えていないように首筋を掠める剣筋。

 首の細い血管が傷ついたのか、喉奥から血が競り上がってきた。


 荒れた地面を自分の血で汚すと、口元に残った血を袖で拭う。


 口の中にこびりつく鉄の味に顔を歪めながら、額目掛けて下ろされた刀身を刀で受け止めた。


「あなた方は、一体誰の差し金ですか?」


 拮抗状態に入りながら厳しい声で問い質す。

 女性の方もだが、男性の方も大概掴みどころのない笑顔でリーシェの顔を上から覗き込んだ。


「知りたい?俺らに大人しく着いてくれば分かるよぉ〜」


「そうしたくないから質問しているんです!」


 大太刀に焔を纏わせて短刀を払い除ける。


「ふぅーん。器用なんだねぇ。燃やしたもの、燃やしたくないもの、そんなにはっきり区別できるんだぁ」


「その口ぶり、私の正体が分かっているようですね」


「知ってるよぉ。神の申し子。伝説の存在。神にも等しき者。どんな呼び方が好みかなぁ?」


 男だけを燃やすという意思を込めた焔で威嚇しながら、リーシェは背筋を冷や汗が伝うのを感じた。


 燃やす対象や凍らせる対象を限定させることができるのは、ラピスやその他一部の者しか知らない。


 キージスにリーシェが攫われて、救出に来た調査隊が焔に巻かれても焼かれなかったように。

 この「技の力」の焔や氷は、攻撃の対象を細かく区別させることができる。


 それをこの男は当たり前のように認識している。


 一体なぜだとリーシェは唇を噛んだ。


 燃焼物を区別できるという点は牽制にも充分使える。だが、バレてしまえば貴重な牽制手段が減ってしまう。


 何よりも……。


「ずいぶん、力に関して詳しいようですね」


 男が伝説の力についてどこまで知っているか、とても不気味だった。


 勝負は情報収集を怠らなかった者に軍杯が上がる。

 南の大陸へ渡ってくる前にラピスが言っていたことだ。


 リーシェは男のことを全く知らない。

 だが男はリーシェについてかなり知っている。


 せめて持っている情報量だけでも勝たねば、この状況に突破口が全く見つけられない。


 リーシェは視点を「戦い」から「観察」に切り替えることにした。


「もしかして、あなたの上にいる人が伝説についてなにか関係があるのでしょうか?」


「上〜?うん、まぁ上だね。ずっと上だけどぉ」


「あなたは下っ端なのですか?」


「言い方気に食わねぇけど正解〜。俺ら辺りで苦戦してるようじゃ革命なんて成功しないよぉ?」


 これだけでだいぶ情報が集まった。


 圧倒的な強さ。革命の認知。リーシェの存在の認識。このタイミングでの奇襲。間違いなく「中央」の手の者だ。予想に確信が加わった。


 次に「中央」のトップについて。

 致命傷を避けるので精一杯な相手が下っ端ということは、1番上の者は想像を絶する強さのはずだ。

 強さが全てという戦人族の頂点に立っているのが何よりの証拠だ。


 トップは伝説について何かしらの知識を持っていて、力を持っている本人にしか分からないことも知っている。


 ここで1つの予想が脳内で弾けた。

 突然浮かび上がった予想に有り得ないと首を振る。だが不可能ではないとも考えた。


 すなわち、戦人族のトップは伝説の存在なのではないかと。


 だから力の扱いについて知っている。

 だから圧倒的な強さを持っている。


 だが、そう考えるとトップの寿命など色々な問題点が出てきて妙なモヤモヤばかりが残った。


「考え事ぉ〜?ハッ。余裕だねぇ」


 体を柔らかく曲げて焔を避けながら男が戦闘を再開させる。

 咄嗟に反応できたのはダンジョンでの経験が役に立ったのだろう。


 短刀なのに重い一撃をすんでのところで躱すが、横から飛んできた暗器がリーシェの服の裾を壁に縫いつけた。


「なっ……!」


「あたしがいるのも忘れないでよね!」


「あれぇ?金髪の方は〜?」


「あいつ?あそこに転がってるよ。なんか粘り強くてめんどかった」


 緑の髪の女性が指さした方を見ると、血溜まりの上に横たわる少年の姿が目に写った。


 仰向けの胸が上下しているので生きてはいる。

 だが目を背けたくなるほどの傷が身体中に刻まれていた。


「キリヤ様!!」


 無惨な姿に目元を歪めると、聴き逃しそうなほど小さな声が聞こえた。


「すみ、ません……。弱くて……役立たずで、ごめん、なさい」


 朦朧とした意識は過去も嫌な記憶でも覗いているのか、その言葉はリーシェではない誰かに向けられているようだった。


 血に濡れた鈴が儚く鳴ったのを終鈴とし、キリヤはそのまま意識を失った。


 力ずくで袖を縫いつける暗器を抜き女に投げ返す。


「おわ!?あっぶな!いやいきなり怖っ!」


「アッハハ。もしかしなくてもキレちゃったぁ〜?」


「うわマジで?変に怒らせるなって言われてたのに」


 雰囲気をピリつかせるリーシェに2人が騒ぎ出した。

 だがスイッチを切り替えたリーシェの耳には雑音にしか聞こえない。


「うるさいですね。私の前で、そんなに油断して良いんですか?」


 周囲一帯に重い重力がのしかかる。

 強制的に膝をおられた男女が困惑したようにリーシェを見上げた。


「え!こんな能力あるって聞いてないんだけど!?」


「俺今体重重い奴の擬似体験してるぅ〜。ウケる〜」


「なんもウケねーよ!しくじったらあたしら殺されんじゃん!」


「あ〜うるせぇな。そうなんないために俺が来たんだろぉ」


「だったら早くどうにかして!重すぎて吐きそうだ!」


 魔人族の現王族の能力を使ったリーシェは怒鳴りあっている彼らの会話には耳も貸さず、キリヤに歩み寄った。


 2人の相手は不可能だと結論を出し、キリヤを連れて身を隠そうと思ったのだ。


 頭の中には逃げることしかなくて、敵はもう何も出来ないと意識の中から排除していた。

 それが最大で最悪の油断だった。


「『イリュージョン・ププラ』」


 動けなかったはずの男が軽快に地を蹴る。

 短刀の柄を力の限りリーシェの首に叩きつけた。


 リーシェ意識が暗転するのは一瞬だった。

 暗くなった瞼の裏で誰かが不気味に笑った気がしたが、それすらもすぐに見えなくなった。


初登場した不思議な能力については、今後の展開の伏線でもあります

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