地上に悪魔来たる
「あ・・・・あぁ」
一頭の馬と、数人の男達が駆けていた、馬上にいる男の顔に浮かぶのは、怯え、恐れ、怒り。馬の手綱を握りしめた手からは、あまりに強く握りしめていたのだろう。血が滲んでいる。
逃げた
一国の王であるこの私が
「生かされた」のだ、逃げるために、犠牲にしてしまったのだ。
ウォルテシアが誇る、最強の魔道兵達を・・
供も最早、片手で数えた方が足りるほどになってしまっていた。既に、ウォルテシア国王であるトトメスはその辺の旅人よりも汚い格好と形相で走っている。
後ろは見ない、見てはいけない。その行為は、命駆けで自分を逃した彼らに弓引く冒涜だ。
1万5戦、あの戦場には、それだけの魔導兵がいた。
彼らは援護や遠隔からの魔術に関しては一流の面々だ、その真価は先の冥界軍との戦いでも遺憾無く発揮されている。
誰が信じるだろうか?
そんな精鋭達がまるで児戯のように蹂躙されるだなんて。
落馬する、馬も最早限界だったようだ。
頭から強かに頭を打ち付け、地面に転がる。それでもトトメスはすぐさま立ち上がり走り出した。
陣地へ、エリアド荒原にある連合軍のところへ。
もしかすれば敵は、自分を標的にするのでは無いだろうか?それが真かどうかは不明だが、もしそうならば彼らより先に襲来を告げねば話にならない。
体が燃えるように熱い
体は既に限界を訴えている
だが、それでも止まる訳にはいかなかった。
トトメスは、エリアド荒原へ向かって走り続ける。
一国の王のプライドが、この日、世界を救う一端になることは誰も知らないことだ。
◇◇◇◇
私はウォルテシア国の魔道兵にて総隊長をしているオシリスという者だ。
『天空の3柱』の1人も勤めている。
私の実家は2柱ことアヌビスを信仰している者で、今回冥界軍が攻めてきたとわかった時は神官としての側面もある私は神の裁きをあるがままに受けるべきでは?と思ったこともある者だ。
しかし王命ならば従う他あるまい。私は従軍し、冥界軍相手に戦闘を繰り広げた。近年、平和だったアヴァロムが、数年前にはアイテールらそして今回はアヌビスが人類に牙を向いていると聞き、戦慄こそしたものだが。
なんとかなった、いやなってしまったと言った方が正しいのだろうか。
だからこそ、我々は冥界軍を甘く見た人は余裕ができると、下らない権力争いなんかに身を投じ始める。
我が主君がそのいい例だった。
我が主君であるトトメス様は、急にウォルテシアへの帰還を提唱する。
その結末が、これだ。
「うわああああ!なんだこいつら!?」
「報告しろ!」
「ハッ!急に空に黒いゲートが開き、そこから恐らくですが・・2柱アヌビス様と以下5名が攻め込んで来ております!」
報告よりも先に、視覚的にそれは入ってきた。
軍勢の真っ只中に現れた1対の神話の巨人にも似たような犬の頭をし、死神のようなローブを羽織る神。
あれがアヌビスかオシリスは、この状況下でも冷静だった。冥界軍に対する連合軍の圧勝、その為的をいい意味でオシリスもまた侮っていた。
フム、トトメス様からの報告では、アヌビスは負傷しているという話であったが。
彼に身体的外傷はないぞ?
