英雄は魔王に何を語るのか
前回のあらすじ
ペリモーンズちゃん
「あ王様倒すで〜」
王様
「やらせません」
ついに主人公と魔王激突!!
いや戦えませんよ?!どーすんの?
軍隊を作ろう。
魔王軍...の兵士達の装備は貧弱だ。
主な理由としては、とにかく魔族領の物資を手に入れる手段が、人間領から攻め込んで来た兵士の鎧を剥ぎ取ったものしかないからだ。鉄が少ない、あっても、それを加工する技術すらない。魔王城ができたのは数百年前、それ以外には鉄製のものは非常に少ないのである。
現状100万にいたろうかという魔王軍に対して、わずか10万程度の王国軍が拮抗し切れているのにも、その要素は大きい。
弓、斧、槍などの原始的な武器はまだある。だが鉄の鎧、盾、クロスボウは現状魔王軍にはほとんどない。王国軍の兵士達を殺して拝借するのがせいぜいである。魔族に魔法が使えるものが少ない、というのも大きなアドバンテージだろう。
そんな魔王軍の現状だったが、魔王が直属で動かす本陣の兵士達は、魔族に攻め込んで来た兵士達から鹵獲した鎧、武器を加工して作り、魔王が直々に訓練した魔王軍でも最高クラスの兵士達なのである。
弱いはずもなかった。
先陣のグリーン軍はスライム、魔獣達と黒衣の騎士達がぶつかる。
『打てぇぇぇぇぇぇい』
パン将軍の金切り声に合わせて、戦士ギルド、グリーン軍の面々が弓を放つ。
戦士ギルドって言ったって、色々な役割がある。索敵に慣れていたり、勿論正面から魔族とぶつかっていったり、弓を得意とするものだったり...な
それを選抜して、後ろから弓を打たせる作戦だ。スライムには弓効かないからな!別に当たっても大丈夫だしね。
パンさんなりに考えてくれたんだと思うけど...やっべ、聞いてねぇ。ちゃんとした正規兵が相手だなこれ、各々の武器で弓を弾いてやがる。これはなぁ...
魔王に至っては、弓を避けようとしてもいない。というより、「当てようと」しているものがいないのだ。人も、矢すらも、彼を恐れている。いや一筋のみ、矢が魔王へと飛んだ。その矢すらも、魔王は受け止めてしまったのだが。
『グリーン、わりやっぱ無理だわ』
『いや当たり前だろムサシ...弓で殺せるならこんなに苦労してねぇよ...』
矢を放ったのはムサシだ。先頭を切って戦いながらもこちらを見ている魔王に、グリーンは戦慄を隠しきれなかった。
ここまでとはな...
現在魔王は、馬のスピードはゆっくりではあるが、単騎で自分のところへと向かって来ている。昨日ベリアスとアロンの神器を回収したことから、狙いが俺の神器なのは間違いないだろう。
狙いもまぁ〜大体わかった。魔王軍の奴らが喚いている今回の戦争の目的と、魔王の狙いが全然違うこともわかった。
まぁつまりこういうことだろ?
神器を手に入れる為利用
魔王←ーーーー→魔王軍
同胞の解放、人間への復讐
そもそも必ず軍として勝つなら、俺たち神器使いの封じ込めはたしかに必要だが、それを敵の総大将がやる必要はない。本来この戦争は物量で勝る魔王軍の圧倒的有利な戦いなのに、わざわざアロンやベリアスを魔王は相手にしている。
神器を、神器使いを確実に手に入れるためだ。そのために実力差のある自分自身が出張る必要があったのだ。
確かに神器と一時的に拮抗する力を持つ幹部は、1日目の報告を受けただけでも普通にいる。しかし、神器を無傷で手に入れ、なおかつ神器使いも捕虜にできる実力を持つものはそういないだろう。
神器を手に入れるために、魔王軍の大将...がわざわざ出張っている現状。そこに付け入る隙はある。
そうグリーンは考えていた。
にしても......これは強すぎるなぁ...
魔法がなけりゃ...無傷で全滅になるところだったぜ
『ファイアーボール!』
『ウィンドブラスト!』
『アイスショット』
『ウッドスピアー!』
『ライジングショット!』
『ウォーターボール!』
魔導ギルドの面々が、ようやく詠唱を終えて、空に向かって魔法を飛ばしていく。ぐぎぎ、詠唱が遅い。ひたすらに遅い。オレがついていれば、詠唱時間の短縮と、威力の増大ができたのに。だがしかしそれでも魔法だ、弓よりも遥かに威力の高い魔法だ。
狙うは最前線ではない。後陣の兵隊達だ!
