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choice02~球体の楽園~  作者: 陽芹 孝介
15/29

相違

歩は片付けを終えた後、愛を部屋まで送った。


愛は泣きつかれ憔悴していた。


食堂に残った4人、葵、有紀、九条、五月は事件について話ていた。


「事件当時の皆さんの行動は?…」


そう葵が聞くと九条が答えた。

「祥子さんは部屋で絵を描いていたそうだ…。後、赤塚さんとマリアちゃんはそれぞれ部屋に、歩と愛ちゃんは厨房で昼食の準備…。僕と亜美ちゃん、片岡さんは食堂にいたよ…」


「僕と五月先輩は一緒に植物館と教会を調べていました…」


九条が続けた。

「そして正午を過ぎても、君達や陸君が食堂に来なかったので…亜美ちゃんが呼びに行って、湖で陸君を発見した…」


葵は髪をクルクルしながら言った。

「部屋にいた者はアリバイが不確かですね…。食堂にいる人間に、気付かれないように湖まで行き、陸さんを殺害…。可能と言えば可能です」


有紀が言った。

「あと12人目が、本当にいるのか調べる必要がある…」


「そうですね…。空部屋と陸さんの部屋を調べる必要があります、何か手懸かりがあるかもしれません…」


九条が言った。

「空き部屋はわかるが…、陸君の部屋に手懸かりがあるかな?…」


葵は言った。

「陸さんは普段、昼食をするまで…午前中はグランドで汗を流しています。その陸さんが何故湖にいたのか?…、引っ掛かります」


五月が言った。

「どういう事?」


「誰かに呼び出された可能性があります…」


有紀が言った。

「そして殺害された…、遺体には刺傷以外の目立った外傷は無かったな…」


「その可能性はあります…。まぁ振り向き様に刺したとも考えられますが…」


有紀が言った。

「とにかく2つの部屋を調べる必要があるな…」


五月が言った。

「私が…行きますっ!」


九条が言った。

「危険だよ…」


葵が言った。

「僕がいるので大丈夫です…それにカメラは必要ですから…」


「私はただのカメラマンかっ!」

五月は怒っているが、葵に気にした様子は無い。


葵が言った。

「時間がありません…行きますよ」


葵は五月にそう言うと席を立った。五月は葵につられるように立ち上がり、葵の後を追った。


食堂を出ると、丁度歩が2階から降りてきた。


葵が言った。

「歩さん、愛さんのようすは?…」


歩はどうも…ばつの悪い表情をしている。

「あ、ああ…もう落ち着いて、今は眠っているよ…」


葵は歩の表情を見て言った。

「何かありましたか?…」


「いや、別に…、彼女の感情の爆発に少し驚いただけさ…。葵君は気にしなくていいよ…」


何を言っているのかよくわからないが、深追いする必要も無さそうなので、葵は歩の言う通りに、気にしない事にした。


「じゃあ、俺…夕食の準備があるから…」

そう言うと歩は逃げるように食堂に行った。


歩の様子を見て五月が言った。

「絶対なんかあったわ…、あの二人…」


「あの二人とは?歩さんと愛さんですか?…」


「そうよ…、前から怪しいと思ってたのよっ!」


葵は不思議五月そうに言った。

「怪しい?何処が?…アリバイもしっかりありますよ…」


五月は頭を抱えた。

「そうじゃなくて…、もういい…。それにしても、あんたって、本当に鈍いわ…」


「何を言ってるんです?早く行きますよ…」


そう言うと葵は階段を登った。

五月は呆れながら、葵の後を追った。


「ここが陸さんの部屋です」


葵の前には陸の部屋の扉がある。

『205』号室で、左隣は有紀の部屋で『204』、右隣は『206』で愛の部屋だ。


葵は陸の部屋の扉を引いた。


部屋の中を覗いてみると、他の部屋と間取は変わらない…。


奥にベットがあり、その壁には窓が付いている。


二人は中に入った。


葵が五月に言った。

「先輩は部屋の隅々まで写真を…」


「わかった、任せといてっ!」


葵は部屋の隅々まで調べたが、特にこれといって重要な物品は無かった。


「あるのは、トレーニングウェアやらサッカーボールなど…事件に関するものは…うん?…」


そう言った葵は入り口付近で何かを発見した。


