表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バグズ・ノート  作者: 御山 良歩
最終章 在る黒陽、昇る銀月
76/79

六十五話 来る災厄

これでストック終了です。

少ないって?ごめんなさい!

 神界の異変も、世界の異変も収束が見られた。


 新たな位相に引越しが行われ、神界を狙った無差別転移も旧神界を丸ごと消滅させることで処理された。

 しかし巨神の爪痕は甚大なものであり、交戦した神界のトップが軒並みダウンすることとなったが一部の神郡では滞りなく作業は行われていたようだ。

 これを見れば、どれだけトップが作業に参加していなかったかがよくわかる。

 果たしてこれはいいことなんだか悪いことなんだか・・・まあ、他所は他所なのでこちらは自分にできることをするまでである。


 といっても、今の自分にできることは少ない。

 飢餓が自分を支配していた時に残っていた癖を取り除き、極限にまで達してしまった力の制御を覚える。それだけだ。

 一番厄介なのは癖だろう。飢餓感は薄れたが、それでも無意識に顎を動かしてしまうのだ。

 そのたびにアゲハにびくっと反応されてしまう。トラウマは未だ抜けてはいないようだ。

 悲しいことと理解は出来るものの、それ大して落ち込むことはない。

 その感情も全て、太陽へと捧げてしまった。

 感情の発露は未だ再生できないが、力の制御は今のところ順調である。少なくとも書類を持った瞬間に燃やすことも、ペンを持ったときへし折ることもなくなってきた。

 制御のために廃棄品となったペンの山を見れば、意地でも習得しなければいけないと言った思いに駆られる。

 一時期は絶対に壊れないペンをつくろうとも試みたが、ペンが頑丈になっても書類は普通の紙なので、結果として処理済ではなく穴だらけの書類ができあがってしまった。

 ままならないとは、こういうことだろう。


「よう、やってるか?」


 ぎこちなくも書類を片付ける中、眼帯の男―――オーディンが返事を待つまもなく入ってくる。

 ノックぐらいはしてもいいんじゃないだろうか?


「前よりかは速くなってるみたいだな」


 ずかずかと入り込み、書類に埋まっていたソファーを掻きだし座り込む。

 パチンと指を鳴らせば、ルーンが床に浮かび上がり湯気を漂わす紅茶つきテーブルがせり上がってくる。

 人(?)が苦労して仕事している前でティータイムとは、どういう精神なんだろうか。

 まあ、書類の大半は俺が起こした結果の後始末ではあるが。


「クックック、そう不機嫌そうにするな。何も今回は遊びに来たってわけじゃないんだよ」


 その言葉は、いつもは遊びに来ているというように聞こえるのだが、はて聞き間違いだろうか。


「頑張っている新入りへの褒美ってやつだ。―――入ってきていいぞ!」


 にやにやと笑いながら、扉の向こう側へと声をかける。

 そして数秒も待たず―――ぱたぱたと走り去っていく音が聞こえてきた。


「・・・・・・・・・」


『・・・・・・・・・』


 白けた空気が漂う。

 オーディンといえどもまさかの展開だったのだろうか、石のように固まったまま動かない。

 どう始末をつけるかとまだ見ぬ逃亡者を想像していたところ、顔はそのままで先ほどと同じようにパチンと指を鳴らす。

 するとテーブルは床に溶け込むように収納され、オーディンの肩ほど高さに新しいルーンが展開された。

 折れた剣のような形をしたルーンが展開されて丁度十秒ほど経ったころ、真っ黒な毛玉が猛スピードで飛び出していった。

 突然転移されたにも関わらず一切方角を見失うことなく、扉を突き破って再び逃亡を開始する。

 が、何度も逃亡を許すほど甘くは無かった。

 今度は床に垂直にルーンが展開され、そこから毛玉がまた飛び出し、扉を抜けるとルーンから飛び出すと言う無限ループが完成した。

 よくよく見れば脇があいているのだから、そこを抜ければいいはずなのだが、それすらわからないぐらいに混乱しているのがよく見て取れる。

 無言でその光景を見続けること数十分、いい加減飽きたオーディンが毛玉の首根っこをつかみ捕獲したことで終わりを迎えた。


「緊張するのはわかるが、あんまり逃げられるのも困るんだよ。時間も有限だからな」


「きゅー・・・」


 襟をつかまれ不満そうに唸り声を上げる毛玉は、抵抗は無意味と知ったのかおとなしくした。

 改めて毛玉を観察すると、それは少女であった。

 ぼさぼさの膝近くまである黒の髪の毛のせいで動物か何かに見えていたが、よくよく見れば端正な顔立ちであることがわかる。

 磨けば光る原石というやつだろう。

 微かに脳裏の残る、遥か昔に通っていたと思われる『ショウガッコウ』なら、さぞかし人気になっただろう。

 

