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choice02~球体の楽園~  作者: 陽芹 孝介
13/29

衝撃

皆での朝食を終え、屋敷を出た葵は五月を連れて植物館に向かった。


意外にも葵が五月に申し出た。


五月は機嫌良く言った。

「あんたから誘ってくるとは、やっと私の実力を…」


遮るように葵が言った。

「カメラに収めてほしいだけです…」


五月は何か言いたそうだったが、こらえた。

「ぐっ…、まぁいいわ…」


植物館に到着し葵はさっそく植物を物色し、五月は写真を撮りまくっている。


すると葵は何かに気付いた。

「鏡…」


初日に来た時は気付かなかったが、植物の中に、少し大きい正方形の鏡が確かにあった。


「初日の違和感はこれか?…」


葵が呟いていると、五月も何か見つけたようだ。

「月島葵っ!上、上見て…」


「上?…」


五月に言われるまま葵は天井を見た。


天井には、何もない空が見える穴と、そのそばに1枚の鏡が付いていた。


「鏡…、また…」


五月が不思議そうに言った。

「何に使うんだろ?…」


葵は髪をクルクルし始めた。

「併せ鏡か…しかし、何のために…。それに初日に感じた違和感と少し違う…まだ感じる、違和感を…」


五月が言った。

「何ブツブツ言ってんの?」


葵は呆れて言った。

「緊張感の無い人ですね…、僕に協調性が無いと言う前に、あなたは緊張感を少し持った方がいい…」


五月は怒りの表情で言った。

「なぁにぃっ!」


葵は気にすることなく言った。

「次へ行きますよ…」


二人は植物館を後にした。


植物館を出た二人は、教会へ向かった。

教会は屋敷の部屋の丁度裏側で、植物館からは役100m程の距離だ。


教会に入りさっそく葵はある物を探し始めた。


葵を見て五月が言った。

「ここ、写真だいぶ撮ったからな…何を探してるの?」


葵は入り口を指差し言った。

「ありました、鏡です…」


五月は不思議そうだ。

「またぁ?」


「ええ、また鏡です…」


その鏡は入り口の真上にあった。

正方形で70~80cm程の長さで、植物館にあったのと大きさは変わらない。


葵は天井を見た。

「また鏡だ…」


天井には植物館と同じく穴が空いていて、また鏡が備え付いてある。


葵は髪をクルクルしながら言った。

「繋がっているのか?…入り口の鏡は祭壇を写している…」


五月が葵に言った。

「どうしたの?考え込んで…」


「少しカメラを貸して下さい…」


五月は嫌そうな顔で言った。

「別にいいけど…壊さないでよ…」


葵は五月からカメラを受けとると、祭壇の上に置いた。


鏡はカメラを写している。


葵は口角を上げた。

「フッ、なるほど…」


「どうしたの?」


不思議そうな五月を、気にすることなく、教会を出て行こうとした。


教会を出る間際に五月に言った。

「カメラはそのままに…」


何がなんだかわからない五月は、葵を追いかけた。

「ちょ、ちょっと…まちなさいっ!」


教会を出た葵は、植物館に向かって走り出した。


植物館に到着した葵は、真っ直ぐに植物の中に混じっている鏡へ向かった。


鏡を確認した葵は口角を上げた。

「フッ、やはり…」


その頃五月も到着して葵に言った。

「なによ……、急に走り出して……」


葵は何かブツブツ言っている。

「…後は…、あの球の正体を…、しかし、あの球はいったい…」


五月が言った。

「何をブツブツ言ってんの?…」


五月に気付いた葵は鏡を指差した。

「来ましたか…鏡を見てください…」


「鏡?…どれ…」

五月は鏡を覗き見た。


中に写っている物を確認して言った。

「これっ!私のカメラ…なんで?」


葵は言った。

「教会の鏡と植物館の鏡は…繋がっているんですよ…」


「何のために?」


葵は言った。

「それはまだ、はっきりとはわかりません」


五月は口を尖らせた。

「なんだ…」


「でもこれだけは言えます…」


五月はまだ口を尖らせている。

「なによ?…」


葵は口角を上げた。

「脱出に関わる事は間違いないでしょう…」


五月は表情を明るくして言った。

「だったらもうすぐ帰れるんじゃ…」


「まだピースが揃っていません…」


「ピース?…」


「確証が無いので、何とも言えません…」


五月は残念そうに言った。

「そっか…」


「しかし、そう遠くは無いです…。さぁもう12時20分です、屋敷へ戻りましょう…」


二人は植物館を出て屋敷に戻る事にした。


すると植物館を出て屋敷に向かう最中だった。


反対の芸術館の方からその声は聞こえた。


「キャーッ!…だ、誰かきてっ!…誰かっ!」


反射的に葵は五月に言った。

「先輩っ!カメラを取りに行ってすぐに、悲鳴の聞こえた方へっ!」


五月は表情を強ばらせて言った。

「わっ、わかったっ!」


葵は悲鳴の聞こえた方へ走って行った。


「何が?…まさか…」


屋敷から歩と有紀が出てきて、葵と合流した。


歩が葵に言った。

「聞こえたか?」


「はい…、誰の悲鳴かは…」


有紀が言った。

「おそらく…亜美だ、亜美の悲鳴だ…とにかく行くぞ」


3人が向かった先、小さな湖のほとりに亜美がいた。


亜美の足元に誰か倒れている。


歩が言った。

「亜美ちゃんっ!いったいどうし…」


歩も倒れている人がいる事に気付いたようだ。


有紀が言った。

「歩っ!亜美を頼む…、葵…」


「わかってます…」


うつ伏せに倒れている男性がいる。


男性の下には大きな血溜まりがあった。


葵は男性に近づき、男性の確認をした。

陸だった。


葵は脈をとった。

「くっ、だめだ…」


呼吸に心音も確認したが…、陸は既に息絶えていた。


有紀が言った。

「葵…」


「ええ…死んでます…」


亜美は呆然としてその場で崩れた。


歩が亜美を支えた。

「亜美ちゃん、しっかり!」


やがて、五月、九条が現場に到着し、祥子と愛、マリア、赤塚が到着した。


葵は地面を思いっきり殴った。

「くそっ!…また…、また繰り返すのか…。くそっ!」


目の前で起こった人の死に、皆は呆然とするしかなかった…。


静かなこの球体の世界で、葵が地面を殴る音が虚しく響いていた…。







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