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choice02~球体の楽園~  作者: 陽芹 孝介
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喪失

夕食を終えた後、葵は部屋に戻り考え事をしていた。


陸を殺害したのは誰だと。


湖で陸は殺害された。胸と腹にそれぞれ深い刺傷…。


凶器はおそらく消去ボックスで処分したであろうが、それはさほど問題ではない。


「傷の大きさからして、おそらく厨房の包丁…しかし、それでは…」


その時葵の部屋をノックする音がした。


葵はドア穴から外を覗いた。

有紀だった。


葵はドアを開けた。

「どうしました?有紀さん…」


有紀は言った。

「少し話をしたくてな…、いいか?」


「どうぞ…」

葵は有紀を部屋に入れた。


有紀は部屋のソファーに座り、葵に言った。

「少し気分転換をしたくてな…」


「珍しいですね…あなたのそんな顔は…」


葵の言うように、有紀の表情は少し浮かなかった。


話をそらすように有紀は言った。

「犯人の目星はついたか?」


「いえ、まだ…。わからない事だらけです…」


「葵も手こずるか…。12人目は誰なんだ…」


葵は髪をクルクルさせながら言った。

「それなんですが…、どうやら僕たちは検討違いをしているかもしれません」


「どういう事だ?」


「凶器です…。陸さんは包丁で殺害されてます…」


「それは犯人が包丁を使ったからだろ…」


「勿論そうですが…、それなら犯人は12人目ではありません…」


「なに?…何故だ?」


葵は答えた。

「凶器と思われる包丁や、刃物類は厨房にしかありません…」


有紀ははっとして、言った。

「そうか…」


葵は少し口角を上げた。

「そうです…12人目に、刃物を入手するタイミングはないのです…。

仮に前日の深夜に、厨房に忍び込み、刃物を入手したとしても…」


「朝食を担当している、歩が気づくはず…」


「その通りです…。しかし、歩さんに確認したところ…朝食を準備した時は、特に異変はなかったそうです…」


有紀は黙って頷いている。葵は続けた。

「つまり、12人目に凶器を入手する事は不可能です…」


有紀は言った。

「だとしたら犯人は身内で、12人目がアマツカ…」


「その可能性は大いにあります…」


葵は有紀に聞いた。

「有紀さん…この世界に来る前に頼んでいた事ですが…」


「昏睡状態の患者の件か?」


「はい、調べた後ですか?それとも調べる前にこの世界に?」


「調べる前だ……と、言うより調べる時にPCを開き…、気付いたらこの世界だ」


「なるほど…」

葵は髪をクルクルさせて何かを考えている。


有紀は葵に言った。

「どうした?…何かに気付いたか?」


「三木谷祥子…、彼女はいったい…」


「確かに他とは違うな…彼女が犯人だと?」


「それはまだ…、しかし、あの余裕は…、何かを悟ったような感じです」


有紀は顎をさすりながら言った。

「脱出の妨害はしないと言っていたが…」


「彼女にはまだ秘密がありそうです…。まぁ僕の勘ですが…」


「とにかく脱出の事を最優先に考えなければな…」


葵は有紀に聞いた。

「ところで、有紀さん…。話は何ですか?」


有紀は苦笑いして言った。

「なんだ?急に…」


「こんな時間に僕の部屋に来るのは、珍しいですからね…。何がありました?」


「さすがだな…」


有紀は息を整えて言った。

「歩の事なんだが…」


「歩さんがどうしました?」


「変だと思わないか?…」


「変?……、確かに少し様子がおかしいですね…」


ここ最近の歩は、葵から見ても、確かに少し様子がおかしかった。


話しかけても…どこか、心ここにあらず…と、いった感じだ。


有紀は言った。

「あいつは普段は、チャランポランでいい加減だが、決して隙はない…。しかし、ここ最近…どこか気が抜けている」