「オシリス様、真っ直ぐこちらに突き進んでます!」
「足止めもできんか?」
「我々の実力では厳しいかと」
「ふむ、トトメス様を連れて連合軍のところへ反転せよ。私は手勢で奴等を防ぐ。」
「は・・?」
「何を呆けている?」
「オシリス様?あれと戦うというのですか?」
「誰かがやらねばならぬことだろう、それに、私も天空の三柱として多少は名を馳せたのだ、腕試しと行こうではないか。」
次の瞬間、ゆらりと時空が歪む。
次の瞬間、私はアヌビス様と5名の戦士が暴れている上空へと位置していた。
我が魔法は糸を繋ぐ「糸魔法」
我が糸はどこにでも繋がり、その粘着性から壁などを登ったりすることもできる。
「そこにおわすは第2柱、アヌビス様とお見受けしますが?」
天空より、我が神を見るという不敬、そのことに神官という立場でもある自分の心が許さずに頭を下げる。
子供の頃より敬愛してきた。
幼い頃より神殿で暮らしていた私にとって、神話というのはあまりに慣れ親しんできた者だ。英雄話は少年なら誰でも持ち得る憧れなのだろうが、私にとってそれが神話だった。
雄々しく、美しく、力強い。
そんなイメージを抱いていた私だったが、その敵意が完全にこちらに向かれているとなると少々傷つくな。
「・・・・冥界の神官か、その腕のブレスレット。変わらぬな」
アヌビス神がチラリと、空にいる私を少し見てそう呟いた。
ウォルテシアの魔導師が魔法を放つも、全てアヌビス神の魔法障壁に抑えられてしまっている。
無駄だ、あれでは視界を遮る以上の効能は無い。
それは、アヌビスの近くにいた5体の何かにも言えた。5体の面々も、ウォルテシアの魔法を躱してはいない。
これは、大人と子供の虐殺だ。アヌビスと4名の奴等の虐殺は続いている。
・・・・ん、4名?
「酷いことよ、ここまでする意味があるのかわからんがな?」
「・・誰だ!?そこで何をしている!」
気づけば、隣に蟷螂の顔を持った男が立っていた。服装は赤を基調とした平民が着るような無地のズボンとシャツ。靴は真っ黒で特徴的な靴をしている。言うなれば人型の特性を持ったカマキリだ、手はカマキリと同じく刃状となっている。
まさか、魔族?
かつて、知性ある昆虫族という種族がいた。
それがいたのは数千年前、かつて勇者様達が来るより前の話。ケイアポリス王国が世界を統一して時は流れ、各国の貴族達が分裂した時代。
その時代には昆虫族のみが住まう国があったと言う。
「華華華、昔の話よ」
そう言うと、彼の体が少しだけブレる。
攻撃か?
糸魔法で一気に跳躍し、その場から距離を取る
(そもそも、昆虫族の文献で蟷螂型の魔族!何故この場に?冥界軍と同じくアヌビスに復活して貰ったか!だが、何故冥界軍には蟷螂型の魔族が1人もいなかったのだ?)
退避し、己の安全を確認した後にオシリスは糸魔法を作動させる。
糸魔法は移動魔法では無い、その鋭利な糸で敵の首を切り裂き、音も無く殺す。奇襲向きの魔法なのだ!
が、その魔法は蟷螂型の魔族から大きくずれた
「何故?」
いや、違う
ズレたのは、私の首だ。
「我が同胞が戦に参加しなかったのはな、何も可笑しいことはない、愚生がそれを禁止したせいなの余。」
カカカと、笑いながら蟷螂型の魔族はそう言う
「すまんな若いの、アヌビスに身体を操られてな。望まぬ殺しをせなならんくなった。願わくばこの世界のどこかにいる英雄が止めてくれることを望むがな」
その姿、その風貌
たった今思い出した。
何故その姿を忘れていたのだろう。
ケイアポリス王国には多くの様々な敵が立ちふさがった、その多くはケイアポリス王国に倒されたり、悲劇的な最後を終えている反面、技術や戦術面で新しい発見をしたりして、世界に名を轟かせている英雄が多い。
「覇国十天将」
いつしか、彼らの国と、その頭領たる彼らの名前はそう呼ばれることとなった。
彼はその一員。
かつて昆虫族という知性ある昆虫が存在した。その昆虫族の独立と、その土地の為に彼は戦った。しかし昆虫族の寿命は短い、ほんの20年、彼が生きていた間はそれだけである。しかし彼はその間に優れた武の伝説を残したとされている。
神代殺しーー アグレム=ブオウ
「お、王・・ご無事で」
長年連れ添った胴体と別れるように、オシリスの首は地上へと落ちていく。
数十分後には、この大地にあった戦乱の気配は、1つ足りとも無くなっていた。
2部8章へ続きます。