先程は弓を弾いていた兵士達だが、魔法の攻撃が直撃し、後ろは崩れていく。
ーーー報告を聞いて魔王軍に関してもう一つわかったことがある。こいつらは魔法に慣れていない。というか、魔力を使っているのが魔王軍の幹部の中にいない。意図して隠しているのか、それともそもそもいないのかはわからない。しかし少なくとも魔力を扱えるものがいないのかわからない。しかし魔王軍の兵士達は明らかに魔法に対して慣れてはいなかった。
初日は魔法使いがあまりにも少なかったので気づかなかったのだ。魔法が彼らに対して有効なことに。
しかしグリーンは気づいた。誰よりも早く魔法の有用性に気づいた。だから試しに後陣を狙わせた。最前線ではなく、余裕のある後陣を狙った。魔法が聞くと魔導ギルドの面々に確認させるために。、
『よし!魔法なら効くぞ!どんどん打たせろ、そう魔導ギルドの奴らに伝えてくれ!』
伝令へと言伝を頼む。最前線も動き始めた。単騎で魔王に無双されていたスライムが再生を始める。中衛にて待機していた戦士ギルドの面々が、スライム達の再生する時間を稼ぐかのように前に出て盾となる。魔獣は雄叫びをあげつつもさらに巨大化し、魔王軍の騎士達と相対していった。
『魔王軍の...多分精鋭達なんだろうが...こっちはあの地獄で何百年、何千年と生きてきた奴らだ!たかだか百年程度しか生きてねぇ魔族に負けてたまるかよ!』
誰かがそう言ったのを皮切りに、パンドラの箱で生きてきた人間どもも奮起し始める。
軍としての練度は、こちらが少し劣るかもしれない。しかしこのメンバーは、パンドラ箱で生き抜いてきた化け物どもだ。「ただ長く生きている」このアドバンテージにより、スライムは見たこともない固有の進化をし、魔獣は新個体として生まれ変わる。人間は、その持っていた才能を新たに開花させ。個人個人としての力は魔王軍本陣の軍勢の力を遥かに超えていた。
『なるほど、少々甘く見すぎたらしいな。貴様達の力を、ウーフィルの左陣を突破した時点で「脅威」とみなすべきであったか。この軍勢も、お前自身も』
突如、グリーンの全身から警鐘が鳴り響き始める。この場からすぐに離れろ。さもなくば...そのぐらいの殺気を発しながら、彼の指揮する本陣まで、魔王は飛んで来たのだった。かなりあったこの距離を、自分を目視した途端一人で。
『魔法に慣れさせてないところを突くとは、中々、お前には帥の才能もあるようだな。まぁそれも終わりだ、既に魔法を打っている奴らのところに幹部を1人向かわせている。倒れるのも時間の問題ではあるだろう。』
『......本当にそうかな?』
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魔法を撃ち続ける魔導ギルド、そこに1人鬼が迫る。気づいて魔法使いを守ろうと盾となった騎士達を数瞬で吹き飛ばし、棍棒を持って魔法使い達の前に立つ。
第7位、アスカモーであった。
しかし魔法使い達は詠唱を辞めない。アスカモーは苛立ち、上に構えていた棍棒を下に振り下ろそうとする。
しかし、彼の巨躯で放たれた地面を割り、魔法使いを潰すための棍棒は、1人のリザードマンによって止められた。ディナスだ
お互いの武器を弾いて少し距離を取る。
『無抵抗の人を殺すのに躊躇いはないのか?』
鋭い目でアスカモーを睨むディナスに対し、アスカモーは飄々と答えた
『いや、僕は差別しないだけだよ。戦場に兵として立つなら、男も女も、大人も子供も、差別しちゃかわいそうだろう?戦士として見てあげるべきだと思うんだ。』
『......そうか、なら語るまい』
途端に棍棒を振り上げ、ディナスに迫り、ディナスの槍からは光が輝き出す
グリーン軍、魔王軍本陣の副将戦が始まろうとしていた。
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グリーン軍と激突した魔王軍、アスカモーと共に魔王様と共に戦場を歩いていたウーフィルは、正体不明の敵に苦戦させられていた。
薙ぐ、払う、斬る、突く。