「ほれ、挨拶ぐらいは自分でしな」

 

 オーディンに背中を押され、少女は躓くようにこちらに向かう。

 何か声をかけたほうがいいかと思ったが、自分は現在言葉を発することができないことに気がついた。

 戦闘中はよかったが、日常生活では不便極まりないものだ。

 俺の目の前に立った少女は、口を開くことなく顔を俯けて立っている。

 とりあえず、こちらからも何かアクションを起こしたほうがいいと思ったのでビットのように浮かぶ手を一つ少女の頭に運んだ。

 だが、その選択肢は間違いであった。


「~~~~!!!」


 いろいろな限界を超えた少女は俺の手を回避し、まっすぐと俺へと向かい拳を振るった。

 ドンっ!と分厚い肉を殴った音共に、体が宙に浮いた。


『ッ!?』


 あまりの出来事に体が硬直してしまう。

 痛みやダメージはない。

 俺の本体は、黒太陽そのものだ。

 今は接続を切っているが、それでも残滓のようなものが残っている。

 その恩恵が中途半端な怪力と、超重量だ。

 惑星とまではいかないが、中規模程度の隕石は軽く超える重量がこの体に宿っている。

 その超高密度物体を技術も何もない殴打で浮かせる、それも幼き少女がだ。―――ありえない。


 瞳に涙をため、少女は再び拳を振りかぶる。

 悪食とはいえ、流石に何度も拳を食らう気はないので尾を天井に突き刺し蜘蛛のようにぶら下がる。

 少女は急に目の前から消えたことに驚いたのか、拳を固めたまま辺りを見渡している。

 力は強いが、察知能力はあまり高くないようだ。

 俺は小さく溜息をつき、背後から忍ばせておいた手で少女の胴を掴んだ。

 

「んんん~~~!!!」


 急に宙に浮いたことで多少暴れるが、残念ながら俺の手を引き剥がすほどの力はないようだ。

 というか・・・重い。とてつもなく重い。

 見た目からして四十は行かないぐらいかと油断していたが、手の感覚からして千は優に超えている。

 これなら黄金の像を持ったほうが遥かに軽いぞ。

 暴れる少女を尻目に、オーディンを睨む。

 オーディンはやれやれと肩を揺らした。


「はっはっは、悪かったよ。目覚めたばかりのせいか人見知りが激しくてな、一番性格が無難で突飛な見た目をしてるお前に会わせればちっとはましになるかと思ったが・・・まあ駄目だったか」


 こいつは一体何を言っているんだ?

 もはや呆れるしかない。

 山ほどいいたいことはできるが、どれだけ文句を言いたくても言葉は出ない。

 ・・・一回ぐらい行動で示したほうがいいか?


「あ、言い忘れてたけどそいつ巨神―――だいだらぼっちだからな」


 拳を握って悩んでいたところ叩きつけられた衝撃の真実。

 思わず力が緩んで、少女を落としてしまう。

 ・・・なんだって?巨神?だいだらぼっち?あの馬鹿みたいにでかくて強かった?

 いやでも、そう考えればつじつまがあう部分もある。

 俺を殴り飛ばした膂力、体格に似合わぬ超重量。

 身長さえ除けば、まさに巨神と同じと言っても過言ではない。巨大ではないが。

 というか、なんで生きてるんだろうか?神々によって討伐されたのではなかったのか?


