冥界之王、進化する
悪魔との契約には複数の方法があるが、その王である悪魔大帝との契約には、多大なる対価が必要となる。
(但し、それは悪魔大帝をこちらから呼び出す場合に限り、悪魔大帝からこちらを呼んだ際には対価は必要ない)
①契約者の了承
これさえあれば悪魔大帝はその力を十全に払うことができるのだ。
え?
悪魔大帝より強い奴がいたらどうするのか?
考えたこともないな・・・・
それだったら単純に、その相手が酷く弱っていたりすれば可能なんじゃないか?
そもそもあの大帝より強い生物がこの世界に何人いるかわからないけどね。
「悪魔研究家の論文」
〜悪魔支配階級総論〜
その騒動が起こるトリガーは、多数存在した
条件の1つ目は、血湧き肉躍る、アヌビス好みの戦場の中で、アヌビスが心の底から戦いを楽しめてないこと。アヌビス自身、自身も相手もフルの状態での1対1を是とする根っからの武人気質の為、多対一というこの状況下は苦手と言わざるを得ない。
アヌビス自身、神の中でそれほど優れた気配察知を得ている訳ではないのだ。先ほどのエルザの一撃とて、例えばフォルテやスアレスなら避けられた一撃であろう。
但しフォルテやスアレスではフレイヤに勝利する前提条件が満たさないが。
ともかく、アヌビス自身が肉体的、精神的に疲労しきった状態。フレイヤ、1柱以外のものに苦戦し始め、魔力量が3割を切ったギリギリの死の間際。
2つ目は、何故かそこに悪魔大帝が存在していたこと
悪魔は、狙っていた。
「なっ!貴様、何しに冥界へ来た」
「ンん?劣勢の貴様を助けにきたと言うのニ冷たいナァ?」
「・・・・何が目的だ?」
ゆっくりと、目の前に魔力障壁を発動させつつアヌビスは、眼前に霧のような姿で現れた悪魔大帝に尋ねる。
それと同時に悪魔大帝と見られるソレは、掌から悪魔を多数召喚し、グリーン達の迎撃に当たらせた。彼は一枚の布に霧のような姿を纏った、ドラク〇のぼうれい剣士ソックリな姿でアヌビスの問いに答える。
「目的カ、そうだな。フォルテが貴様に組みしたのが1ツ、個人的に因縁があるのが1ツ」
そこまで言うと、ぼうれい悪魔大帝は前魔王と、そして誰もいない場所を見る。
「最後に・・こっちについた方が面白そうだからダ」
「なんだと?」
「だってそうだろウ?それともこの面々に負ケ、悪しき邪神は滅ぼさレ、冥界は破滅すル。そんな結末が冥界之王はお望みかナ?」
「そんなことにはさせん!」
「ならば、我が手をとるが良イ。契約の対価は貴様の了承1つだ。神との契約カ、さてどうなることやラ」
「・・・・」
認められるか!
アヌビスは悪魔大帝からの手を払いのけるように手を振りかぶり・・・・
その手を止めた。
通常のアヌビスであれば瞬時に頼らないという判断を下しただろう、そんなもの無くとも意地で戦うものと。だが、極限の戦闘の最中、闘争本能の全く刺激されない戦いの中で回っていた理性が、その心を押しとどめた。
(このままでは勝算は薄い・・敵の敵は味方、だが毒にも薬にもならぬ此奴と協力して利点があるとも思えぬ)
だが、このままではアヌビスに勝算はないのが事実である。
自らの命を削り使用する冥狼王の力は、誓約魔法を使って使用する正真正銘アヌビスの切り札だ。それを短期間で悪魔大帝、フレイヤと連戦して使い続けた。特に奥の手を使用してなおかつギリギリの勝負であった直前のフレイヤ戦での疲労は大きい。
強制的に進化は解除され、たかが人間ごときにこのザマである。今のアヌビスは前魔王シンにすら若干手こずるだろう。無論前述の通りアヌビスが多対一を不得手とするのも一如として存在するが。
ならば、手を取るか?
それも否である
「さァ、どうする?手を取らねばお主は死ぬだけだぞ」
額に汗が流れる。
冷や汗など久しくかいてない
アヌビスの精神性が、大きく揺らごうとしていた。
◇◇◇◇
フム、思っていたよりもしぶといな
悪魔大帝は眼前にいるアヌビスを見て思わずそう呟く。悪魔大帝はフォルテと同じく洗脳魔法の使い手でもある。それも彼の父、悪魔を統べる者として洗脳魔法だけならば4柱ニコラス・セヴレイブにも勝る使い手である。
あの魔法狂いのニコラスよりも上位の洗脳魔法を行使し、なおかつアヌビスが心身共に疲労しきった状態。
にも関わらず悪魔大帝の洗脳魔法はアヌビスの心を誘導するに留まっていた。
本来ならば、造作もなく相手の心に入り込ミ、操作を行えるのだがな
流石は2柱、神々の心の主柱ということか。
だがそれはもうすぐ終わる
フォルテにーーこの作戦とも言えないような愚行を提案された時は驚いた。
アヌビス率いる冥界軍
人間を守る神々
これを戦わせようなどという悪魔の考え、誰が思いつくだろうか。そして最初に戦線離脱をして皆の意識を逸らし、最高の機会を得る。
今起きている全ては、悪魔大帝とフォルテが思いついたほんの気まぐれのような行動。それが思わぬところで引き金を引いていることを、悪魔大帝本人すら知り得ない。
汗が止まる、命ある限り武人であり、静観そのものだったアヌビスの顔が、少しずつ歪んで行く。
(やっと効いて来たカーーいやそもそも洗脳魔法は潜在的にアヌビスが思っていたことを増幅させる魔法、少しは嫉妬や憎悪の感情があったということだろうがーーフフ、発動が遅すぎるワ)
アヌビスの手が、悪魔大帝の手に少し触れる
「この戦いが終わるまでだ、貴様の力を利用させてもらうぞ」
「ヒヒヒッそれでこそ2柱ヨ、契約は成った」
かかった!!!!!!!!!!!!!!!!
悪魔大帝はこの瞬間、数百年ぶりに勝る愉悦を得ることになるーーーー
「ガ、ガァ!?何を?」
「まずは貴様を強くしてやろウ、光栄に思うが良イ」
悪魔大帝の体がアヌビスと少しずつ融合していく。
大帝を形作っていた布が、ゆっくりとアヌビスの体に覆いかぶさる。
少しずつ変化し、バキバキというあり得ない効果音を出しながらもそれは止まることがない。
最悪の時、来たれリ
明日、審判の時




