最後の1星
同じ構えの男達がいた。
同じ気配の男達がいた。
その2人は2人ともなみなみならぬ気配を発しながらも、お互いが同じ構えのまま微動だにしていない。
そう、これが俺のーージャン=ギルドバスターの決戦の地。
目の前には師匠がいる、チェットウィンド=ギルドバスター。
俺に名前をくれた人
俺に生き方を教えてくれた人
俺に戦い方を教えてくれた人だ。
師匠は、模擬試合でなら俺が勝った。
だが、師匠が死に、冥界軍の一員としてこの世界に降り立った時、俺は商人ギルドのマスターとして忙しく働いていた為腕が落ち、師匠に惨敗した。
「見てるか?戦乙女」
いつしか俺は、構えていた神器に対してこう言っていた。以前、この緊迫した状態は崩れていない。
もし、ジャンに少しでも隙があったのなら、チェットウィンド=ギルドバスターは切り掛かっていただろう。だが切りかかっていない。
話を始めても、ジャンは少しも警戒態勢を解いていなかった。
戦乙女、俺が持つことでこの剣は、世界にある神器で再薄の神器と為った。
刃の薄さは、縦で見ればその身がほとんど見えないほど細い。刀とも違う、細剣とも違う。もはや戦乙女という神器そのものが変化したかのようなそれは、恐らく仮の姿なのだろう。と俺は思っている。
戦乙女は、まだ俺を所有者だとは認めていない。
戦乙女は、一度持ち主と認めてもらう為にかなりの労力を要する代わりに一度認めてもらえれば一途だ。
だからこそ、今も元の持ち主である師匠についていって、俺になんて見向きもしていない。
それにしても、冥界までついていくってドユコト?
俺聞いてないんだけど。
「お前の主人...俺の師匠は、死んだぞ」
それに返答するように、細い戦乙女は軽く瞬いた。
「そうだよな、辛いよなぁ。だからさ、楽にしてあげられねぇか?」
戦乙女は俺をまだ認めてねぇ、それは、俺が師匠を真剣で倒してないことから明らかだ。
だが
「ここでもう一度、師を超える!神器の力を寄越せ!」
剣の腕は、師より俺の方が上だ。
だが、冥界の師匠のところまでついてきた戦乙女と、俺が今持っている戦乙女では俺にくれる魔力が違う。
戦乙女に正式に持ち主と認められてねぇ俺じゃあ、戦乙女は使いこなせねぇ。
だから俺は、戦乙女に認められなきゃいけなかったんだ。
「馬鹿だのう...」
「何がだよ、ジジイ」
ふと、師匠が話しかけて来た。依然2人の集中力はその間にも高まっていく、カウントダウンは迫っている筈だ。
カウントダウンの終わり、その終わりが、どちらかが死ぬ時になるーー少なくともジャンはそう認識している。
だが、そんなジャンに対して、師匠であるチェットウィンド=ギルドバスターはどこまでも呑気であった。
「死なないせいか?」
「違うわ、阿呆め。」
構えが少し緩んだように感じる、違う。緩まった訳ではない、抜刀の前の少しの脱力。
脱力からの一気な解放、それが人を異常とも見える世界は連れて行く。
高速の世界だ。
「違う?何がだよ」
それをさし置き、問答は続く。
「全てがだ、お前の考えていることは全て異なっておる」
「どこが違うってんだ、アンタは敵で、戦乙女は俺の言うことに従わない。ここでアンタを倒さなきゃ、永遠に俺は認められねーだろ。」
「もうとっくに、神器はお前を認めてるとしたら?」
「は?」
次の瞬間、俺の心は謎に包まれた。
その一瞬の隙、ジジイが俺から引き出した一瞬の隙。そのせいで、俺は一歩遅れて抜刀する羽目になる。
刃の音と、一筋の閃光が交差した。
刃が飛ぶ、2度、3度回転して地面に落ちる。
折れたのは師匠の剣だった。
「どうして?」
勝ったのに、俺の口から出たのはその一言だった。
遅すぎる
そう、師匠の剣が遅く見えた。
「手ぇ抜かれたのか?」
「違うわ、阿呆!」
憤慨するように師匠が答える、あ、この顔、アレだ。
嬉しみが怒りに優ってる顔だ。
「じゃあ、どうして?」
「どうしてだと?まだわからんか?戦乙女はとっくにお前のものだ。あの日、木の棒で私に勝ったからずっと、戦乙女はお前を認めていたのだ。」
「で、でも、おかしいだろ。戦乙女は俺を認めて無くて」
「違う、戦乙女の能力は充電タイプの神器だ、鍛錬の際には重い鉄の棒となるが、こと実戦ならば今までその人物が戦乙女を鍛錬に使った分だけ強化される。」
「じゃあ、あの時師匠が真剣でやらなかったのは」
「お前が死ぬからだ、私は戦乙女では実戦はしたこと無い。正確には何度かあったが、実戦と感じるほどのことは一度も無かった。故に戦乙女を使用して本気で戦ったのなら、一戦のみ私が世界最強だ。アヌビスに呼ばれたのもその辺が理由だな。」
「認めろ、ジャン。もう私よりお前の方が強い。戦乙女を持ち、このざまだ。戦乙女の効果は冥界まで届かなかった故、私も全力とはいかなかったが、先程お前より早く剣を抜いたにも関わらず、切ったのはお前の方が早かった。それが十分な証明だ。」
「そうか、俺はアンタにならなきゃいけないのか?」
「それも否だ、戦乙女は確かにウォルテシアのものだ。しかし特性と私の戦闘方法上他の国との戦争では包囲殲滅力に劣るトリスタンに押されて戦争では使われ無かった。だが強者とは自分の意見を押し通すものだ。好きにするがいいさ。」
その言葉は、確かに師のものだった。
冥界に行きながらも、中々顔を出さない自分の為に祈っていると風の噂に聞いた、師そのものの顔だった。それは、死んだとしても、風化することのない事実だった。
「いいだろう!アンタの剣、確かに俺が頂いた!」
「持ってゆけ!お前の好きにするがいい!」
今度こそ、師は消えた。
こんな、いつどこで誰が死んでしまうような世界で、まともに別れを言えた幸運な男は、きっと俺ぐらいなもんだろう。
そう思うと、少しだけ、このクソッタレな戦争に意義が見出せるような気がする。
遠くで、マリンとジュダルが来ている気がする。
爆発音が近くで聞こえるが、無視しよう。
「いや、無視できるか!!なんだあれは!!!」




