かくて英雄と魔王は決着ス
魔王vs英雄
完全決着!
ガッハ...!!
魔王の体を浮かし、口から血を吐き出す。鎧を壊すまでには至らなかったが、その衝撃は魔王の身体に確かにダメージを与えた。魔王が自らの神器の防御力を過信しすぎたからこその失態である。クロが本気を出したことを見抜けなかったのもあると思うのだが。
しかし神器だぞ?!あの絶対的な破壊力を持つ兵器が、そのまま鎧となった姿だ。昨日の夜試しに装着をしてみたが、身体能力の向上は1つの時よりもさらに上昇し、弓槍は勿論のこと、魔王軍幹部クラスの攻撃をもものともしない。まさに史上最硬の鎧と言ってもいい。
そんな代物を正面から吹き飛ばすレベルの実力があるなどあり得ないのだ。ここまで自分と互角に戦えているだけでも十分イレギュラーなのだ。アロン...ベリアスと名乗った王国の神器使いでさえ敵に成り得なかったのだぞ?!一体どんな魔法を使っている。
そう思い魔王は自分が持っていた神器を確認する。
魔王が本来持っていた剣...「ツヴァイハンダー」の能力は.....「拒絶」
あらゆる現象の中から、魔王が選んだもの2つを全てではないが、拒絶することができる。デメリットとしては、否定しているものは自分もそれに順さなければならないと言う点。
今自分がトリスタン、及びファキシリン、この2つの自分に適合していない神器を使うことができているのも、この拒絶の力である。
今はここら一体の魔力を「拒絶」していた。
その神器の効果は今現在も発揮され続けている。
つまり、あやつは魔力を必要としたものを何一つ使っていない。つまり、あいつは純粋な身体能力のみで我と渡り合っているのだ。
深く、深く踏み込んだ足をこちらに向けて、あやつはこちらに駆けてきた。先程と戦い方が変わったか?先程は一泊おいてから打つ、そんな違和感があった。しかし今は違う、先ほどよりも単調で
奴が迫って来る。
先ほどよりも早く
奴が振りかぶるのを、剣を合わせて止めようとする。
先ほどよりも力強い。
剣同士がぶつかり、魔王の手に強い衝撃が走る。距離を取り、痺れた腕を叱咤しながら、魔王は相手と対峙するのであった。
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魔王の横薙ぎを、上体を下げてかわして、懐へと潜り込む。その巨体の真下に入り、足首に向けてフルスイングを決めた。
前から体制が崩れ落ちていく、崩れた姿勢にもう一発ギリオンを振り抜いて距離をとった。
ボタタ、と崩れた魔王の口から血が出始める。
『......何がある?』
魔王は静かに私に問いてきた。
『...ここで私を倒し、元の世界にお前は帰るのだろう。帰る方法は...あるからな。過去に我もそれを仲間と探し、あと一歩のところまで手に仕掛けたことがある。だが魔族はどうなる?知性のない猛獣に近い魔族もいる。今人間を襲っているのはそう言うものばかりだ。大部分の魔族は静かに、あの資源もロクにないあの場所で暮らしている。それはどうなる......』
グググ、と上体を起こし、クロへと切りかかる。
上から振り下ろされた神器を、クロは両手で棒を構えて受け止めるが、受け止めきれない。徐々に下へと下り、頭へと剣先が近づいていく。
『ここで我が負ければ、魔族たちはさらに虐げられ、無意味に狩られていくのみだ!......元の世界に帰りたいだけなら...帰らせてやろう、これ以上我の邪魔をするな!』
ギリギリと、押し込まれていく中、ゆっくりと頭上に近づいてた剣先が止まった。ギリ...ギリと、
『魔族がどうとか、そんなもん知るか!魔王はお前だろ、自分で考えろ!』
剣先がじょじょに押し返されていく。剣を振った勢いは完全に止まり、むしろ押し返されていく。
払ったときにできた隙を突かれクロの全力のスイングが魔王へと命中した。
仰向けに大の字となり、魔王は倒れた。
体に痛みが走る。既に魔王の剣が身体中にカスり、血を流しすぎた。全力で喧嘩したのも久しぶりだし、明日は筋肉痛だな。
倒れた魔王を見る。できればもう立たないで欲しい。
彼は、笑っていた。
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自分でなんとかしろ、か
どれだけ苦労したと思っているのだ、ここまで来るのに、ここまで生き延びるのに。
だが、はは、めちゃくちゃな理論だ、しかし道理だ。そういえば魔王なんてものやってたな。
体はまだ動く筈だ。神器2つを鎧とした体だ、まだ動く筈なのだが、動かない。いやこれはあやつが強すぎるせいだな、そうに違いない。
負け、か。
負けとは、死、の筈なのだが.....こいつにそんな習慣は通用しないだろうな、この男には。
仮に勝ったとしても殺せなかっただろうな、我には。数十年この世界にいて、まだ甘さが残っていたとはな。同郷のもの、と聞いて既に結果はもしかしたら見えてしまったのかもしれない。この姿を見て思い出してしまったのかもしれない。故郷の姿を、
気づけば笑っていた。
自分が今やっていることが無意味に思えて仕方がなかった。
『なぁ』
気づけば近くにあの男がいた。座り込んでこちらを見ている。
『帰る方法...そのうち見つけてやるからさ、私じゃなくて、お前が帰ればいいんじゃないか?会いたい奴がいるなら...会っとけよ、間に合わなくなるぞ。』
そう言うと少しその男は遠い目をした。
少しふざけているようにも見えた男の発言の中の、その言葉だけは、真剣なように見えた気がした。
ふふ、また少し笑えてきた。
いつぶりだ?破顔するほど笑ったのは
気づけば微笑を浮かべていた魔王の背後ーーー戦場中心の上空に
鼠色の穴のようなゲートが出現した。
明日、ついに「神」降臨すーーー?




