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choice02~球体の楽園~  作者: 陽芹 孝介
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球体

葵と有紀は屋敷を出てきたが、有紀には一つ気になる事があった。


「葵…、この娘はなんだ?…」


五月がちゃっかりついてきていた。


葵は言った。

「ストーカーです…」


五月は激昂した。

「だ・か・ら…ストーカーじゃないっ!」


有紀が五月に言った。

「確か…五月とか言ったな…。屋敷でおとなしく待っていろ…」


葵が言った。

「有紀さん…この人は素直に言うことを聞く人ではありません…。

素直ならまずこの世界にいませんよ…」


有紀は鋭い目で五月に言った。

「わかった…好きにしろ…、ただし邪魔はするなよ…」


五月は背筋を伸ばして言った。

「はいっ!決して邪魔はしませんっ!」


さすがの五月も、有紀に威圧され…顔に緊張感が出てる。


葵が言った。

「ところで有紀さん…、どこまで調査を?…」


「だいたいは調べた…が、前回と違う事がある…」


「ずっと昼間…ですか?…」


有紀は感心した表情で言った。

「さすがだ、よく…わかったな」


「太陽が無いのは同じですが…僕と歩さんがWebアドレスにアクセスしたのが、23時…なので、そう思いました…。あと…」


「なんだ?…」


「体感温度が高いです…これは秋の気温ではないです、夏の気温ですね…」


葵はいつの間にか上着を脱いでいる。


有紀が言った。

「そうだ、葵の言う通り…ここは昼しかない、気温も33~35℃と、かなり暑い…それに…」


「それに?…」


有紀は言った。

「前回と違い、今回は自然がベースになっている…」


「この芝ですか…」


葵は足踏みして芝の感触を確認している。


有紀は言った。

「こっちだ…」


有紀につれられついた場所は、先程の巨大ビニールハウスだ。


一般的なビニールハウスとは違い、ドーム型でとにかく大きい。


屋敷の入口正面を基本に考えれば、ビニールハウスは屋敷の西側に位置する。


屋敷から約100m程の距離だ。


葵が言った。

「随分大きいですね…中は、植物がいろいろありますね…観賞用ですか…」


有紀が言った。

「そうだ…植物園をイメージしてくれればいい…」


3人は中に入った。


中は以外に外と、気温は変わらなく…湿度も高くない。

様々な植物が茂っていて、歩道が無ければ、ジャングルのようだ。


ただ中はそんなに広くないので、迷う心配はなさそうだ。


五月は恐る恐る有紀に聞いた。

「あの~…写真撮っていいですか?」


五月はすっかり有紀に萎縮してしまっている。


有紀は気にする事なく言った。

「うん?ああ…撮っていいぞ、ここの植物は美しい…」


有紀に許しをもらった五月は、気をよくして写真を撮りまくっている。


葵は髪をクルクルしながら何かを考えている。


有紀が葵に聞いた。

「どうした?何か気になるか?…」


「いや、確かに…美しい植物たちですが…、何か違和感があります…」


「違和感?…」


「上手くは説明できませんが…。

まぁ、時間はあります…次へ行きましょう…」


ビニールハウスを出た3人は次の目的地へ向かう。

五月はまだ写真を撮りたそうだったが、かまうことなく、次へ向かった。


向かった先は屋敷の北側だ。

目的地には直ぐに着いた。


白をベースにした木製の施設で、デザインは洋式の建物で、芸術館のようだ。


葵は呟いた。

「これは立派な建物です…」


「驚くのは早いぞ…」

有紀はそう言うと、両開きの扉を開いた。


中を見て、葵と五月は驚いた。

建物の中には、絵画や、彫刻といった芸術品がずらりと並んでいる。


「これは…すばらしい…」


さすがの葵も驚いて感動している。

葵と同様に、五月も感動し写真を撮っている。


葵は一つの彫刻に近づき、言った。

「『ミロのヴィーナス』…」


五月が言った。

「『ミロのヴィーナス』?…両腕がないよ…」


「アンティオキアのアレクサンドロスが、造った彫刻です…。

失われた両腕を様々な彫刻家が復元しようと、試みましたが…このヴィーナスに見合う腕は、まだありません…」


有紀が言った。

「詳しいな…葵…」


「父が好きなのですよ…、しかしどれもこれも有名な、絵画や彫刻です…。

ミケランジェロの『最後の審判』まであります…」


「画家の祥子も言っていたな…どれも本物のようだと…」


「祥子とは、あのワンピースの女性ですか?…かなりの目利きですね…」


「いや、目利きと言うより…この絵画や彫刻には…、彼女いわく、引き込まれる魅力があると…」


「わかります…どれも素晴らしい…、ただ…それを再現するアマツカは、やはり侮れません…」


「そうだな…、次へ行こう…まだまだ案内しないと、いけないからな…」


芸術館を出た3人は、順番に残りの施設を回った。


屋敷の東側には、小さな湖が…、屋敷の南側には小さなグランドがそれぞれあった。


二つとも特に変わった様子はなかった。


葵が言った。

「気付いた事があります…」


有紀が言った。

「なんだ?」


「行き止まりがありませんね…前回は果てしない水面が、行き止まりになっていましたが…ここにはそれがない…」


五月が言った。

「何が言いたいの?」


「歩いている感じからして……、ここは重力のある『球体』ではないですか?」


有紀が言った。

「その通りだ、屋敷から芸術館へ向かい、そのまま歩いて行くと、グランドに出て…そのまま屋敷に戻ってくる…」


「やはり…」


「ただ、芸術館とグランド間、つまり屋敷の裏側に最後の施設がある…」


「行きましょう…その最後の施設に…」


3人は有紀の言う最後の施設へ向かった。


屋敷のちょうど裏側に、その施設はあった。


葵がその施設を見て言った。

「教会…ですか…」


葵が言うようにそこには、小さな教会が建っていた。


葵は中に入ってみる。


中は普通の教会だったが、1ヶ所だけ異様な物があった。


それを見た五月は思わず呟いた。

「…綺麗……」


それは祭壇の上に浮いていた。


葵が言った。

「なんですか?あの球は?」


祭壇の、約2m程上にその球は浮いている…虹色に輝いて。


有紀が言った。

「あれが、おそらく『鍵』だな…」


葵は口角を上げて、髪をクルクルさせて言った。


「そのようです…しかし…」


「全くもって、面白い…」






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