小さな紙切れが落ちていた。葵はそれを拾う。

「先程は気付かなかったが…これは、メモ…」


葵はメモを読んだ。

「『湖で待つ』…指定の時間は書いてませんね…。うん?紙の端に黒い…なんだ線か、印か?」


葵の言うように紙の端に黒い2mm程の線がある。


葵はメモをビニール袋に入れた。


二人は陸の部屋を出て、12番目の部屋…空き部屋に向かった。


部屋の前に着くと、葵はノブに手をかけた。


「鍵は掛かっていませんね…。開けますよ」


そう言うと葵はドアを開けた。

部屋の中は殺風景としていた…。生活の痕跡を探す。


葵は部屋を調べながら言った。

「一応隅々まで写真を…。まぁ、仮に誰かが生活していたとして、痕跡は残さないでしょうが…うん?」


葵は何か違和感を感じた…。

窓の(ふち)を調べると、何か付いている。


「これは…」

窓の縁には2つ…糸のような物が付いている…。


葵は五月に言った。

「先輩、このか所を写真に…」


葵は次に洗面所、トイレと順に調べた。

「ふむ、どちらも…。先輩、洗面所とトイレも写真をお願いします」


五月に写真を撮ってもらい、その他の部屋の箇所を調べたが、たいした痕跡は無かった。


部屋を出て二人は食堂に戻った。


食堂に入ると九条、有紀、歩がお茶をしていた。


九条が葵に聞いた。

「葵君、どうだった?…」


葵は陸の部屋で発見した、紙切れを皆に見せた。


皆がそれを見終わると、葵は言った。

「見ての通り、陸さんは誰かに呼び出されたようです…」


有紀が言った。

「いったい誰が?…」


葵が言った。

「昨日…陸さんと亜美さんが、軽い口論をしていました…」


九条が言った。

「まさか亜美ちゃんが?…」


葵が言った。

「可能性は捨てきれませんが、あの取り乱しかたからして…、陸さんを五月にしたとは…思えませんね。ただ…」


有紀が言った。

「ただなんだ?」


「陸さんが湖に呼び出された事に、関係がある事は考えられます…。ただその前に確認しなければならない事があります」


歩が言った。

「何を確認するんだい?アリバイ?…」


「いえ、アリバイはこれ以上確認しても仕方ありません。より単純なことです」


五月は考えながら言った。

「う~ん…、なに?…」


葵は言った。

「皆に脱出する意志があるかどうかです」


あまりにも当たり前の事に、皆は言葉が見つからない…。

ここにいる人間は皆が脱出したいに違いない。


九条が言った。

「脱出したいに決まってるじゃないか…、葵君何を言っているんだい…」


九条は、馬鹿馬鹿しいといった感じだか、葵の表情は真剣だった。


「現在食堂にいる、僕を含めてこの5人は脱出する気があるのは、知っています…。しかし、他の人はどうでしょう…」


有紀が言った。

「どういう事だ?」


「僕は彼ら彼女らが…心底脱出したいと、思っていないのではと、考えてます…」


葵がそう言うと、食堂の入口から声がした。

「月島君の言う通りよ…」


皆がその声に反応した。声の主は…祥子だった。


祥子は皆の視線を集めると、先程の続きを言った。

「私は脱出したくないわ…、少なくとも亜美さん、愛さんもそう思っているはずよ…」


葵は言った。

「やはりそうですか…、そんな気はしていましたが…」


「ふふふ、私にとってこの世界は素晴らしいわ…」


「何処が素晴らしいのです?人が一人死んでいるんですよ…」


「元の世界でも人は死ぬわ…死にたくなくても、いつかは…」


葵は呆れながら言った。

「こんな所で天寿を全うするつもりですか?」


祥子はうすら笑みを浮かべた。

「あなたには理解できると思うのに…、でも、この世界で生きて…この世界は死ぬ…。悪くないわ…」


九条は少し表情を強張らせた。

「本気かい?…」


「私は本気よ…この世界は私のりそうよ」


話は平行線で結論が出そうにない。


脱出したい者と、脱出したくない者で、派閥ができてしまった感覚だ。


葵は髪をクルクルさせながら言った。

「簡単には…いきそうに、ないですね」





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