シリュウvsクロ
レッドがどこに行くかが気になりますが、まずはクロです。
クロとシリュウの打ち合いは、既に50合を超えていた。クロの剣は神器である、その名もゴリアテ。自己改造を主とするこの剣は、シリュウを倒す為に剣とその主人であるクロを変化させていた。
「若いね〜、必要無いんだよ、オジサンを殺すのにそんな神器や宝具なんて。オジサン自身はただの人間だよ?そこらの木の棒で殺せちゃうよ?」
「ハッ!の割には随分と余裕だな!」
「まぁ、そうだねっ」
シリュウの戦闘スタイルはクロと酷似している、これに型無し、クロと打ち合いながらも次から次へと来る騎士達を斬り殺して行く。
そして、シリュウはかつ自分の武器を持っていなかった。斬り殺したという表現から察することができるように彼は剣で敵を殺しており、その腕すらクロと並ぶ超一流だが、それは彼の本当のスタイルでは無い。
事実、彼が現在使っている剣は敵の騎士から奪った剣だ。それもクロと打ち合うことによって折れてしまう為、即座に他の騎士から剣を奪い戦闘を続行している。
「オマエ、自分の武器は無いのか!」
「あるよ〜」
「じゃあ、何故それを使わん!」
「ん〜1つ目は、オジサンそんなに本腰入れて君たちと戦う理由が無いのよ」
「じゃあ、何故戦っている」
「いやぁ〜アヌビスの命令でね、基本的に冥界にいる、要するに死んじゃった奴らってのはアヌビスからの命令に逆らえないのよ。まぁアヌビスは命令なんて今までしたことも無かったんだけど、悪魔大帝に取り憑かれてその辺の判断能力を無くして、オジサン達は無理やり動かされてるって訳。だからオジサンは自分の武器は使わない」
「ふざけてるな」
「いやいや、戦闘自体は真面目にやってるけど。オジサンと1合うち会えてる時点ですごいって。クロちゃんだっけ?君がこの世界の切り札かい?」
「その1人だな」
「そ〜かい、まだいるのかい。それなら他のところも大丈夫そうだね。」
「あぁ、おかげで焦らずに済みそうだが」
「いや焦って、虫達や悪魔がこの城占拠しようとしてるから。はやくオジサン倒して救援に行ってあげないと、被害広がっちゃうよ?」
「それもそうだな」
「はぁ...なんなんだこの子、普通高潔な精神に純然たる肉体宿る。バカが強くなれてもたかが知れる筈なんだけどなぁ」
なんで敵に助言を貰っているのか、という後ろで見守っているベリアスとピンクに総ツッコミを喰らいながらもクロは向き合う。
シリュウの言う通り、クロ自身は頭が良くない。参戦理由も面白そうだからというこれまた曖昧なもので、ここの守護をグリーンに命令されて、大人しく守ってきたからに過ぎない。
クロの立ち位置はグリーンの食客だ、しかし彼女自身は王国や周辺諸国からの信頼を受けているとは言い難い。例えば今回敵が現れたのも、クロの実力を模し王家が正しく把握できていれば、敵が現れた時点でクロを呼んでいただろう。しかしクロは自身できた。
王国などからクロは信用されていない証拠である、そんな人間に情報が回る筈もない。
彼女が頭が良くないのもまた事実だ、クロは頭が良くない。それは揺らぎのない事実でしかない、考えることをグリーンに全て一任しているところなどは最早考えていることを放棄していると言える。
そう、放棄しているのだ。自分の信頼している相手に自分の能力を託す。
クロのそうした対象はグリーンだったが、クロはグリーンという男の言うことを聞いていると言うところに価値がある。
愚者は間違いを選択し続ける、だがクロはそれをしていなかった。賢いものに選択させることで、間違いを避けようと努力した。
それは愚者よりも余程価値ある選択だろう、無論選ぶことから逃げているといつこともあるだろうが、しかし彼女ばグリーンを信じるという点で選んでいる。
選択をしているのだ。
まぁ、所詮元の世界でもチンピラでしか無かったので、今更なのだが・・・・
「バカで悪かったな!バカで!」
「否定すらしないの?」
「バカなのは事実だからな!」
もう何度目になるだろうか、吸い込まれるようにシリュウの首筋にまで伸びたクロの剣が、シリュウの首からすり抜ける。
いや、すり抜けた訳ではない。紙一重で攻撃をかわし、かつ相手の視界から外れているだけだ。
武術の達人の中には、こうしたすり抜けたように見えるほどの回避術を取得しているものは人類史においても存在するという。しかしそれは演舞の中で、お互いの息が合って始めてできるものであり、それを実戦で試すなどという行為は自殺にも等しい。
シリュウは、それを実戦で実行している稀有な存在と言える。シリュウの強み2つ目は、まるで予知でもしているかのような行動だ。
先読み、と言うにしては完全に早すぎるその行為は、相手の目線などから動きを先読みしているなどと言った感情からすらも逸脱している。