型通り、いや型すら知らないウーフィルだったが、その男の所作は美しい。技のキレ、威力、速さ。アルフィィオスと同じ「達人」と呼ばれるに相応しい雰囲気をその男は放っていた。自分は反撃の機会もなく、防御すらできず、ただひたすらに逃げ惑うのみ。しかし普通ならそれすらもできていないはずだ
明らかにこいつは手を抜いている。
侮りか、嘲笑か、どう考えても馬鹿にされている。自分が、人狼族の自分が
愚かにも先日は叔父に全てを託し逃げ惑い、そして今日は見たこともない武人になすすべもなく押されている。許されるのか。自分にそんなことが、否、否であった。
また男は薙ぎ払う、私に当たる直前ギリギリに少し速度が落ちた。やはり切らないようにしている。私を。
『少しだけ付き合ってくれ、悪いな』
その男はそう言って薄く笑う、頭をかきながら、息をも乱さずに。こちらは既に肩で息をしているというのに。
何者だ、何者なのだこいつは。私は3位だぞ、名前だけのものであり、実際の戦闘力で言えば5位でも余ると思ってはいるが、それでも私は魔王軍の序列3位だ。
それを特に危なげもなく、ただ一方的に推しているこの男は...
『別に手を抜いてるって訳じゃないんだが...何か...来そうなんだ。力は温存しとかなきゃな、ついでにちょっとしたウォーミングアップだ。』
そう言うと、男はまた距離を詰めて来た
こ、これでウォーミングアップだと?
この男は一体、何と戦おうとしているんだ...
ウーフィルの思考はそこで途絶え、また回避に専念することとなった。
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『ふむ...ディナス、リザードマンの武神か、アスカモーでは少し部が悪いかな。』
そう言う魔王の前にはグリーン1人、他の兵士は下がらせた。この魔王の相手ができるとは思えないし、前線で敵を食い止めておいて欲しい。
そもそも前の兵士達は、魔王がこちらへ来るまでの時間稼ぎだ、十分役目は果たしてもらったと言えるだろう。
イヴァンも前で戦わせているが、何かあれば駆けつけてくれるだろう。本人がそう言っていた。
ムサシもディナスも、それぞれ守って欲しいところは任せている。
あれムサシは?まぁどっかで戦ってるんだろう。
グリーンは既に戦闘態勢、神器のガントレットを腕にはめて準備完了だ。
『ふん...準備はできたか、順応は早いようだな...異世界人、日本人ということでいいか?』
あまりに唐突な魔王の話に、グリーンは驚く。しかしすぐに冷静さを取り戻す。落ち着け、あともう少しだ。時間を稼げ
『......なるほど、あんたもってことか。でどうする?仲良くお茶でも飲みながら元の世界のことでも話すか?』
『いや、生憎だが、私もこれが終わった次のこともあるのでね...神器を殺して奪うか、それとも無抵抗でこちらに渡してくれるかの2択しかない』
『ハッそれはせっかちなことで...』
『この世界に来てからもう数十年が経過しようとしている。焦るのも無理はあるまい』
『ほう、それだけいながら元の世界に帰りたいとも思わなかったのか?こんな軍なんか作る暇があるなら、元の世界に帰る努力をするべきだったんじゃないか?』
『.........わかるまい、人間の姿で転移したであろうお前には!!』
そう言うと魔王は鎧の一部を脱ぎ、その肌を見せた。その肌は黒と白の文様が刻まれており、人間によく似てはいたが、既に別物であった。
グリーンはそれを見て絶句する。
『見てくれたか?これでどうやって召喚術を調べる?人間の街になど行けんよ。そもそも明日どうやって生きるのかで精一杯だった。殺し殺され、命がその辺に生えている雑草よりも無価値だった。そんな場所で生まれて、脱出するのだけでもかなりの時間を要した。そこから魔王軍を編成し、お前達のところに攻め込むまでに10数年。どれだけ待ったか、どれだけ焦がれたかこの時を、この瞬間を。ようやく叶うのだ、邪魔をするな新参者が!』
魔王は吠えた、それは同郷のものに会えたからこその感情の吐露だったのかもしれない。そもそもこんな体では、帰ったとして、どうやって自分のことを認知してもらうのだ。怪物と恐れられ、家族に迷惑をかけるのみだ。しかもあれから何十年もの月日が経っている。生きているのだろうか、妻は、父は、母は。そんなこと考えたくもなかった。