「いやな、言いたいことはなんとなくわかるんだよ。そこはひっじょーに面倒な事情があってな・・・だいだらぼっちは巨人っていう種族の始祖なわけだ。各地で発生した巨人信仰やらなんやらもだいだらぼっちの影を見たことで発生したともいえる。もちろん知っての通り神々にも巨人系のやつはいるわけで・・・」


 ・・・なんとなく話が見えてきたな。


「だいだらぼっちを消すと、巨人系の神の力も大幅に削がれちまうんだよ、これが。な?面倒だろ?」


 同意を求めるようにこちらをオーディンは見る。

 納得できない部分は多いが、理解は出来た。

 微かに残る神話の記憶を辿れば、巨人の神は多い。そもそも、人型の神は巨人であることが多い。

 その大半が使い物にならなくなると思えば、妥当な処置であろう。個人の感情を抜きにすればであるが。

 ちらっと巨人の娘に視線を向ける。

 身長の倍ぐらいの高さから落とされたにも関わらずけろっとした表情でぼんやりとこちらを見ている。

 この姿を見れば、とてもではないがあの巨人を思い浮かべることは出来ないだろう。

 そもそも先ほどは猪武者のように突っ込んできた癖して、急におとなしくなったのは何故だろうか?

 ぼんやりと思考していると、オーディンは更に爆薬と投下した。


「言い忘れてたが、そいつの面倒はお前に頼むぞムー」


 なにをいっているんだこいつ。


「ムー、確かお前神群持ってないよな?丁度いいし、戦力としてそいつでも入れとけ。力なら十分にあるし、耐久力は聖剣だろうが妖刀だろうが傷一つつかない。暴走しそうになったら首輪が抑制するから安心しな」

 

 オーティンの言うように、少女の首には首輪が嵌っていた。

 見る角度により色が変化する親指ほどある宝石が、喉もとの部分に嵌っている、金属製の首輪だ。

 先ほどは襲い掛かってきたのに、今はぼんやりとしているのはこの首輪のせいだろう。

 確かに、安全装置としての性能は証明された。・・・が   


(残念だが無理だな)


 両手でばつをつくる。

 俺としては因縁や憎悪やらはもう残ってないが、眷属は別だ。

 完全な理性の化け物と化した俺と違い、眷属達は感情を持っている。

 命令しなくても外面を繕うぐらいはするだろうが、それでもしこりというものができてしまうはずだ。

 ただでさえ眷属達には苦労をかけているのだ。これ以上負荷をかけたくはない。

 オーディンはしばらくの間俺をじっと見つめ・・・大きく息を吐いた。


「はあ・・・いやな、勘違いをしているようだから言っておくが―――これは決定事項なんだよ」


 本当になにいってんだこいつ。


「首輪の性能は折り紙つきだ。だが、万が一、いや兆が一にも暴走をした場合最も被害が少なく尚且つ巨人を一定時間抑制できるのはお前しかいない。そもそも、お前が心配しているのは自分の部下のことだろうが、一つ言うならそうだな・・・」


 ―――甘ったれんな。

 オーディンはそう言い切った。


「ムー、俺も見ていたがお前の眷属はお前が思うほど弱くない。部下思いは美徳だが過保護は悪だ。それをしっかりと自覚しろ・・・だいたいこの神界にどれだけ多くの巨人が住んでいると思う?主神の眷属となれば他の神と行動することもあり得る。そのたびに苦手だから無理ですなんて話通じると思うか?思わねえよな?」

 

 普段の腑抜けたものではなく、真剣な口調でオーディンは説教をする。

 

「もう一度言う。甘ったれんなよ、ムー。奴等はお前が思う以上に強い」


 そう言い切ったオーディンは表情を一転させ、いつものどこか抜けた表情へと戻る。


「・・・こういうのは柄じゃねえ。あんまり言わせんなよ?」 


 オーディンはこつんと俺の胸部を拳で叩いて、ひらひらと手を振り部屋を退出していった。

 俺は先ほどのオーディンの言葉を頭の中で反芻する。

 後悔もなにもない疑問が頭をめぐる。

 部下を気遣うことは大切なこと、それを笠にきて俺は彼らの可能性も奪っていたのではなかろうか。

 過保護は悪。オーディンはそう言い切った。

 ソファーの上に行儀良く座る巨人の残骸に視線を向け、再び嘆息する。 

 いろいろと確認したい事はある。だが一つだけ確かなことがあった。


 ―――上手こと言って厄介ごとを押し付けたなあいつ。


 更に小さなため息が、書類だらけの部屋に空しく吹いた。

 


 

          *




「・・・それは、真なのか」


 とある城の片隅で、訝しげに問う男がいた。

 まだまだ青年期を抜けきっていない特有の甘さ(・・)を残しながらも、男の首には正当な王たる証であるペンダントが下がっていた。

 

