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choice02~球体の楽園~  作者: 陽芹 孝介
28/29

それぞれ


……東應医大…喫茶店……


葵は有紀と喫茶店にいた。


二人は皆の近況ついて話していた。


九条は目を覚ましてすぐに退院の手続きをとって、退院した。

仕事が物凄く溜まっていたようで、九条が目を覚ました時、秘書の山村は大いに喜んだ。


九条にはあの世界での記憶は無かった。記憶が無いことによって、九条は自分に何が起こったのか…すぐに理解したそうだ。


九条は皆に簡単な挨拶をして無事退院した。

次に会う時は派手にパーティーでもしようと言い、皆と別れた。


陸にしてもあの世界での記憶が無いので、無理に関わる必要なかった。


しかし、亜美には記憶が残っていたので、陸を気にしていた彼女にとっては少し辛かったかもしれない。


だが、歩と有紀の説得で、陸にあの世界での事は言わないでおく事を、何とか納得してもらった。


有紀は言った。

「祥子にあの世界での記憶は無かったよ…」


「やはりそうですか……彼女の精神状態は?」


有紀は言った。

「私は精神科医ではないからな…、でも安心しろ、信頼のおける精神科医に、彼女の事は任せた…」


葵はいつものアイスカフェラテをすすりながら言った。

「そうですか…。でも彼女はあの世界の記憶がなくなって、かえってよかったのかも知れませんね…」


「そうだな……。人を殺害した感触など忘れた方がいい…、結果…皆こうして生きているからな…」


葵は言った。

「愛さんはどうなりました?…話しによると不治の病だそうですが…」


有紀は少し気難しい表情になった。

「それなんだが…」


「どうかしましたか?」


「ただの胃潰瘍だった…」


葵はキョトンとして言った。

「はぁ……、それは意外です…。でも何故、有紀さんはそんな表情を?」


有紀の表情は気難しいままだ。


葵が尋ねた。

「何か気になる事が?」


有紀は言った。

「ああ…、彼女が教師なのは葵も知っているだろ?…」


「はい、知っています」


「教師の職場はストレス社会だ…。急性胃潰瘍になる事はよくある話だし、そこは不思議ではない…」


「確かにそうですね…。だとしたら愛さんは誤診で末期の胃ガンと診察されたのでは?」


「うむ、そうなんだが…、それがどうもおかしいんだ…」


「おかしい?」


「彼女は近くの内科で診察を受けて、末期の胃ガンだと診察されたらしい…」


葵も表情が険しくなった。

「確かにそうですね…、町医者で末期の胃ガンと診断するのは…あり得ませんね」


「ああ…、仮に胃ガンの可能性があったとしても…より、確実に検査をするために、大学病院などの大きな病院を紹介するはずだ。その場で末期の胃ガンと診断するのは……、無い…誤診もいいところだ」


葵は言った。

「その町医者とは?」


有紀は言った。

「そこからが問題なんだ…。愛に聞いた病院を調べたら…、そんなものは存在しなかったんだ」


「では、その病院は…」


「誰かが作った架空の病院だったんだ…。そして、愛は診断されたその日の夜に…意識を無くした…」


葵は言った。

「アマツカが仕組んだようですね…」


「お前もそう思うか?」


「そう考えるのが普通ですよ…、しかし、だとすれば…やはり彼は恐ろしい…」


「そうだな…人身掌握に長けている…」


葵や有紀が言うように、アマツカは人の心を利用して目的を遂行する。


今回の祥子や愛といったように、彼女らを利用し、ゲームを進行した。


アマツカの人選が見事にはまったとも言える。


葵は言った。

「アマツカは危険すぎます…。あの思想に、頭のよさ…そして人身掌握に長けた点…。おそらくその能力でスポンサーも付けているのでしょう」


有紀が言った。

「まだ奴にかかわるのか?」


葵は髪をクルクルさせた。

「嫌でも、向こうからやってきますから…。どうやら彼は、僕と歩さんにご執心のようですから…」


「そんな呑気な事を言ってる場合ではないぞ…」


葵は話を変えた。

「ところで…マリアという女性の事は?」


記憶を失った謎の女性…通称マリア…。彼女に関しては、この東應医大にいなかったのだ。


彼女に関しては謎が多い…、歩に拳銃を渡したり、記憶が無い分、彼女に関しては謎が深まるばかりだ…。


味方なのか敵なのか…それとも、また別の何かか…。


有紀は言った。

「詳細はさっぱりだ…」


葵は髪をクルクルさせた。

「彼女はいったい何者だったのでしょう?…拳銃を持っていたので、ただの一般人ではなさそうですが…」


有紀も言った。

「あと、記憶が無かったのが気になるな…」


「なかなか、スッキリしません…」


有紀が言った。

「話を逸らされたが…お前、これからどうするつもりだ?」


「アマツカの事ですか?」


「また奴が何かを仕掛けてくるのは、私でもわかるぞ」


「しかし、現状は後手にまわるしかありませんね…。何せ向こうからの誘い待ちですから…」


「何か手はないのか?」


葵は髪をクルクルさせた。

「現状はお手上げです…。しかし、彼をこのまま放っておく訳にもいきません…。彼は、この世界を浄化すると、言ってるのですから…」


「危険人物にかわりないな…」


葵は言った。

「できるだけの準備はしておきます…。今はそれくらいしかできませんから…」


いつ仕掛けられてもいいようにしておく。

確かに葵の言うように、後手にならざる終えないこの現状では、できる限りの準備をするしかないのかもしれない。



……退院日……


やっと退院日がやって来た。

葵の母は用事のため病院にこれなかったが、代わりに美夢が来た。


美夢は言った。

「忘れ物ない?」


葵は言った。

「ないよ…子供でないんだから…」


見送りに来た歩が言った。

「相変わらずお似合いだね…」


茶化す歩の隣で、五月が写真をパシャパシャ撮っている。


葵が言った。

「何しているのですか?」


五月が言った。

「オカルト記事は、出せないから…違う記事を書こうかと…」


美夢が言った。

「何の記事を書くんですか?五月先輩…」


五月は胸を張って言った。

「決まってるじゃんっ!『東應の天変月島と学内アイドル藤崎、熱愛発覚!』これで決まりよっ!」


葵は呆れて言った。

「アホですね…」


五月は激昂した。

「アホとは何よっ!アホとはっ!…」


葵は言った。

「もしそんな記事を掲載したら、訴えますから…」


訴えると、いう葵の言葉に、五月は怯んだ。


それを見て美夢はクスクス笑っている。


最後に歩は言った。

「とにかく、日常に戻ったんだ…。しっかり楽しんでね…。まあ、君には刺激が足りないかも、だけど」


葵は笑って言った。

「いえ…当分は楽しみますよ…。今を…」


葵の言葉にはアマツカとの戦いの前の、休息をとると、いった意味も込められていたのかも知れない。






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