「ひどい言い様ですが、確かに歩さんは…いざという時には頼りになります」


有紀は言った。

「私は…愛が関係あると思うのだが」


「愛さん…ですか?」

葵はピンとこない感じだが、有紀は言った。

「歩は食事準備の関係で、愛といる時間が、他の皆より長い…」


「それで?…」


「何かを相談されているか…、言い寄られているか…」


葵はキョトンとした。

「言い寄られている?」


「ああ…、それであいつは困っている…」


葵は少しにやけて言った。

「嫉妬ですか?」


有紀は憮然とした表情で言った。

「馬鹿な事を言うな…。あいつは誰とも男女の交際はしない…」


「何故そう言えるのです?」


「葵…、お前は知っているだろう?あいつが何故カメラマンを選らんたのかを…」


葵は少し表情を落とした。

「そうでしたね…」


有紀は言った。

「あいつは…誰とも付き合わない…。それは間違いない…」


「しかし、歩さんに愛さんの事を聞いたら…少しは彼女の事が、わかるかも知れません。

祥子さん曰く、愛さんも脱出反対派のようですから…」


有紀は言った。

「しかし、脱出したくないとは…」


「それに関しては、だんだんと…わかってきました」


「まぁ、愛に関しては歩に聞いてみよう…」


その後少し二人は脱出について話し合い、有紀は部屋に戻った。


有紀が帰った後、葵はそのまま眠った…。


新たなる犠牲者が出るとも知らずに…。


……四日目…午前……


朝の食堂では珍しい事が起こっていた。


「遅いな…なにしてんだ?」

歩は時計を見ながらそう言った。


有紀も言った。

「こんなことは今までなかったぞ」


食堂は深刻な空気に包まれていた。


葵が言った。

「何かあったのかもしれません…」


いつもいるはずの人物がいない。


いつもなら時間を厳守するはず…、しかしその人物はまだ来ていない。


九条がまだ食堂に来ていなかった。


歩が言った。

「まぁ、とりあえず呼びに行こうよ…、あいつも色々疲れているから、まだ寝ているかも…」


「じゃあ、僕も行きますよ」

そう言って葵も立ち上がった。


愛が心配そうに言った。

「歩さん…、九条さん、大丈夫ですよね?…」


歩は笑顔で言った。

「心配ないよ…。有紀、皆を頼むぞ」


「わかった、一応警戒はして行け…」


「ああ、わかってる…。葵君…行こう」


葵と歩は食堂を出て、階段へ向かった。


歩が言った。

「九条が時間を守らないのは、明らかにおかしい…」


葵も言った。

「ですね…、何かあったと考えるのが自然です…」


そして、九条の部屋の前に到着した。


歩が言った。

「まぁ、あいつも人間だから…寝坊の一つもするさ…」


だが、そんな歩の思いは、扉を開きすぐに崩れ去った。


扉を開けた瞬間、異臭が鼻を刺した。


二人は瞬時に思った。

まただと…。


その臭いは……、死臭だった。


歩は意を決して扉を開けた。


九条がうつ伏せで倒れている。


葵と歩は、すかさず九条の元へ走った。


歩が叫んだ。

「九条っ!」


しかし、歩の叫び声は、ただ虚しく部屋に響いただけだった。


九条は……。


死んでいた……。


葵は九条の死体をただ見つめた。


「また…、死んでしまった…。くそっ!」


葵は壁を思いっきり殴った。


ドォンッと、激しい音が部屋に響き渡った。


葵の拳は血で滲んだ。しかし、怒りが痛みを凌駕して、拳はなにも感じなかった。


歩はゆっくりと立ち上がった。

「有紀を……、呼びに行こう…」


歩は下を向いていて、どのような表情かは、わからなかったが…怒りで震えていた。


九条が死んだという事は、皆をまとめる者がいなくなった事を意味する。


しかし、二人はそんな事より、仲間を失った事実に…、死なせてしまった自分達の無力さに…、ただ、押し潰されそうだった。










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