「信じられぬかもしれませんが、これは全て真のことでございます」


 その男に対するは、まるで正反対なほどみすぼらしい姿をした老人であった。

 ぼろぼろのローブに、枯れ木の枝のような指と腕、しゃがれた声、全てが老いという猛毒に侵された人間の成れの果てというべきもので構成されていた。

 だが、その声に宿った信念だけは違っていた。


「あれは、おぞましき悪です。まさしく、世界が死力を尽くし搾り出した膿。滅ぼさねば我が国の二の舞になるのは必須でございましょう。かの者に正面から向き合った私が保証いたします」


「ふむ・・・私はそうは思えんのだが・・・・」


「いけません!あなたは既にこの国の王!大陸一ともなる国の王が臆病風に吹かれた者の戯言に惑わされてはなりません!あなたもご覧になったでしょう・・・目をつぶされ落ちぶれた前お」

 

 その次の言葉を紡ぐ前に、男は剣を抜いていた。

 だが、それは老人の首を跳ね飛ばす寸前に止められていた。

 老人の背後から剣を突き出す仮面の男によって。


「・・・例え貴殿であろうと、父上に対する侮辱へは死をもたらすと理解しろ。次は確実に首を落とす」


「失礼しました。-――下がれ」


 老人の命令を受けた仮面は流れるような動作で剣を収め闇へと消える。

 男は近衛の中でも最強といわれる騎士に控えめながらも太鼓判を押される程度には実力を持っている。

 しかし、それでも突如出現した仮面の気配を察知することはできなかった。

 隠者というには剣の腕が立ちすぎ、戦士としてはあまりにもかけ離れすぎている。

 

(これが世界最強か)


 男は舌打ちして剣を納め、再び座についた。 


「奴は人間に対して怒りも憎しみも抱いておりません。何も思っていないのです。だから、問題なのです」


 老人は言葉を一旦切った。


「周囲への影響を考えず、ただ行動するだけで世界を滅ぼす、そういう存在なのです―――故に!我らは奴を滅ぼさねばならない!」


 拳を振り上げ、老人は強調する。

 冷めた目で男はそれを見るが、頭の中では思考を巡らしていた。

 老人の言葉は確かに一理ある、危惧していることだって自分たちも既に考えていたことだ。

 現に大臣の中には老人と同じく強攻策を提案するものだっている。

 だが、老人の考えることには重大な欠点が存在するのだ。


「・・・だが、どうやってそれを実行する。この世界最強と謳われた龍神をもっても殺せなかった巨人を殺したものだぞ。練達の剣士でも大陸一の魔術師でも希望などないぞ」


「確かにそのとおりでございます。この世界(・・・・)のものでは、奴を殺すことは叶いません・・・ところで、天剣語という御伽噺を知っておられますか?」


「ああ、よく乳母から寝物語として聞かせられたからな。だがそれが・・・いやまさか・・・!」


 含みのある老人の言葉と、後に与えられた一見関係ないように思われる話題変換。

 その二つは融合し、一つの答えを男に齎す。

 

「天剣を振るい魔王を打ち滅ぼした勇者・・・さて彼は一体どこから現れたのでしょうか?」


 答えがわかりきった問いを、あえて焦らすように老人は問う。

 

 蛇は牙を研ぐ。

 入念に毒を蓄え、蜂蜜よりも濃密に濃厚に濃縮する。

 全ては、一撃で獲物を食らうがために。




          *




 その時は、あまりにも呆気なく訪れた。

 ムーがはじめに感じたのは小さな違和感。

 頭に羽虫が止まったかのような、ほんのわずかな不快感。

 それにいち早く気づき反応したのは、ムーではなく・・・


「ムウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」


 空間を切り裂き現れたのは、憤怒の表情のオーディンであった。

 無理やり切り裂かれた空間にはひびが入り、次元の狭間が呼び起こされブラックホールのようにヘヤのものを吸い込んでいく。

 普段のオーディンなら考えられないほど雑な移動方法、それが故ムーは驚きのあまり硬直してしまった。

 オーディンは一瞬でムーの背をとり、ゆるやかに回り続ける歯車に槍を突き刺す。

 

「動くなムー!『妖精の鎖(グレイプニル)』!『七悪の調べ、簒奪皇帝』!」


 無茶苦茶な魔力で創造された超重量の鎖により床に拘束され、オーディンを振り払うことを止められる。

 瞬間、先ほどまで感じていたものとは比べ物にならないほどの不快感が全身を這いまわる。

 何か重要なものを削り取られる感覚、細かい鑢のような触手が全身を這い削るような不快感。

 筆舌に尽くしがたい感覚から逃れようと暴れるが、半透明の鎖は一部の隙間もないほどぎちぎちに縛りつけ、完全にムーを拘束していた。

 