一を聞いて十を知る、という言葉通り。シリュウはそれを実践していた。そのあまりの素晴らしさに
「シリュウ、お前、魔法を使っているな?」
「いや、全く使ってない」
クロを魔法を使っているのかと勘違いさせた。
「でも、本当に魔法を使ってないのか?」
「うん、ベリアスさん。私も見たけど、確かに魔法は使ってないよ。魔力に流れはない」
廊下の端で、そんな人外2人の戦いを見守っているのは、ベリアスとピンクである。
聖女と皇帝、この2人を城を守る兵士達はなんとか逃がそうとしていたが、そもそもベリアスはそれなりに戦えるし、ピンクとて回復魔法の使い手だ。
どうせ城の外には人外がおり無駄ということもあり、誰も2人の行動を止めていなかった。
話を戻すと、シリュウは確かに魔法を使用していない、それに比べるとクロは少々厳しいのかも知れない。クロの神器は自らの力を改造する、故に神器自体が凄まじい力と魔力を保有しているが、それでも無限ではない。力を使い切ればただの剣と変わらなくなる。
それに比べて体力も無尽蔵、魔力も使ってない。そんなシリュウの方が長期的な目で見れば有利なのは火を見るほどに明らかだった。
「やはり私も参加するべきでは無いのか!」
「駄目、一国の国主が護衛がいるのに刺客と戦うなんか、護衛の意味無いでしょう。」
「し、しかしな」
「ん〜任せていいような気がするけどなぁ。」
実はさっきからちょいちょい回復魔法を使ってクロを援護しているし、シリュウもそれに気づいているらしいが、手を出しては来ない。
後衛の回復役は、パーティーメンバーにおいて真っ先に潰さないといけない人物である。それを狙わないという時点で、クロとシリュウの会話をピンクは対して聞いて無いものの、シリュウが手を抜いていることを見抜いていた。
「おぁぁぁぁぁぁ!!」
一方、クロである。
彼女の剣は重く、速く、鋭い。100人が見れば、100人がそうだろうなというわかりやすい最強だ。一方でシリュウの強さは玄人好みと言っていい。
わかる奴にはわかる強さ、という奴だ。
わかりづらい強さ、とも言える。イエローの持つ熟練さとは違う、イエローは自分の持てる限りの才能を全てフルに使う仙人のような戦い方だ。イエローは良くも悪くも普通の人間だが、それを極限まで磨いたものと言っていいだろう。
しかしそこで疑問が生じる、その『極限』誰が決めた?イエローは今でも自らの技術を高める為に努力し続けている。
シリュウとは
即ち
死んでからもずっと努力し続けた凡人に他ならない。
いや、そもそも凡人の定義がおかしい気がするが、少なくとも彼は神々や、城の内部に入り込んだ5人の同志に比べれば決して才能があるという訳ではない。
「ま、オジサン実は別の世界から来たもんでね。来たって言うか転生?なんだけどぉ〜、結構そっちでも強かったんだぞ。」
そう言いながら、城に装飾としてあった斧を振り回して攻撃してくるシリュウ。
斧、壺、剣、果ては絵画に至るまで、武器として操り、クロに攻撃を加えていく。その攻撃は致命傷クラスだ、ピンクがいなければとっくに倒れているような傷も多い。
今も、宝具ですらない、神器と言うにもおこがましい斧でクロを吹っ飛ばした。
「ぐっ...おおお!!」
「立ち上がってくる勇気は認めるが、脇が甘い。」
クロが上段から振りかぶった一撃を一回転して躱し、そのまま持っていた壺でクロの頭をかち割る。
「がっ!」
「そして、回復魔法を使用して貰ってる間、君は無防備になる。戦場で痛みで動きが鈍くなるなど二流もいいところだ」
頭を抑えたクロに対して、割れた壺の破片で背中を突き刺した。
「がぁぁぁぁぁ!」
「痛いか、そうだ、立ち止まるな。敵を見据えろ、全方向を見ろ。そうしなければ止められない壁がある。」
シリュウは、クロがピンクの回復魔法で回復するのを待っていた。無論サボっていただとアヌビスとの約束に反するので、臨戦態勢をとるという言い訳付きではあるが。
「君は未熟だ、戦士としては。君は強い、神に愛され、それに見合う努力をしてきたんだろう。覚悟もある。だが足りない、足りない、足りない。」
積み上げたものの重さ。
積み上げてきた努力。
天才が、半永久的に冥界でも努力し続けた成果
数千年に及ぶ努力は
いっときの天才の出現にて覆せるものではない。
「勝てないならいい、戦士として、1人の人間として戦場に散るならまだいいだろう?だが君はこのままだと君は大切なものを失う。」
チラリと、シリュウが後ろを見た気がした。
視線の先には、ベリアスとピンクがいる。彼ら2人はベリアスには戦闘力があるが、ピンクには無い。
もしシリュウと戦うなら一瞬で勝負が決まるだろうという意味では2人の実力に差は無いが、それでも彼ら2人は殺されるだろう。
「さぁ、どうする?」
未だ立ち上がろうともがく戦士に、シリュウはゆっくりとそう尋ねた。




