グリーン、イエロー。舞う
先手を取ったのは、アヌビスさんだった。
それをクロが剣で止める、閃光が走る、1度、2度、3度と2つの閃光が合わさるたびにもう1つの閃光が速くなる。
クロの剣は、適応の剣だ。世界最強の武器使いによって上げられたその実力は、アヌビスさんに全く劣っていない。
今、城から離れた場所に人が集まってる。もしかしたらこちらの様子も観れるかも知れないな。
いや、見てる暇無いのか。悪魔の軍勢まだ残ってるし。虫達を使役していた親はグリーンが無力化したらしく、その大半を死滅させていた。悪魔には、アロンやベリアス、創世の四聖が当たっているだろう。
クロとアヌビスさんが離れた、その一瞬の隙をグリーンは見逃さない。
『くたばれ!!』
確実に3流悪役が言いそうなことオンパレードのノリで言いながら、グリーンの大きな鎧から出たミサイルが、アヌビスさんの腹に直撃する。
だが
「ふむ、それは冥界でも見たが、アルケムとはまた異なった技術発展。火力はあるが、魔法対策が不十分だな。これでは手前には届かん。やはりな、グリーン、知恵の英雄。この面々の中でお前が一番凡庸だ。」
効いていなかった、アヌビスさんには魔法の自動防御がある。それはどうやら兵器にも反応するようだ。
『凡庸?オレがか?久しぶりに言われたな、そんな言葉よ。』
「そうだな、お前はこの世界で無類の才覚を発揮したのだろう、だがそれだけだ、お前は無からでは何も生み出せん。神々の戦いでは致命的と言ってもいい。そして今お前が生み出した数々のものは、既に手前やアルケムが通った道と酷似し過ぎている。」
『で?それがどうしたってんだ。』
「人では我々は超えられん、グリーン。お前が通る道は我々が作った道の後追いだ」
『今更何言ってやがる?科学なんて先駆者の後追いだ、アンタラが科学をこの世界に普及させないのは魔法が便利だからじゃない。怖いんだろ、害が及ぶのが、悪意に散々ひでー目に遭わされた口か?』
「お前に何がわかるというんだ!」
少し激昂したようなアヌビスの拳と、グリーンの鎧が激突する。アヌビスに完全に質力負けしているグリーンの鎧が自壊して崩れていく。
しかし、そんな大きなグリーンの鎧の中からもう一つのグリーンの鎧が出現した。
それは、2メートルほどの、先ほどの鎧と比べても一回り小さいものだった。見た目に大した変更点は無い、いくらか細くグリーンカラーがより鮮やかになっているが、デザインにそこまでの変更点は無い。
故に、アヌビスは油断した。その火力は、短い間のみならば『上位神を超えるというのに』
アヌビスの身体が宙に舞う、力では無い。勿論グリーンは小手先の技術など要していない。魔力量、グリーンの持つ神器級素材バウムクーフン、ヴィヴィの依代の木と同種族を使用した木で作ったこの木材は、短期間ならば間違いなく世界最速、世界最高の性能をグリーンに与える。
『神器之身』
身体そのものを神器とする、グリーンならではの技である。
しかも、グリーンが転んだりしないように完全なる移動補助付きだ。赤子が歩く時につける補助機があるのだが、それと似たような機能がAIでついている。ぶっちゃけグリーンにしか必要無い機能である。これを完成させた後に思ったことが、あれ、これイエローにつけたほうが良かったんじゃねぇか?だったのはグリーンだけの秘密だ。
『わかんねぇよ、だから、教えてくれ。お前が何を思ってしたのか、情報が少なくてわかんねぇ。だから理解して前に進む!お前を止めると言ったレッドの為にも!』
◇◇◇◇
グリーンの乱撃が、アヌビスの肉体を穿つ。
「このっ...!!いい加減にぃ!」
アヌビスの上体が震える、この連打はグリーンのものだ。イエローに多少の護身術を習った。だが足元にも及ばない。
グリーンは弱い、だからこそ弱い他の民の声が聞ける。グリーンには、領主として一番必要な寄り添うという才覚があった。
ならばこそ
「儂も少しばかり援護をさせて頂きますかな」
イエローが援護に入った、アヌビスの懐に入り込み、足首を狙って斬り始める。
「なっ!お前、手前を傷つけることすらできなかった筈!」
「ご明察です、儂には攻撃手段がありません。ですが、昔人間は魔物や魔獣にどうやって対抗していったんですか?それは知恵です。」
人は考える葦である。
有名な言葉だ、知恵を絞れ
お前たちには、それをする権利が、資格がある!!
「これは、コショウか?」
「効きましたか?五感があるならとは思いましたが、視覚を奪うことはできたようですな」
コショウは熊であれば相手の視力、嗅覚を奪う。ミリ単位の戦争においてそれはまさしく致命傷だ。その隙をついて、クロとグリーンが攻撃を続け、イエローが足元を狩る。
「お前!先程から同じところのみを何度も!!」
『雨垂れ石を穿つ』
イエローがボソリとそう言った瞬間、アヌビスの足首が真っ赤に染まった。
イエローの一筋はまさしく石に降り注ぐ雨に等しい。だがそれを何十、何百と繰り返すその姿は、何十年という年月を遥かに超えてこの場に結果をもたらしている。
無論、動きがある程度抑えられているとは言え、何度も同じ箇所に斬撃を加えられるイエローは異常である。
「ま、そのぐらいしませんと、役に立ってるとは言い難いですからな。」
イエローはそう言いつつ、チラリと後方を見る。
そこには、魔力を練り上げ終わって立つレッドがいた。




