魔王と死の王
クロム=ウェルハレム=ケイアポリス
当時のケイアポリス王国王族の分家嫡男として生まれる、その優れた魔力からすぐに頭角を現して齢19にして当時の王の側近として活躍する。
23歳で両親が死去、悪魔を使役した戦略を採用していた敵国アスガルドとの戦闘での戦死だった。その後クロムは側近を辞職、ウェルハレム領内の統治に尽力すると同時にアスガルドとの戦争に命を賭ける。その際に悪魔対策として悪魔祓いを結成、自身を長として戦争の指揮を執った。
33歳でアスガルドを滅亡、それを領地に組み込み、56歳で息子に爵位を譲るまで旧アスガルド統治のために奮闘した。33歳の時点で悪魔からの呪いで美しかった容姿は醜く変貌し、常に日光を避けてフードを被っていたことから「あの方は悪魔になったのでは」という噂が巻き起こった。
隠居後は表舞台に出ることはなく、悪魔祓いだけでなく魔導学院などの成立や後進の育成に全力を注ぐ。
64歳で死去したと発表され、葬式に来た当時の王より金剣公という渾名を送られた。
その死から5年後、悪魔達が一斉にケイアポリス隣国であるアーチボルト国へ侵攻、これを滅ぼしたという報告があがりすぐさま悪魔祓いを中心とした討伐軍が結成される。大将にはクロムの息子であるクレイが任命されたが、その際に側近として見慣れない男があり、それが若き日のクロムにそっくりだと話題になったという話がある。
その後、クレイの指揮と悪魔祓いの活躍により悪魔の軍団は撃退されたが、その際にケイアポリス王国軍に幽霊族が助けに入ったとして話題になる。それがクロムだったかどうかはクレイ以下首脳陣が否定しているが、クロム生存時より騎士団に所属していたものからすると間違い無いという供述を得るなど不明点が多い。
逸話として、彼は自分の興味があることに対しての知識が貪欲で、それを満たすためなら法も鑑みないという弱点があった。その傾向は老境になってから加速し始め、生物実験などを盛んに行い、悪魔公というあだ名さえついた。生きた人間の血を飲む姿が目撃されたという話もある。
また、悪魔崇拝を行なっている一部の信者からは蛇蝎の如く嫌われている。
[ケイアポリス王国偉人目録 197p]
「何故だ、我が体が」
「不安定で歪な体だ、神よ。これは呪いだ、本来は私の呪いに犯された悪魔は消滅するのだが」
それは悪魔大帝が持つものか、それともアヌビスが持っていたものか、その圧倒的な回復力でアヌビスの右腕は何度も再生する。しかし、その度にアヌビスの腕は呪いに犯され、灰となって消える。
燃える、再生、燃える、再生の繰り返しと痛みが、アヌビスの脳内に焼けつくようなものを再現させるが、アヌビスはうめき声1つあげていない。
ただその結果を興味深そうに見つめている。
(バケモノですか、いや神でしたね)
クロムウェルはそんなことを思いながらも、もう一度アヌビスに呪いを打ち込むべく詠唱を再開した。
これが呪いである、本来ならば掠っただけで消滅する筈なクロムウェルの呪術は、アヌビスの体にある意味通用しなかったがその効果は絶大だった。効果時間こそ短いだろうが確かにクロムウェルはアヌビスの体の一部、具体的には右腕を使用不可にした。
「呪いは術者の能力次第でどこまでも延びる、魔法に限界無し、己の才覚と努力でどこまでも延ばせる。ここで質問だアヌビス、1人の男が両親を殺され、己の肉体や精神、理性を犠牲にして幽霊族となり、なおかつ長き時を得て強化してきた魔術。どれくらい強いと思う?」
アヌビスは返事をしない、いや出来ないと言ってもいい。今もシンの剣がアヌビスの頬を掠めた。
勝負はアヌビス有利から、シンの独壇場にあった。
「それでも我が有利なのは変わらんぞぉぉ!冥界の王の権能を忘れたか」
「お?クロムウェル、アイツ冥界の王の権能を使う気だぞ?」
「あれ使われれば少なくとも魔王様は弱体化しますねぇ、え?対策してないとか言わせませんよ?」
「貴様、我を誰だと思っている?そもそもアヌビスと敵対するかどうかすら迷ってみた我ではあるが・・その為に、覇魔があるのだ。」
「なるほど、そういう訳ですか」
「あぁ、さらばだ、クロムウェル」
ニヤリと、覇魔を片手にシンはそう呟く。
覇魔の黒き闇が広がる、その真っ黒とも言える魔力が辺り一面を覆い尽くし、アヌビスの周りにまで及ぼうとする。
そんな中、クロムウェルはシンの側から動かなかった。いっそ信頼しきってて危険なほどにクロムウェルは闇の中にその体を溶け込ませていく。
最後まで口元に笑みを浮かべたまま、彼は引き込まれて行った。
「なんだこの闇は?まぁいい、冥界の神アヌビスが命ずる、対象は元魔王シン。彼の魂を魂のあるがままに戻し無力化せよ!」
それは、アヌビスが出した反則とも言える『冥界の王』としての権限。
死人は全て、この権限には抗えない
「筈だ!!筈なんだ、何故お前は生きている?」
「この闇、覇魔の力に気づかんか?アヌビス」
アヌビスは立っていた、その絶対に抗えないと言われた力から。
シンが死人であることは変わらない
彼は決して神ではない
「ならば何故だ?」
「アヌビス、この神器「覇魔」の力、能力は何かわかるか?」
「覇魔の能力は『吸収』能力、魔力の吸収だ!しかしそれは持ち主以上の魔力体制があるものには通用せん!つまり手前には注意する能力では無いと思っていた!それが何の関係がある」
「わからんか、我が吸収したのは貴様では無い」
「ならば、貴様、まさか」
「そうだ、我が吸収したのはクロムウェルだとも」
そう、シンが吸収したのはクロムウェルだった。
あの中、瞬時にシンとクロムウェルは気づいたのだ、クロムウェルは身体能力的に悪魔に対する特攻を持っていようと単体ではアヌビスに攻撃は当たられない。しかしシンではアヌビスは倒せない。
2人が勝つにはこの方法しかなかった。
「正気か?吸収されたものは生物であれば消滅する、つまり死して冥界に来ることは敵わない!消滅、それがこの世界においてどれほど唾棄するべきかわからぬのか!?」
「あぁわかる、クロムウェルはだが一切躊躇せんかったぞ」
復讐のために、彼は持てる全ての能力を使った、彼はアヌビスを倒す為だけに、その身を捧げたのだ。そして彼の魂は、思いは、この刀身に宿っている!
行くぞぉ!
豪、という音と共にシンの剣がアヌビスの拳と合わさる。アヌビスの拳はそれそのものが神器と同等である、再生するようになって来た右腕でアヌビスはそれを受け止める。
しかしその右腕にずぶりと刀身が埋まる、叫ぶ間も無く引き抜かれた剣を、アヌビスは必死の形相で交わした。
敵の攻撃を受ける、敵の攻撃を真正面から受け止めて来た。無論フレイヤ戦では技を使い流したりもしたが、必死の回避なぞついぞ経験していない。
強者として生きてきたアヌビスの中に芽生えた恐怖という毒。
それは悪魔大帝が憑依したことによるアヌビスの心境の変化だろうか、それとも。
「アヌビス、どうだ?覇魔、クロムウェルが入ったことで悪魔に対する特攻を得た剣の切れ味は」
この剣は、貴様を殺せるぞ?
シンの不敵な笑みがアヌビスを射抜く
そんな中、アヌビスの中で何かが、弾けた。




