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choice02~球体の楽園~  作者: 陽芹 孝介
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形勢逆転

教会の入口で、拳銃を構えて立っていたのは……、歩だった。


有紀は驚いて言った。

「歩…お前、生きてたのか?」


歩はボロボロだった。

左腕はだらっとして、血が流れている。

よく見ると、顔も汚れていて…頭から少し血を流し、服も所々破けている。


歩は苦笑いで言った。

「なんとかね……、左腕とあばらの何本かは折れちゃってるけどね…」


赤塚は言った。

「なるほど…、火に包まれる直前に、2階の窓から飛び降りたのですね…。さすがは戦地を駆け回ってるだけはあります…。だが…その拳銃はなんですか?脅しのつもりですか?」


赤塚は歩の構えてる拳銃を、偽物だと思っているようだ。


歩は言った。

「これが偽物で無いのは…お前ならわかるだろ?」


赤塚は少し考えた。

(普通なら偽物だが、彼なら持ち込める可能性もある…。球体に所持品を持ち込めるプログラムが仇になったか…)


赤塚は言った。

「まぁ、いいでしょう…。しかし、それが本物だとして、あなたに引き金が引けますか?武器を嫌うあなたに…」


歩は言った。

「武器を嫌うのは確かだが…この中で武器の扱いは誰よりも理解してるぜ…」


赤塚は言った。

「あなたなら私の考えを理解してくれると、思いましたが…」


歩は言った。

「それは…さっきそこで聞いていたよ…。お前の原動力が何かのかは…少しわかった気がするよ…」


赤塚は笑って言った。

「フフフ…なら、そんな物騒な物を下げてこちらに…。あなたは私の同士だ…」


しかし、歩は赤塚の申し出を拒否した。

「俺はお前とは違う…俺は活動家の前に、一人の医者だ…。病気や怪我で苦しむ人の戦う気持ちを奪い、こんな世界に閉じ込めるお前のやり方は…、絶対に認めないっ!」


歩の拳銃を持つ右手に力がこもる。


しかし、赤塚は怯む事なく言った。

「私は、彼らに希望を与えたのですよ…。ここでなら病気や怪我に怯える必要はありません…」


赤塚はさらに言った。

「現に、三木谷祥子や、江守愛はこの世界で幸せを実感していました…。その幸せを奪ったのは…他でもないあなた達です」


歩は愛の気持ちを思い出したのか、少し怯んだ…。


そして、その隙を見逃さなかった赤塚は、歩に発砲した。


パンッと、銃声が教会内に響いた。


「キャーーッ!」


悲鳴を上げたのは五月だった。


歩は拳銃を床に落として右腕から血を流している。


有紀が叫んだ。

「歩ーっ!」


歩は言った。

「大丈夫だ…、腕を撃たれただけだ…」


歩の表情は苦痛に歪む。


赤塚は得意気に言った。

「逆転の逆転です…」


そんな赤塚に葵は言った。

「何故…陸さんと愛さんを…殺したのです?」


苦痛の表情の歩が言った。

「そうだ…。彼らも、お前の言うところの…病気や怪我で苦しむ人間だぞ…」


赤塚は黙っている。


葵は言った。

「陸さんは怪我と戦う決心をした…歩さんの口ぶりだと、愛さんもそうでしょう…」


赤塚は葵に拳銃を向ける。

「自分の立場がわかってるのですか?」


しかし…葵はなんと、拳銃を向ける赤塚に近付いて行く。

「あなたに…二人の可能性を…、いや、ここにいる皆の可能性を奪う権利は無い」


赤塚は動揺した。

(なんだ?この男は?拳銃を恐れていないのか?…いや、月島葵はわかっているはず…自分が死ねば、このゲームは私の勝ちだと…)


葵は近づくのを止めない。


歩は痛みを堪えながら言った。

「よせっ!葵君っ!」


有紀も言った。

「葵っ!近づくなっ!」


銃口を向けているとうの赤塚も、葵の行動を理解できないのか、ただ目を見開いている。


そうこうしているうちに、葵は赤塚の目の前に立ち…、赤塚が向ける銃口に、自分の額をあてたのだ。


葵は口角を上げた。

「さぁ…あとは引き金を引くだけですよ…」


赤塚は目を見開いた。

(なんなんだこいつは?…自分が死ねば、脱出の道は断念されるんだぞ…。ハッタリ?…いやそれ以前に…)


(死が…恐くないのか?)


赤塚は言った。

「月島葵…君はいったい?…」


赤塚は、始めて怯んだ。

葵はそれを見逃さなかった。


葵は左手で銃口を掴み、素早く右拳で赤塚の左頬を、思いっきり殴った。


赤塚は一瞬の出来事に思わず拳銃を離し、派手にぶっ飛んだ。


葵は奪った拳銃を赤塚に向けた。


歩や有紀、五月は一瞬の出来事に呆気にとられている。


葵に殴り飛ばされた赤塚は、状況の理解に苦しんだが、葵に銃口を向けられているのに気付き…自分の置かれている立場を理解した。


赤塚は言った。

「フフフ…、いいのを貰いました…。形勢逆転と、言ったところですか…」


葵は言った。

「僕が引き金を引くのを、躊躇わないのは…あなたが一番よく知っているでしょ?」


赤塚は言った。

「フフフ…確かに…。私は、君に一度撃たれていますからね…」


葵は言った。

「チェックメイトです」


葵に銃口を突きつけられた赤塚は…ただ不敵に笑っていた。








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