開戦
戦場において、数の力とは偉大である。
戦争において質より量が重視されているのは当然の話で、例えば100人分の力を発揮する騎士と100人の騎士がいれば、通常の頭を持つ輩ならば間違いなく100人の騎士を選ぶだろう。
いざ戦闘となれば疲労というものが存在し、たった一瞬の油断で死ぬのが戦場だ。あまりに割に合わないし、そもそも人間なんてものはいとも簡単に死ぬ。故に100人の騎士が勝るのだ。
一騎当千、そう呼ばれて英雄扱いされるグリーンですらその例には漏れない。神々から貰った加護は確かに協力だが、それでもグリーンは死ぬのだ。不老不死ではない。
今、僕ーレッドとグリーンの目の前にはそんな大群がウジャウジャいる。虫の大群、悪魔の大群。なんならむしろ冥界軍が健全に見えるほど、虫の悪魔の大群で城はあっと言う間に包囲された。
「ここまで来ると、グリーン砲もあんまり意味ないね」
「全くだ、いくら撃っても数が減らねぇな!」
「おまけに全く襲ってこないしね、ここまでの集団で、グリーンの大砲に無抵抗で殺されまくってる・・よくわからないね、無尽蔵に出てくるからこそ無視なのか」
「悪魔は避けてるがな、そもそも虫が無尽蔵ってのが気に入らないね。オレ虫無理、マジで無理」
「そんな可愛こぶってる女子じゃないんだから・・」
城の壁上より大砲をぶちかましまくってるグリーンの隣で、僕は立ち尽くしていた。
敵が攻めてこない、もちろん囲まれているので、連合軍の将兵も手の出しようがない。いや城から出て出陣を主張したアホな貴族もいたのだが、この数を前に萎縮したようで・・
「自殺趣味でもあんの?と思ったら英雄殿が先陣を切れだとさ。参加して気分だけ味わいたいーーなんて言ってる場合か、アホが。包囲されたんのだぞ包囲。」
「まぁ、グリーンが先陣切らないとだろうね。てか今回グリーンしか戦ってなくない?」
「事実だとしても悲しすぎる...」
そんな2人の他愛もない会話は、突如として打ち切られる。
虫や悪魔に囲まれた、そんな悪魔のような地で犬の頭を持ち、すすきれたような布を身に纏い。ウォルテシア風の、オレ達の世界ではアラビア調のーエジプトあたりの地域にいるおじさんがよく着てそうな服を全身に着込んだ大男が。誰に止められるまでもなく現れたからだ。
雷をその身に纏っているかのように、彼の体は時折眩い閃光を放ち、その魔力は、初めて冥界であった時と同じ程度のものまで昇華されている。
「無理はしてるんだろうけどね」
「あ?何がだよ」
「アヌビスだよ、魔力量が不自然な程に多い。シンさんも相当粘った筈なのに、ね。」
「悪魔大帝との無理矢理な契約で魔力以外の何かを使用して魔力を回復させてるってことか?」
「うん、多分魔力以外の何か。寿命とか運とか、とにかく何かが間違いなく減ってる。犠牲にしてる。」
「うっへぇ、そんなに本気なのかよ。マリス辺境伯(故)を殺したんだからもう勘弁してくれよ」
「意地なんだろうね」
既にアヌビスの威風は城にいるものならすぐにわかるほどに接近している。
城で見回りをしていた面々は、それが一目でアヌビスと見抜いていた。
いや、子供の頃見てた挿絵にソックリだし!
