決着
「僕には、わからない」
アヌビスさんがここまでして戦う理由も、マルクさんが願っていたことも、神々が必死になって戦ったことも。
冥界はぐちゃぐちゃだ、アヌビスさんの死と共に、冥界という死者の帰る場所は消えて無くなるらしい。
行く場所があるから、戦士達は死ぬ気で戦える。
だから、アヌビスとの戦いを人間たちは神に委ねたのだ。アヌビスさんがいなくなれば、人々は心の拠り所を失うから。
「貴方がどうして戦うのか、僕にはわからない」
だが僕は知っている
後ろにいるみんなを、守る
その為に僕はこの世界に来たんだと、知ったから。
『自分のやりたいようにやれよ!』
「貴方が夢見る未来の為に」
「強い奴と戦う為だ!」
「カワイイ物を守る為かしら?」
「お世話になった王都のみんなと・・ここにいるみんなの為に!」
「ここで貴方を止めないという行為だけは!間違いだと知っているから!!」
「知ったような口を!」
アヌビスの手が、僕に向かって伸びる。それはスローモーションのようにゆっくりと、少しずつ近づいてきた。
「させないわよ♡」
「なっ!なんだお前!」
「あらぁ?さっき言ってたじゃない、酷い人だわ。ねぇアヌビスちゃん。レッド君がなんでこんなに言ってくれるかわかる?」
あの子は何にも知らないの
剣に力を込める、その間に、ホワイトがアヌビスと押し合いながら、なにかを話していた。
「あの子はね、知らない人の為にも戦えるの。それがいいところなの、叔父の為でもない、自分の為でもない。貴方や、見知らぬ誰かの為に戦える。どう?強い人でしょう?」
「強いから?だからと言って手前が負けるわけにもいかん、手前は、あやつとの約束を」
「それをなんで言わないのかしら、何に対して怒っているのかわかならなきゃどうにもならないわ。まぁ余計なものもついてるし、分からないんでしょうね。一回頭を冷やして来なさい。」
ホワイトがため息をつく、ホワイトがアヌビスさんとの力勝負は、ホワイトに軍配が上がっていた。押し合いは電車道を作りつつ少しずつアヌビスさんが後ろに下がっていく。
そんな間に、僕も準備が完了していた。
雷の剣+太陽の剣+台風の剣
雷は勢いを加え雷撃と化す
その力は大地を砕き、雷鳴をもって照度を作らん
それは全ての大地を一瞬照らし、その全てを巻き込む雷と成る。
太陽は、その光をもって熱核と化す
その光は全ての大地を暖かく照らし、その光は無慈悲に全てのものから光を奪う。光は収束し、反転し、白夜の名の下に太陽と成る。
台風は、その駆動をもって颶風と変化す
その風は気まぐれな強風、全てを吹き飛ばし、無に帰し、全てを作る破壊者と成る。
雷撃の剣+熱核の剣+颶風の剣
『前人未到・後地無跡』
これは、僕考案の技だ。
前回発動した風神雷神はあくまで気象を操る技だ、雨、晴れ、強風、台風。気象を操るのがこの剣の真髄であることは間違いないだろう。
だから、僕はその先を行く。
未踏の領域、人が経験しない絶対の気象、それは人類に対する最期の最悪。
この世界で起こり得るだろう最悪の気象
それら雨ではない
風でも無い
それはーーーー無だ。
酸素もない
大地もない
この世界にあるありとあやゆるものの消滅。
平たく言えば、ブラックホールだ、勿論そんなに簡単なものではないけど。
「これは、最早気象では無い。」
人が図れる範疇に、もやはこの技は無い
「これは、最早災害でも無い」
災害は、痛みを覚えて乗り越えられる。だがこれは、無理だ。
「これは、無だ」
次の瞬間、アヌビスの眼前に真っ白な世界が広がった。それは、この世界の戦いの終わりを告げる、輝く、目の眩むような光だった。




