最後に
シリュウは孤独だった。
最強と名乗ってはいるものの、その実彼は王の器では無かった。彼は一個の国に仕える武人でしか無かったのだ。それ自体に彼自身納得していたし、それ以上の感情は無い。
ケイアポリス王国、数千年前に最初に栄えたケイアポリス王国は、今の王国とは比べものにならない程の強さを誇っていた。それを率いていたのは、シリュウには知る由も無いだろうが1柱の意思を継ぐもの。そんなケイアポリス王国と当時戦っていたのが、当時シリュウがいた国だった。
「なんだよ、まーた弱小国かよ!」
転生したシリュウの一声目はそれだったと言うが・・まぁ仕方がないだろう。
こればっかりは運だ。
ともかく、単騎なら間違いなく最強なシリュウは、そんなケイアポリス王国に敗れて死んだ。
そして、シリュウは、人生で2度目の敗北を今、迎えようとしているーーーー
「いやぁ、負けた負けた!いいもんだね〜」
廊下に大の字で寝転がるシリュウを見て、クロも体の力が抜けたようにへたり込んだ。
字面だけ見るとシリュウに余裕がありそうに見えるが、シリュウの体は袈裟斬りに割れており、光が漏れている。血が出ているなら廊下が血に染まっているレベルだろう。
「ハン、1勝する為に何回負けたことやら。全く強い、世界は広いとはいえ、まだ上がいると少々辟易するぞ。」
「世界は広いよ〜もしかしたら、何千年も前から生きていて、まだ死んでなくて冥界にいない!それでいて神にもなってないような存在がもしかしたらいるかもしれないぜ?」
「考えたくもないな。・・何故魔法を使わなかった?」
それは、クロの素朴な疑問であった。
クロは純粋にその優れた身体能力と我流の剣、そして魔力で身体能力のブーストを行い戦闘をしていたが、シリュウは終始魔法を使う素ぶりは無かった。
彼のまわりには純然たる魔力があったにも関わらず、だ。魔力が多い、ということはよっぽどセンスがない限り魔法は使える可能性が高い。
「あ〜それはね、オジサンの魔法、1対1だと使いもんにならないの」
「なにぃ!?」
「せーかくには、戦闘向けの魔法じゃあ無いってことよ。おわかり?」
「そういうことか、手を抜いていたわけじゃ無いんだな?」
「そ〜よ、最初は手抜きビンビンだったけど、途中からは子供みたいにずっと槍を振ってさ。楽しかったなぁ」
「私も楽しかった」
「ははははははははは!お互い同類ってことだねぇ!」
「全くだ!」
「ちなみに、最初っから本気を出してたらどうなってた?」
「ん〜あの娘の回復魔法でも回復しきれないレベルで突いて終わり、多分影も形も残らないね。自然治癒の強い相手と戦ったときはこうやって倒したし。」
「マジか・・強くなって良かった」
「本当、その神器に感謝しなよ?というかどうなのそれ、チートすぎるでしょ」
シリュウの槍と、クロのゴリアテこと剣には、大きな差異がある。まず、シリュウの槍に固有の能力は存在しない。
次に、斬れ味が違う。
クロの方が遥かに上だ。
てか、ゴリアテの能力が危険すぎる代物だ。拾ったとクロは公言しているが、一体どこで拾って来たのか。
「1つ、この神器についてわかったことがある」
「なんだよ?いい武器なのは間違いねぇと思うが」
「多分・・この神器は相手の強さに合わせて進化して、能力を変化させる神器と書いてあったが、その対象は私じゃ無い。」
「どういうことだ?」
「これはきっと、『敵の感情に合わせて』性能を変える神器なんだ」
クロが前に戦った相手、イシュタリア=ランスロードはその身を狂気に焦がされていた。その身の内を完全に知ることはできなかったクロだが、彼が苦しんでいたことは間違いない。
クロは、イシュタリア=ランスロードを解放してやりたいと望んだだろうし、イシュタリアもまた死にたいと願ったのでは無いだろうか。
間違っているという己を認めつつ、認めきれない自分を認め、誰かに殺して欲しかったのでは無いだろうか。
そう、クロは思っていた。
だからこそ、その想いにゴリアテは答え、結果としてイシュタリアを倒したと言えよう。
そしてそれはシリュウにも当てはまる。
彼は最強を目指したが、孤独だった。競い合う相手が欲しい!敵がいない?そんなのつまらない!
強い相手を!
俺に匹敵する強い相手を!