と言うのが騎士の意見だが。
差異はボロキレを被っているという点のみで、目のいいものならアヌビスの顔や身体的特徴がありありと見渡せる。
子供の頃から見ていた神さまが、本気で攻めてくるなどにわかには信じられないようだった。無論ケイアポリス王国の騎士達も同様。アイテール討伐の折その場にいたものですら、アヌビスの様子を見て腰を抜かすものすら現れていた。
「ま、慣れるもんじゃないしな。」
「逆にあの風貌の化け物を見慣れられたらどこのバイオハザードって感じだからね」
◇◇◇◇
「人間よ、開門せよ!死を受け入れ、冥界へと来るがいい!貴様達はそれほどの罪を成したのだ!」
アヌビスの台風にも似たような大声がエリアド荒原いっぱいに広がる。彼の巨大さは見た目だけではない、その風貌、その雰囲気。全てに現れている。
死の神の名は伊達ではないのだ。
だが、その要求に応えるものが、城まで築き、ここまで必死な戦いを見せたもの達の中にはいなかった。
「アヌビス神よ、いずれ貴方のものへ行くとしても。それは己の尊厳と誇りをかけて戦い、無念にも力尽きたその時にあります!あなたから与えられる死なぞ、光栄であれど恐怖ではない。私は貴方と戦い、生を勝ち取る!」
「生きたいともがき、それで死ぬなら悔いは無し!冥界の王よ!我が戦働きをご覧あれ!」
「教会の信徒達よ!アレを見よ!神は悪魔に精神を掠め取られ、乱心されておる!諌めずして何が神の使徒か!神殿の守り手よ!構えよ!これは神への反逆ではない、かつてのアイテール様と同じく!神をお助けする番だ」
「クッ、忌々しい」
「ねぇ、グリーン、最後の神殿の人の意見があながち間違ってないのはどういうことかな?」
「ピンク経由で神殿の奴らとこういうことにしておいた方が良いよねってことで話がついたが、アドリブが上手いな、あの神父」
神々に対するこの世界の人々の信心は深いものがある。その理由として、まずこの神々は元の世界の人々に比べて比較的位置が近い。
具体的に言うと神器の存在が、それを助長していることは言うまでもない。神器とはその名前の通り、神を超える為に人々が生み出したものである。
しかし、神器の作り手はフレイヤだ。そのため神器ありかたについては歴史学者がさまざまな視点から資料を漁っているのだが、結果として神器とは、まず人の為にあるということ。巨大な力で、それは人の派遣戦争でも使われていること。
しかしながら宗教的観点で見れば、神器とは、神を倒すというよりは諌めるというものに特化したものなのだ。
まぁ、宗教的観点ではあるのだが・・
また、神々が近いのは、500年前に実際に存在した人物などが神となっている点も多いからとも言える。フォルテ、ケテル=マルクト。どちらも教科書に出るほどの神である。フォルテは悪名だが。そんな2人が神となったと民衆に浸透したのは、教会がそうと判断した為である。
「関羽や菅原道真みてーなもんだな、関羽や菅原道真はそれぞれそよ強烈なエピソードから、民衆から神と崇められた。」
とはグリーンの言葉である。
そんな神に反抗するという心も、また偽りのない民衆の本意であった。
「てか、無抵抗で殺されるとか言う奴いたらオレがぶち殺してるけどな」
「グリーン...まぁ僕も反対だけどね」
流石に死ぬ気でこの場にはいない、実際怖いして
だが、守らなきゃ。エルザはまだ完治とは言い難い、本人は治ったとか言ってるけど、肉体の損傷はアヌビスの拳をまともに喰らった時点で深いことがわかるだろう。そもそも他の人の魔力を譲渡して放つエルザの技は肉体的損傷が大きい。
代わりにアヌビスの腕を取ったが、それには割りの合わないほどの損傷をエルザは受けているのだ。
「僕が終わらせる。必ずだ」
ゆっくりと城から前に出る
まだアヌビスは憤慨した様子で城の上に立った僕たちを見ている。
『太陽の剣』×『雷の剣』×『風の剣』
僕の持つ神器、ウェザリアは天候を操る剣だ。
それを、3つ組み合わせる。魔力消費は大きい。だが開戦の一発に効果が大きいことは証明されている。
混ぜる
混ぜる
混ぜる
太陽、雷、風
魔法で言えば太陽とはイメージの具現化に過ぎない、この場にもし太陽があったならばそれこそ一大事だ。
故にこの太陽は僕がイメージする最も熱い何かでしかないが、そこはまぁ、僕の努力次第だろう。
雷は速さ、その速度は光と並ぶ。風は暴威、その風は余計なものを吹き飛ばす。
狙いは、アヌビスの少し右隣。
アヌビスが手を伸ばしても届かないようなそんな場所を、ぶち抜く。
「いくよ!風神雷神・炎」
魔力の塊、そう形容していい何かが、その瞬間、アヌビスの右隣をすり抜ける。
その魔力発動にはそれなりの力と時間が必要となる。
だが、その技は虫達をまるで無視し、地面をえぐり、その射線上にいた一切合切を吹き飛ばし、薙ぎ払う。
その幅は僅か30メートルほど、だがその射線にいたものは例外なく吹き飛ばされ死んでいく。
「あれ、向こうまで行ったぜ?魔族領とか大丈夫か?」
「大丈夫、あの地平線の向こうまでに力は調整したから!」
「あれ本気じゃねぇのかよ」
本気では打った、勿論、本気で調整もしたのだ。神器を手に入れたレッドは、かつて手に入れていた最強の力、5つの神器の力を再現し、掌握し、自分のものにし。
かつ超えていた。
加えてこの世界に来てからの戦闘は、クロの才能を持つレッドの才覚に経験値をプラスさせ。
その強さは既に
神をも超えていた。




