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choice02~球体の楽園~  作者: 陽芹 孝介
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対峙

葵は犯人と対峙すると言い、屋敷の北側…芸術館に向かった。


有紀が言った。

「芸術館に犯人が?」


葵は首を横に振った。

「いえ、少し寄り道です…」


芸術館に着いたら、葵は二人に言った。

「ここで待っていて下さい…」


そう言うと葵は芸術館の中へと入って行った。


取り残された二人は屋敷の方角を見た。


まだ屋敷は燃え上がっている。


五月は言った。

「火は怖いです…大事な物を全て燃やし尽くすんで…」


有紀も言った。

「私もだ…。炎は残酷にも人の命も平気で奪う…」


二人がいたたまれない気分になった頃に、葵は芸術館から出てきた。


葵の手には、布に包まれた物があった。


有紀が言った。

「寄り道の理由はそれか?…何だそれは?」


葵は言った。

「後の楽しみです…。さぁ、行きましょう…」


3人は屋敷の裏側の位置にある教会へと向かった。


屋敷の炎の影響か、体感温度はかなり高く感じる。


「さぁ、到着しました…。準備はいいですか?」


教会前に到着し、葵は二人に準備を促した。


二人は黙って頷いた。


葵は教会の両開きの扉を勢いよく開けた。


奥の祭壇に誰かいる。


葵は言った。

「お待たせしました…祥子さん…」


奥にいた人物は祥子だった。


祥子は祭壇で葵に背を向けて、自分が持ってきたパイプ椅子に座り…絵を描いている。


五月が言った。

「祥子さん……嘘でしょ…」


祥子はやっと手を止めてこちらを向いた。


3人の様子を見て、祥子は言った。

「ごきげんよう…皆さん…」


葵は言った。

「やっとたどり着きましたよ…あなたに…」


祥子は薄ら笑みを浮かべて言った。

「では、聞かせてもらおうかしら…月島君の推理を…」


葵は話始めた。

「今回の一連の事件は…現実世界に『帰りたい派』と『帰りたくない派』の心理戦でした」


五月が言った。

「どういう事?…」


「つまり、『帰りたくない派』にとっては、『帰りたい派』が邪魔な存在で、その逆もしかりです」


有紀が言った。

「しかし、何故帰りたくないのだ?」


葵は言った。

「それは、怪我や病気…コンプレックスなどの理由でしょう…」


五月が言った。

「どういう事?怪我や病気?」


いまいちピンときてない五月に葵は言った。

「この世界では、元々あった『怪我や病気が治る』と、言うことです」


五月が言った。

「そんな事って……」


葵は続けた。

「この世界の僕たちの肉体は、脳の記憶を頼りに…プログラミングによって構築されています」


有紀が言った。

「なるほど…、実体で無いのなら、怪我や病気は安易に治せる…」


葵が言った。

「その通りです…。しかし、現実世界に戻ってしまったら…怪我や病気がまた再発する…。これが、帰りたくない理由です」


有紀が言った。

「それで陸の怪我が治っていたのか…、しかし、それなら…」


葵が言った。

「そうです…、そこにいる祥子さんも怪我を持っていたのです…」


すると今まで黙って聞いていた祥子が、葵に言った。

「さすがね……。でも、いつわかったの?」


葵が答えた。

「それは……絵です」


五月が言った。

「…絵?…」


「湖であなたの絵を見た時、僕は違和感を感じました…。でもその理由はすぐにわかりました…」


祥子は黙って聞いている。


葵は続けた。

「あの時……同じ絵が2枚ありました…。しかし、比べて見ると別人が描いたみたいに、絵のタッチや色合いが違いました」


葵は続けた。

「その時思いました…あの2枚の絵は『利き手』と『逆手』でそれぞれ描かれた絵だと…」


有紀が言った。

「しかし、何故逆手で描いたのだ?…治っていたのなら、利き手で描けばいいのに…」


葵が言った。

「これは僕の想像ですが……おそらく恐かったのでは?…」


五月が言った。

「恐い?…」


「はい…。この世界にきて、手が治った兆候はあったが…いざ絵を描くときに恐くなった…「前みたいに描けなかったら」と…。それで最初の絵は逆手で描いた…」


祥子はまたもや、薄ら笑いを浮かべて言った。

「さすがね…絵を見ただけで、わかるなんて……やっぱりあなたは興味深いわ…。でも、それだけで私が犯人と言うには…少し強引ね…第一容疑者は『12人目』よ…」


葵は言った。

「『12人目』では…犯行が不可能なんですよ…」


祥子の表情は少し硬くなった。


葵は続けた。

「有紀さんには説明しましたが、陸さんは包丁で2ヶ所刺されて死亡しました…。しかし、犯人が『12人目』だとすれば、凶器を入手することができないのです」


有紀が言った。

「リセットのルール…」


葵は言った。

「そうです、凶器の包丁は…厨房にしかありません、包丁が盗まれたとしたら1本減っている状態です…」


「しかし、『12人目』が犯人だとすれば、この世界にきた、その日の深夜に盗まなければいけません…。しかし…歩さんが翌朝、朝食の準備をしている時は包丁はしっかりあったようですよ…」


祥子の顔色が変わった。


葵は続けた。

「つまり、『12人目』いや、僕や歩さんがこの世界に来る前に、包丁は抜き取られ…厨房から消えた包丁はリセットのルールで補充された事になります…」


五月が言った。

「だから『12人目』の犯行はあり得ない…」


祥子が言った。

「でも、陸が死んだ時間は正午よっ…私にはアリバイがある…。午前中は部屋で絵を…正午には食堂に居たわ…」


葵が言った。

「午前中のアリバイは不確かです、それに陸さんは正午に死んだのではありません…これを見てください」


葵はポケットから紙切れを出した。


祥子はそれを見て、表情が変わった。


葵は紙切れの説明をした。

「これは陸さんの部屋にあったメモ書きです…『湖で待つ』と、しかしこの部分を見てください」


葵紙切れの端を見せた。


「ハサミか何かで切った痕跡があります」


葵の言うように、紙切れには確かに刃物で切った跡がある。


「おそらく切った先に呼び出し時刻が、記されていたのでしょう…」


葵はさらに続けた。

「つまり、陸さんを正午前…おそらく11時30分頃に、湖に呼び出し…そして、陸さんを刺して…なに食わぬ顔で屋敷に戻った。そして、陸さんは正午を過ぎた頃に出血多量で死んだ…」


有紀が言った。

「我々はリセットのルールに囚われ過ぎたのだな…」


しかし、祥子は反論する。

「確かに…でも、それなら私以外にも犯行は可能よ…」


すると葵は言った。

「犯人はあなたです…」


祥子は引かない。

「証拠は…証拠はあるのかしら?」


葵はある物を取り出した。


祥子はそれを見て驚愕した。


葵は言った。

「これが…その証拠です…」


祥子は言葉が出ずに…ただ愕然とした。


有紀と五月が見守る中…葵の謎解きが始まろうとしていた。







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