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choice02~球体の楽園~  作者: 陽芹 孝介
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太陽の下

……東應医大……


葵は東應医大の屋上にいた。

太陽の光を満喫している。


あの球体の世界では、祭壇にゴッホの向日葵を飾った事により、見事に脱出できた。


祭壇に飾られた向日葵は鏡を通じて、植物館に現れた。


足りなかった物が戻った植物館は光に包まれ…やがて、植物館を中心に光が広がり…葵や他の皆もその光に包まれ、そこで意識が無くなった。


次に目を覚ました時は、お約束通り病院のベットの上だった。


葵が目を覚まし、一番最初に見たのは安堵した表情の美夢だった。

美夢はどうやら付きっきりで、葵を看病していたらしい。


「いい天気だ…」


葵の言うように外はいい天気で、快晴だ。秋風が肌を少し冷やすが…悪い気分ではない。


今日で目を覚まして2日目だが、2日連続で屋上にきている。

退院するまで毎日のように、屋上に来るだろう…、それほどまでに、太陽が恋しかったのかもしれない。


向日葵ではないが、やはり太陽の下はいいものだ。


葵が太陽を満喫していると、歩も屋上にやって来た。


葵を見付けた歩は声をかけた。

「ここにいたんだ?…」


歩はそう言うと葵の隣に並んだ。


葵は言った。

「今日…目が覚めたようですね…」


葵の言うように、歩は今朝目を覚ましたようだ。

前回のように目を覚ますのに個人差があるようだ。


歩は言った。

「そうなんだよ…、おかげで体が少し怠い…」


「目が半開きですよ…」


「仕方ないよ…目覚めたばっかだし…。それより、葵君…聞きたい事がるんだけど」


葵は言った。

「祥子さんの事ですか?」


三木谷祥子…球体の世界で神になろうとした女性…。

3人を殺害し、最後は赤塚こと…アマツカに殺された。


彼女は現実世界で自殺し、球体の世界で生き返った…と、いう話だったが…。


歩は言った。

「彼女…病室で眠ってたよ…。生きていた…」


歩の言うように祥子は生きていたのだ。


葵は言った。

「自殺未遂だそうです…」


歩は葵を見て言った。

「葵君…本当は知っていたのかい?彼女が生きていると…」


「何故…そう思うのです?」


歩は言った。

「俺はあの時…教会の入口らへんで隠れて…一部始終見ていたんだけど…」


「君のあの時の対応…、何て言うか、直感なんだけど…あんな簡単に人を見捨てるとは、俺には思えなかった…」


葵は言った。

「何を言っているのか…よくわかりませんが…」


歩は頭を掻いた。

「だから…うまく言えないって、言ったじゃんか…」


葵は言った。

「知っていました…。いや、知っていたと言うよりは、彼女が死んだ人間だと言う可能性が低かった…と、言っておきましょう…」


歩が言った。

「可能性?」


葵は言った。

「そうです…、アマツカの造る世界で人が生きるには…必ず必要な物があります…」


歩は黙って聞いている。


葵は続けた。

「脳の記憶です…。あの世界での僕たちの体は、脳の記憶で構築されています」


歩は言った。

「なるほど…。死んでいたらあの世界でも存在しないか…。だから、彼女が生きていると思ったんだな」


葵が言った。

「そう言う事です…」


そして、しばらく二人の間に沈黙が訪れた。


それは嫌な沈黙ではなくて、太陽と秋風を二人は黙って堪能しているので、訪れた沈黙だ。


そして、少し強めの風が二人にあたり、葵は癖っけのある髪を、かき上げた。


それを見て歩は言った。

「すっかり…秋だね…」


「ええ…秋です」


歩は葵に言った。

「なぁ、葵君…」


「何です?」


「アマツカの事なんだか…」


葵は歩の目を見た。

歩の目はどこか寂しげだった。


葵は言った。

「彼はテロリストですよ…」


歩は屋上の柵に手をかけた。


雲ひとつない空を見て言った。

「わかってるよ…、でも…もしかしたら、俺はあいつみたいに、なっていたかもしれない…」


葵は黙って聞いている。


歩は続けた。

「医者だった頃の夢を毎晩のようなにみてるんだ…」


葵は聞いた。

「どのような?」


歩は苦笑いした。

「おかしな夢さ…。大学病院で人を救っている自分と…戦場で人を救えなかった自分…、それが鏡越しのように向き合ってるんだ…」


歩は振り返り柵に背中をあてた。

「おかしな夢だろ?…。でも最後はいつも同じで、二人の俺が言うんだ…」


「「お前は無力だ」と…」


歩は肩を落としている。


おそらく歩の夢はそうとうな悪夢なのだろう。


歩は言った。

「で、そこで目が覚めるんだ…。俺は逃げたのかもしれない…。医療から…人から…」


葵は言った。

「あなたは…逃げてなどいませんよ…。今も戦っている…」


「カメラを通して…」


歩は言った。

「だったらいいんだけどね…。でも、だからじゃないが……アマツカの気持ちも少しはわかる気がするんだ…」


葵は言った。

「彼こそ逃げていると…僕は思いますけどね」


歩は言った。

「そうだな…アマツカは逃げてる…。理想を求めて現実逃避だ…」


葵は言った。

「そうです…、あれはあってはならないシステムです…」


歩は言った。

「あれを使って、世の中を清浄化するって言っていたけど…」


葵はいつものように、髪をクルクルさせながら言った。

「全人類をあの世界に…」


歩は言った。

「話がでかすぎるな…」


「しかし、そうでもしないと…アマツカの言うりそうの世界は実現しませんよ… 」


歩はいまいちピンとこないようだ。

「確かにそうかもしれないけど…」


葵は言った。

「各民族や宗教…価値観の近い者など、分けて転送させれば、争いは無くなるかもしれません…」


「争いの元をなくすのか…」


葵は真剣な表情で言った。

「しかし、僕は彼のやり方は認めません…。人は…人類は学ぶ事ができる…」


葵は続けた。

「彼の言う愚かな民衆は時として、力になり…国を、世界を動かすこともできます。歩さんのように活動する人たちもいますから…」


歩は黙って聞いている。


葵は力を込めて言った。

「僕はそう信じています…」


すると、葵の話が終わった頃に、美夢が屋上に呼びに来た。


「葵ーっ、やっぱりここだったんだ…て、歩さんもいるっ!」


歩は表情を柔らかくして言った。

「よっ!美夢ちゃん…久し振りっ!」


美夢は呆れて言った。

「久し振りじゃないですよっ!二人とも病み上がりなんだから…」


美夢の小言も心地よく感じさせるのは、現実世界を実感してるからかもしれない。


少し冷たい秋風はやさしく3人を包むように吹いていた。







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