そんな魔王の声に対して、グリーンは不敵に笑うのみだった
『怒らせちまったか...悪いな、昔から空気が読めないやつでよ...』
『貴様に我のことを理解してもらおうなどとは思ってはいない。お前のことも同郷かと思ったからこそ話したのみだ。一体何を待っている?』
『ちょっとね...まぁ、ありがとさん。お前がその体で、帰る方法もわからず彷徨っていた事情も分かった。こんな物騒なものを何個も揃えて何がしたいのかも、大体わかっちまった。俺もそうする。合理的に、粛々と、どれだけの時間をかけても復讐する。例えそれで自分が滅んでもそうする。そうなっちまうよな、いやわかるようなことを言ったがお前の気持ち全ては分からん。当たり前の話だが』
グリーンは自分のガントレットーーギリオンを見つめてそう言う。こんなもの全部集めて何をするかって?この世界にわけもわからず飛ばされ、死ぬほど辛い目にもし自分がなり、異世界に飛ばした正体が神だと気付いたらどうするかって?ぶっ飛ばそうとするに決まってるだろ。
それがわかってしまった。何故だろう、何故神の仕業だと思ったのだろう。自分は知らないはずなのに、わかってしまったのだ。魔王には、その記憶が何故か自分にある。何故だろう、魔王の記憶が何故自分の中にあるのか、グリーンにはわからなかった。
『俺もそうだった...ただ粛々と自分のやりたいことだけをしていた。誰にもはばかることなく、自由に、横暴に。それでいてなお合理的に。だけど、この世界に来るずっと前に教えてくれたやつがいるんだ...止めてくれた奴がいたんだよ。』
『だからこそ、あえて言おう。今のお前がしてるのは八つ当たりだ!自分の不幸を憐れんで、他の奴を巻き込んで、見ろこの戦争を!何千人、何万人死ぬと思ってる!その命を奪ったのはお前だ!お前の復讐心に殺されてるんだ!てめぇの復讐に、他の人を巻き込むんじゃねぇ!』
途端にグリーンは魔王へと距離を詰め、イエローの真似をして魔王へと正拳突きを繰り出す、しかしその一撃は魔王によって片手で受け止められ、右手を掴まれて持ち上げられる。
『貴様に何がわかるというのだ、我の怒りが、皆の意思が。わかったような顔をしてでしゃばるな。』
魔王は腕を回し、グリーンを渾身の力を込めて投げた。グリーンは近くにある岩に激突し、大きな音をたてて岩は崩れた。魔王は思う、今の突きはなんだ。美しい型、恐るべき速さの突き。しかしその突きに魂はない。
そう、まるで人形のような、そんな突きだった。そんなものが効くものか。魔の森で、どれだけ生き物たちの、生死をかけた一撃を受け止めたと思っているのだ。魂の入ってない一撃など、魔族領では通用せん。この程度の相手にギールは負けたのか、と魔王は落胆しつつグリーンを見る。
奴はゆっくりと立ち上がった。口が切れたようだ。血がでている。しかし他に外傷はない。呆れるほどの頑丈さである。
『わかんねぇよ...わかってやれねぇよ...わりぃな、だが...それとこれとは話が別なんだ、お前は一応オレが暮らした街を侵略しようとしている。それに...オレの恩人が...主人が...守れって言ってるんだ...一応やってやらないと...な.........』
急にグリーンの顔が下へと下がる。先ほどの岩への激突が効いたのだろうか。口から血を流し、身体は砂で汚れている。
『恩人?お前は1人でこちらの世界に来たのではないのか?』
グリーンの体制が少し崩れる。問いには答えてもらえなかった。しかし魔王は迷わない。尋問なら、捕らえた後でゆっくり聞けばいいのだ。今聞く必要はない。魔王はその剣をグリーンに向かって振り下ろす。その剣を、グリーンは神器で受け止める。いつの間にやら腕に装着されていたガントレットは、元の棒へと変化していた。
『全部見てたぞ...いいタイミングだ、やはり「私」はタイミングがいい。魔王.....か!全部見てたぞ、さぁ、やろうか!!』
最終決戦一段!
かなり長く書きました!楽しんでください