「後で話はする!今は暴れんな!【閉】+【鍵】+【界】=『孤独な王領』!」


 シャンと、涼しげな鈴の音が背中を中心に鳴り響く。

 最後の呪文が唱え終わったオーディンは動きを止めた。

 そのころには既に不快感も消え去っていたため、ムーも抵抗をやめていた。

 オーディンはしばらく沈黙を続けた後、ゆっくりとムーの背中からどいた。

 歯車から槍を引き抜き、穏やかな表情で窓際へと歩いていく。

 窓際にたどり着いたオーディンは仏を思わせる悟りを開いた表情のまま槍を振りかぶり―――



「-―――――くっそがあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」



 ―――光すら置き去りにするスピードで床にたたきつけた。

 塔が、大理石の世界が砕け散る。空が割れる。雪のように舞い散るのは書類の山だ。

 だが、それだけのことを起こしても阿修羅の憤怒は収まっていない。

 

「ああああああああああああああああ、くそがっ!よくもやりやがったな!そこ(・・)手出すってことは死にてえってことだよなあ糞爺ィ!ここまで俺をキレさせたのはてめえが初めてだ死にぞこないがああああああ!」


 バリバリと血が流れるのも厭うことなく頭を掻き毟り、空へと吼える。

 今までのオーディンまでとはかけ離れた姿に、ムーの驚愕による硬直が解けることはない。

 憤怒のままに溢れ出た魔力が事象へと変化し、辺りに落雷が、爆発が、氷柱が無差別に乱舞する。

 それでも阿修羅の憤怒は収まることはない。

 より高く、より熱く憤怒は燃え盛る。 


「やりやがった・・・!やられた・・・!―――くそがあああああああああああああああああ!!!」






「・・・ははは、ふはは、-―-ひははははははははははは!成功だ!最高だ!素晴らしい!」


 蛇は嗤う。

 支離滅裂な言葉が口元から溢れ出る。

 それほどまでに、蛇は歓喜していた。

 この喜びを表すために喉が枯れてもいい、そう思うほどに。


「これは・・・・・・・!」


 蛇の後ろの男達はたじろぐ。

 蛇の常軌を逸した興奮に引いたわけではない。

 むしろ、彼らの目の中には蛇などは映っていない。

 彼らの目に映るのは、蛇のその先に存在するものだ。 

 

「・・・ん?」


 それ(・・)は、寝ぼけた様子でゆっくりと立ち上がった。

 辺りを見渡し目を見開き、何度も目をパチパチと開け閉めする。

 どうみても素人であり動きはどこをとっても鈍く、男がひとたび剣を抜けば感づかれるよりも早く首を落とすことができるだろう。

 だが、それなのに男は目を逸らすことができなかった。

 脆弱なれど、無視できぬ存在感を持つ者。それはあまりにも異質すぎるものであった。

 

「・・・どうかした―――なんでここにいるの龍司?」


「いや・・・俺にも・・・」


「・・・・んん・・・」 


「・・・ど、どこだここ?」


 それの周囲に倒れていたものもゆっくりと起き上がる。

 そして先ほどの少年と全く同じ行動を繰り返す。

 混乱した様子で少女達は辺りを見渡し、ようやく他に人がいたことに気がつき少年の背後に隠れる。

 反応に乗り遅れた少年は呆然とした様子でたち続けている。

 それを目にした蛇は、嗤いを必死に噛み殺し、先ほどまでの邪悪な嘲笑とは正反対の、まるで聖者のような微笑をもって両手を広げ彼らを迎え入れる。 


 

―――激動の時代が始まる。



「わが求めにお答えいただき光栄でございます!突然のこととなりますが、どうかあなた方のお力をお借りしたいのです!」



―――世界を破滅されたものの復讐が始まる。



「くそがっ!・・・・・・どこで、どこでそれを見つけたっ!糞蛇ィィィィィィィッ!」



―――世界を守ろうとするものの攻防が始まる。


 

「そして、ようこそ我らが世界へ!――――――――異界の勇者様方!」

 


―――破滅を認めない蛇と、終焉を齎す蟲の最後の戦いが火蓋を切っておとされた。


続きがないぜ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