チングンショウグン
「壺でオンナノコの頭を殴り、脇が甘いと破片で背中を突き刺す。はぁ〜オジサンこういうのトコトン嫌いなんだけどねぇ。仕方ない、体が勝手に動いちゃうんだから」
そう言い訳をしつつも、シリュウは未だクロと交戦を続けている。
というか、そもそもあの娘の回復能力やばすぎだろ、とシリュウは頭の中でツッコミを入れていた。あの娘というのは、廊下の端から回復魔法を目の前の嬢ちゃんにずっと付与してる子だ。
特定の相手に狙って回復魔法を付与しているという時点でかなりの使い手であることは明白なのだが、それ以上に特筆するべきは効果範囲である。
いや、どんだけ離れてると思ってるのよ。グラウンドの端から端までどどくピンクの治癒能力は、常軌を逸している。下手すれば命に関わる傷すら瞬時に治療していた。
「いや〜隠れて治療しているあの娘、凄いなぁ。あのレベルの回復魔法の使い手は見たこと無いよ。」
流石に流した血を復元するといったレベルには至らないものの、ピンクの回復魔法はそのものが元気だったころに時を戻す時空系統の魔法と見まごうレベルまでその回復魔法の技術を昇華させている。
一般的に回復魔法とはそのものの持つ治癒能力、人体が一般的に持つ回復能力を補助する役割といったものが多い。それにより命を繋ぎ、命を救う手法が評価されており、回復魔法によって病気が治せるレベルまでいく回復魔法術師は、魔法が使えるものの中で回復魔法に選ばれた人間。
つまりは、砂漠の中にあるダイヤより貴重な存在だ。
そんな存在が、数多の人々を癒し、傷を治してきた。骨格を理解し、筋肉を研究し、人体創造まで手を伸ばしかねない異なる視点で見れば危険とも言える技術。
これがピンクの回復魔法だ。
その回復魔法で補助を受けつつ戦えるクロは幸運と言っていいだろう。ボコボコにされてはいるが、戦意は無くなっていない。
「だが、強くなる訳じゃない。君と僕の実力差は、経験値だ。どこでどう動けばいいのか、こうすればどうなるか。想像し、場を創造する。その差でしかない」
現にシリュウとクロに明確な差は無い、むしろ力や速度ならば下手をすればクロの方が多いのでは無いかと錯覚するほどであり、それは神器の力でより強くなっている。
しかし、シリュウは自分より速い相手を殺した経験がある。自分より力が強い巨人を一方的に殺した経験がある。
経験値とは、そのものの人生そのものである。冥界に来てからも修練を欠かさなかったシリュウは、それだけで十分傑物だ。
「ん?お?」
「おらぁ!」
「ちょっ、待って待って」
そんなシリュウが、初めてクロの剣をまともに受けた。とはいえ喰らったという訳ではない、壁にある斧で防御はしているし、クロの攻撃の勢いも完全に削いでいる。
ダメージはゼロとは言え、クロの攻撃を、自らの意思に反して初めて、シリュウは受けさせられた。
シリュウが驚愕しているのはその点だ、通常戦闘において何より大切なのは、自分のリズムを持つこと、そのリズムを崩さないことにある。
自分の間合い、自分の剣。通常通りを貫ける、それが戦場であってもどこであっても。それこそがシリュウの強みだが、それが初めて崩された。
そんな経験、100年は経験していない。
「おぉぉ...あぁぁぁぁぁぁ!!!」
「隙を、ついてる場合じゃないか!?」
傷だらけの箇所をえぐるように攻撃を仕掛けようとするシリュウを、クロが突く
思わず後転して避けたが、クロの猛攻は終わらない。ちなみに傷はほとんど治り、元に戻っていた。
「うぁぁぁぁぁ!!」
「え、ちょ。おとと?」
シリュウの武器が弾かれた。
「ちょっとちょっと〜若いね〜」
急速な成長、若く、才気溢れる人間であるならば誰でも起こり得る明確な変化。
「にしても、オジサンそんな簡単に捉えられるものなの!?」
勿論、そんな筈はない。というか、シリュウはクロの持つ神器ゴリアテの真価を知らない。ゴリアテの能力は適応、進化。
シリュウを倒す為に何が必要か、それに対応して神器は能力を変えていく。能力的にクロはシリュウには勝てない。故に適応した、進化した。
そしてその進化は、ようやく
シリュウの数千年においついたーーーー
「ここからだ、バカスカやってくれたな!オイ!今度はこっちの番だぞ馬鹿野郎!」
「へ〜そうなんだ、いいね。今代の英雄は!楽しませてくれよ!」
シリュウも、遊びは終わりと、背中から一本の槍を出した。
「涯角槍・・元の世界からずっとついてきた槍。我が生涯に敵うもの無し!という願いの槍」
シリュウは、もし死ぬようなことがあったとしても、この槍を使うつもりは無かった。
今代の英雄が、この世界を救ってくれても良いとさえ思っていた。しかし今目の前にいるのは自分を越えてくれるかもしれない女傑。
そんな相手に、武人として全力で相手をしなければ、槍が錆びる。
クロの復活は、長らく燻っていたシリュウの心を火をつけた!
「常山の趙子龍!!お相手仕る!!」
全力の槍、その乱舞が、再度クロに襲いかかろうとしていた。




