複合宝具は神器に至る
複合宝具
それが合わさった時、思わず私が放っていた言葉は
「トリスタン」
これだった、美しいフォルム、大弓としてのその風貌、威圧するかのようなその確かに感じる圧はまさしくアロンが以前使用していた魔弓神器・トリスタンのそれだった。
手に持ってみる、重い。やはりトリスタンとは少し違うな気がした。
引いてみる、やはり感触が異なった。
だが触った上でアロンは理解した、これは確かに神器に勝るとも劣らないと。そして、その能力も、アロンは理解したのだった。
「ガウェイン王...これは」
「うむうむ、良くやった!アロン。ケイアポリス王国の長きに渡る歴史に名を残したな!」
ガウェイン王がこの複合宝具を欲しがったのには他にも理由が存在した。グリーンである。
現状ガウェイン王はグリーンという男を信用している、全幅の信頼を寄せているとも言っていい。その背景には勿論会った時の性格や、王子やその家臣団との交流も存在する。
流れ者とは短期的に見れば信用ができないが、長期的にはとても有用な存在になり得る。信頼感という点では勿論譜代の家臣には劣るが、彼らが異世界からの転移者という点はガウェインにとっては都合が良かった(知ったのはほんの少し前だが)
拠り所のない実力者というのは、取り込めば大きな戦力アップになる。それが、純粋で心根のいいものならば尚更だ。
ガウェインは元王として、人を見る目には自信がある。その王としての眼が、彼を信じさせたのだ。
おまけに、貴族家を山賊から救ったという話は、ガウェインにとってグリーンへの心象をよりプラスに働いていた。
伯爵家の3女を命がけで救うメリットは少ない、しかも調べにより反乱側とグリーンはなんの関係も無いことが証明されている。
おまけにその3女に心の底から惚れており、その3女が王国に絶対の忠誠を誓っている家の娘だと言うのだ。
出来過ぎな話である、笑いが止まらないとも言えるが。
話を戻そう、そんなグリーン達をガウェインは確かに信用してはいるが、外向けにそれを大っぴらには言えない。
故にガウェインは置き土産として、アロンの覚醒が必要だった。
『もしグリーンが翻意を向けた際の抑止力』というポーズとして。
ガウェインの剣速が上がる。
目の前にいるこの野獣のような男を、ガウェインはSランク級と断定した、神器なら余裕...とは言わないものの屠れる相手だ。
しかし老骨には厳しい。
邪神、アイテールとの戦闘においてガウェインは宝具の複合使用を行なっていた。その方法は魔力消費を多くし、アイテールにダメージを与える代わりに、ガウェインの体をも蝕んでいた。
だが、デメリットばかりでも無い。複合宝具の過度な連続使用にも耐え抜いたガウェインの肉体は、1分かそこら程度ならばガウェインを全盛期以上の実力に引き上げることに成功していた。今ガウェインがこの男と打ち合えているのは、それが要因である。
「なるほど、貴方、軽く人間を辞めていますね?」
「......ッッ酔っ払った男に容易く看破されるレベルの能力では無い筈なのだがな!」
「いやいや、申し訳ありません。本官は酔ってても世界最強の知力を有しておりますれば!」
獣のように振りかぶられた拳を、ガウェインは大剣で受け止める。ビリビリとした衝撃と共に少し後ろに下がる。
だが、そこまでだ
「ここから先は一歩も通さんよ!」
「んん!?」
死にかけの老人とは思えない膂力で黒服の男を後ろに下がらせる。背面へと突き飛ばされ、黒服の男こと有栖川総悟が宙に浮いた。
「この状態で弓を?ですがそのまま打てばガウェイン王にも当たりますよ?」
「私ごと打てアロン!!!」
それは決定的な隙だった、ガウェイン王達が唯一手にした勝機。だがその代償は大きいだろう、何故ならば有栖川は完全にガウェイン王を盾に使っており、ガウェイン王に必ず斜線が通ってしまう。
もし弓を曲げて打ったとしても、有栖川はガウェイン王を盾とするだろう。
それはわかっていた。
だが、アロンは
「貫け!!『新魔弓・殺』!!!」
ある確信をもって、手を離していた。
◇◇◇◇
矢は、確かにアロンの手から離れている。
だが、この一矢は絶対に当たらない、そうアロンは確信していた。
「本官ごと自らの王を殺すか!!いいだろう、一生後悔し続けるがいい!」
体は見えないが、黒服の男の声がアロンには聞こえていた。嘲るような声。
確かに、ここでかつて使えた主人ごと敵を倒してしまったら、俺は一生後悔しただろう。
だが
「侮ったな、怪物!!!!」
「は、なんの・・・・これは?」
言っただろう?弓は、打つ瞬間には当たるかどうか分かると!
弓は確実に、有栖川の心臓を貫いていた。だが、ガウェイン王には掠りもしていない。
「何故だ!本官の体は確実に男の射線上にいたはずだ!ガウェインを通さなければ!本官に矢は刺さらないはず!」
「神器を侮り過ぎだ、この神器の能力は『友軍非殺誓』神器の使用者が仲間と認めた者に矢は刺さらない。」
アロンの矢は、仲間と認めたガウェインの体をすり抜け、有栖川に当たったのだ。
「ほう、その効果で本官を。複合宝具、興味深い解析対象でした。惜しむらくば、詳しく検査したかったのですがね」
「2度と見せてたまるか、こんな技。振りとは言え主君に矢を向けた罪は重い。」
「真面目ですねぇ、いや素晴らしい。転移者でもなんでもない、この世界に生きるただの人間に殺されるのは少し悔しいですが、まぁ本官は元々戦闘向きじゃないですし、ここらで幕としましょうか。」
その次の瞬間、卵の殻が粉々に砕けるように、黒服の男こと有栖川の体は光とともに四散した。
黄金の霧が吹き、アロン達の周り全体に広がる。
「ぐっ...!」
「どうした、アロン。魔力切れか?」
「はい、一矢に持てる全てを注ぎました。もう一歩も動けません」
「私もだ、元々体はガタガタだったのでな。それでは、後は若い者達に任せるとしようか、少々釈だが」
「貴方も歳なのですから、ライト王に任せて養生して下さい。」
「言うようになったのアロン!フン、まぁいい。その様子だと、ライト王へ忠誠を誓えたか。」
「はい、私は、ベリアス様にお仕えし、いつかこの方と共に未来の王国を支えるものと自負しておりました。しかし、彼の方は帝国に行ってしまった」
ベリアスが王国の王族にも関わらず皇帝に慣れたのは、背景として元々皇帝の親族であったものと婚約したからという理由と、そもそも帝国が実力至上主義であったのが大きい。
そして、王国内部にも決して小さくない波紋を及ぼしていた。軍部はベリアスという後ろ盾を無くし、ライト王の温情と必要に迫られているからこそ衰退こそしていないものの、これから防衛力として無敵のグリーンがいる限り、王国騎士団の権力というものはこれからどんどん減少していくことだろう。
「3年もたち、ようやくライト王に心から忠誠を誓うことができました。」
「相変わらず融通が利かんな、お主は」
ええ、そう言うアロンの顔は、今までガウェインが見たどんな顔よりも素晴らしいものであった。
なんじゃ、いい顔しおってからに。
1人の男がずっと抱え続けていた心象を晴らすように、光は城全体に広がっていった。




