vsアヌビス②
たった1人、誰にも気づかれずアヌビスに接近していたエルザは、その静寂同然の自らの環境に満足感を得ていた。
アヌビスが出てきたと共に、エルザはその気配を完全に断つ。エルザが自らの作戦を話したのはイエローのみであった。
というよりも今回のエルザが1人で決める作戦は、グリーンがエルザに持ちかけた作戦であると言ってもいい。
通常イエローは気配を消し、相手の急所を狩るスタイルが一般的だ、実力が圧倒的に上ならばともかく、そうでもない相手に対してイエローが直接的戦闘に臨むことはあり得ない。
にも関わらずイエローが敢えてアヌビスと真正面からぶつかったのは、偏にエルザと話し合った作戦を成功させる為であった。
全ては陽動のため、少なくともイエローはアヌビスの実力を決して過小評価していない、エルザがイエロー仕込みの隠密を完成させることができたのはイエローにとって僥倖だったが、それがアヌビスに通用するかどうかは半分賭けであった。
少しずつ、足音すら消してエルザはアヌビスに近づいて行く。
先程まで聞こえていた爆音は、もう聞こえない。
後は私の一撃次第
エルザは自らの持つ剣を高々と掲げる、彼女の剣が白銀に輝き、彼女自身の魔力が集まり、その輝きを更に加熱させる。
剣を持つ腕が熱い
熱い
熱い
熱い
アツイ
彼女の中で静かに、アヌビスに察知されないレベルでの水面下での魔力の増大は、細々と、しかし性急にというこの戦いの難易度を更に格上げする。
練って
練って
練って
練って
少しずつ白銀に輝いていく自分の剣を見てエルザは顔を顰める。
ちょっと、これじゃあ隠密で近づいてる意味がないじゃ無い。
だが関係ない
グリーンの爆弾による閃光が
イエロー、レッドの白兵戦が
2人の魔王の必死の攻防が
アヌビスの目を確実に反らせてくれているから。
もう少しでアヌビスの間合いに入る、この間合いはエルザが彼らの闘いぶりを見守っていたからこそだ。
彼女は、アヌビスと同等に渡り合えるほどの実力を持っているわけでは無い。アイテールとウルフィアスに創造された彼女の実力は、アイテールに産み出された子機のアイテールより1段も2段も劣っていた。
改良を加え、どこぞのプリキュアよろしくパワーアップしているものの、それでも単純な戦闘力では下位神にも劣るだろう。
そんな彼女がたった一撃
たった一撃だけ、上位神を滅ぼす一撃を放つことができる。そんなこと誰が信じられるだろうか。
少なくともイエローだけは、その可能性を信じていた。
「な・・何ですかこれは!?」
2年前
天災、地獄、天変地異。
そんなものはイエローにとって危機にすら値しないものだった。しかし目の前にかつて君臨していたこの山、ほんの気まぐれにあの山を破壊できれば、交通の便が良くなるだろうな、とエルザと戯れに放った一言。その一言は
「任せて」そんな軽い声で一瞬で破壊されてしまった。
「どう?イエロー、これが私の修行の成果よ!」
「おお・・これは素晴らしい、」
「しかもこれ、まだ全力じゃないんだから!」
「本当ですか!!」
イエローは目を丸くする
それもそのはずだ、彼の目の前には、200メートルはあったであろう山が、真っ二つになっている様子が映し出されているのだから。
そして、まだ本気ではないという証拠に、エルザは綺麗にその山の一角のみを切っていた。
当初イエローはこの力を危険だと思っていた
がエルザがグリーン、いやどちらかと言えばレッドに好意を持っていることを知っていたからこそ、そのような危険思想的なものは芽生えなかったのだが。
エルザの実力は、その身に宿すにはあまりにも強力だった。
全魔力を消費して放たれる奥義
恐らく現在アヴァロム世界に住まう人間の中で瞬間火力で言えば最強の一撃。
それは神の悪戯だったが、勿論彼女自身の努力の結果でもあったのだ。
そんな一撃が、アヌビスの丁度真後ろ、後頭部に迫る。
彼女の剣の輝きに、アヌビスはようやく気づいたように顔を背ける。それは命の象徴のような白銀の輝き、光が剣に沿って冥界の暗い闇を照らす、グリーンの鎧から放たれる光や、宝具や、時には神器すら彼女の持つ光、直結して魔力量には敵わないだろう。
彼女はツクリモノ
神々が創り出した自動人形
しかしだからこそ
だからこそこの技は使用可能となった。
この一瞬、彼女は上位神を捉え、そして越えることができるーーー
「起動!始動!でもって最強!これが私の全て!」
1年王国より儚く
10年王国より脆く
千年王国に劣らず
無千年王国は遥かに遠い
『無千年王国説・前!!!!』
剣を振り抜く、光が不意を突かれたアヌビスの脳天に直撃し
光が、散った。