そう思って憚らなかった強い思いが、ゴリアテに伝わったのだ。
故にクロは強くなった。
彼...いや、彼女は、3年間で強くなったこともあるが、それ以上に、この厳しい世界で生きてきて、得た答えがあった。
「私は強い、でも強いだけじゃあ、何もできなかったんだ。私より作物を作る農家の人の方がすごいし、良い剣を作る職人の方がすごいし、政治を行う王様の方がすごい。強くても戦いでしか役に立たないってことだな」
「お前、そんなこと。誰でも知ってるぞ!お前そんなことに気づくために旅をしてたってのか」
「そうだぞ!」
「ハァ、こりゃとんでもねーバカだ。」
うん、だが
そんなことに数千年気づかなかった馬鹿は
ここにいる。
シリュウは、そんな男を知っていた。
◇◇◇◇
「陛下!何故ですか!何故降伏など、私はまだ戦えます」
「シリュウ、お前は素晴らしい兵だ。お前と共に戦えたことを誇りに思うぞ」
「我々は、まだ戦える!私は世界最強だ!どんな敵でも!どんな化け物でも斬り伏せて!貴方の道を切り開いて見せる」
「馬鹿者!それで民が喜ぶか」
「そ、それは・・」
「見ろ!ケイアポリス王国は内政でも我々を上回った!経済封鎖、情報統制によるプロパガンダ。これ以上の戦いは、民を飢えさせるだけだ!」
これは、私が生きていた時の記憶だ。
もう、この国は終わりだった。
数千年前、この国とケイアポリス王国の戦いは一進一退の攻防を続けていた。だが、国力でケイアポリス王国は我々の1つ上をいっていたんだ。
だから、もう無理だったんだ。
どんなにあがいても
どんなに強くても
また、主君を救うことができない。
「シリュウ、私は城に残り、死ぬ。部下を1人でも多く逃げさせよ!」
「わ、私も!」
「逃げろと言っているのだ!私の親族を守れ!息子を、妻を守ってくれ!」
「陛下...」
そう、この国にはもうケイアポリス王国の支配下になふしか生き残る手段がない。だが、ケイアポリス王国は王族が支配下になることを許さないだろう。裏切られるメリットを越す有用性を証明できなければ。
だからこそ、
だからこそ、シリュウという男は
国境に、ただ1人
陣取っていた。
主君には内緒で、主君のために。
ケイアポリス王国の大軍は1万、精鋭中の精鋭で構成された、名実ともに世界最強の軍隊。しかし、そんな大軍を前にしても私は自分が死ぬなどとは思って無かった。
「我こそは、常山の趙子龍なり!」
駆け出す、迷いは無い。
たった1つだけ、クロ、そう名乗った女に嘘をついていた。
オジサンの魔法は、戦闘向きじゃねぇって話。
ありゃ本当だ、だが嘘でもある。
オレの魔法は『結界魔法』
その名前の通り、結界を貼る。その強度は魔力量に依存する。その壁は、絶対に破れない魔法の障壁
すげぇ便利だよな、元の世界にもこんなのあればなーとは思った。だが、それだけだ、この魔法は。オレを守っちゃあくれないんだ。
この結界魔法って奴は、この世界でただ1人。オレだけ守っちゃあくれないってわけ。
1週間
オレはこの国を守り続けた。美しいオレの結界魔法は、この国の全てを包み込み、悪意あるものを誰一人倒すことは無かった。
その光景は全世界の人々が目撃することとなった・・とこれは関係ないか。
ケイアポリス王国にゃ1人も犠牲者が出なかった、ただし全軍の6割の重賞にしてやった。
え?オレがどうなったかって?
そりゃあ、力尽きて死んださ。
その後、オレの国はケイアポリス王国と和睦を結べたらしいぞ、それこそ平和的に、一滴の血も流さずにオレの国はケイアポリス王国の支配下に置かれた。
オレの主観は貴族として、ケイアポリス王国を支えていくらしい。
すげぇな
オジサンは、守りたい奴をやっと守れたって訳。
良い話だろ?
どうやら童話にもなったらしいぜ?すげぇだろ?
だがオレの1度目の死は孤独だった。
誰もいない
暗い、恐ろしい。
まっそれに比べれば今回の死はマシか。
戦友もできた、そんな奴と一緒に死ねる。
なんだ、最高じゃねぇか!
なぁ、クロ。
次あったらもう一回ーーーー
次の瞬間、シリュウの目の前は真っ白になっていた。
武人の2度目に起こった奇跡のような死は、驚くほどに一瞬だった。




