vsアヌビス①
メンバー
レッド(エルザ、イヴァン、ディナス)
グリーン(ジャック、ファムルス)
イエロー
ゲンム(クロムウェル)
前魔王(真名シン、前魔王もう一つの人格)
現状の冥界勢
既に僕たちの周りには、あの無機質な岩以外は何も残されていなかった。
冥界のほぼ全てから破壊音が響く、それは絶え間なく、壁一枚隔てた向こうで、命がけの戦いが続いていることを確信させた。
だが僕達ーー人間に、その場所へと行く手段はない
いや、行けないのだ、既に目の前に、暴虐の化身とも言えるアヌビスがいたのだから。
冥界軍との戦い、それはアヌビスが自ら編成した実力者集団だ。戦力的にはBランク以上の冒険者、騎士団部隊長クラスを最低限の基準とした軍団だ。
全員が自らの実力に絶対の自信を持つ者たち、そんな面々と相対して、いかにグリーン達の実力が飛び抜けているとはいえ疲弊しない筈は無い。
いや実際疲労という概念が他の人より鈍いエルザや、そもそも腕をガシャガシャさせて操縦させているだけのグリーンを除けば、ほぼ全員が疲弊していた。
そんな彼らの目の前に、4本の腕を持つ巨大な犬の顔を持った男が現れる。それは死を感じさせるような化身のような男だった。
だがその姿は目に見えるほどボロボロだ、全身の所々から赤い血が噴出し、武器すら所持していない。目は虚ろといった風に真っ白で、しっかりしているのは足取りだけだ。
だが、その様相には、僕と最初にあった時のような余裕感は無い。だがそこには圧倒的な死の気配が漂っている。
『おいおい!アヌビスがここにいるってことは、フレイヤは負けちまったってことかよ!』
そんな叫びを、僕ーレッドの隣にいたグリーンが愚痴を零すように言い放つ。
「然り、3柱フレイヤは手前が打ち取った。次が貴様等、次が世界だ。」
『じゃあかぁしい!』
そう言いながらグリーンが放ったのは真っ黒な小型の弾道ミサイルだ。その小さなミサイルはアヌビスの手にあっさりと捕まる。
「投擲具か?遅すぎるな」
実力派野球投手の全力投球にも似た一撃を止めたにも関わらず、アヌビスの顔にはなんの感慨も無い。
『あぁ、そりゃそうだろうよ』
次の瞬間、アヌビスの右手がめちゃくちゃな爆発音と共に、轟音を鳴らし始める。
「みんな、やるよ!」
フレイヤが闘って弱らせてくれたんだ、あとは僕たちでやらないと!
そう息巻いて武器を再度出した僕たちより前に、アヌビスが出現した時点で攻撃を仕掛けていた奴がいた。
「む?誰かと思えば神を恨んだ前魔王か、お前を召喚したのはフレイヤだろ?復讐は済んでないのか?」
「背中に目でも付いているのか貴様は」
それが前魔王だった、その剣とアヌビスの肢体の戦いは互角だ。アヌビスは自らの手についた爪で、前魔王の剣と互角に打ち合っている。前魔王の型は我流だが合理的で、そこには間違いない美しさがある。対してアヌビスの徒手空拳にて完成された舞にも似た拳は、目にも止まらぬ速さで乱撃を見せ、僕はそれを美しいと感じていた。
「み、見えないです!ジャックは?」
「あ〜ちょいキツイな、一応瞬間的には見えるが、戦い全てを見通せる訳じゃねぇ。見えた!と思ったら他の場所で戦闘をしてる感じだな」
『流石!オレは全然見えねえ!だからこれだ!「自動追尾龍撃砲』
全く見えてないのに放たれはそれは、ただアヌビスといつ熱源を追う為の先ほどと同じミサイルだ。
グリーンの乗る機体から放たれた先ほどと同じミサイル形状の赤いミサイルは、方向を様々に変化させながらアヌビスに迫る。
『邪魔になりそうな奴等は下がってろ!どっちにせよ疲労で動けねぇだろうしな、使えそうなのはオレ、レッドイエローとゲンムか!』
あれ、エルザは?
と思ったら姿が消えている、彼女のことだ、何か考えがあるんだろう。
そこまで言うと、グリーンは自前の火力を全てアヌビスに撃ちまくる、アヌビスは防御すら行っていない。ただそれを喰らうのみ、しかしそこに苦悶の表情はない。
『防御するまでもねぇってか?』
「化学か、手前には魔法耐性と物理耐性防御が常に張り巡らされているでな、貴様の攻撃など目くらましにもならんよ。」
『がー!アイツ初対面なのにムカツク!』
「では、儂が」
そこまで言うとイエローの姿は、影に溶け込むかのように消えてゆく。
『肉体超過Ⅱ』
イエローが身につけているスーツと共に放つ必殺技だが、それを使ってようやくイエローはアヌビスと同等の土俵に立てる。それすなわち戦闘という領域に立てたということに他ならない。
バキィッ!
しかし、イエローのナイフは、アヌビスの肌に傷をつけることすら叶わなかった。
「っっっっ!!」
「技の英雄、ふむ惜しい。貴様に相応しい武具、手前と悉く5分の条件が揃っていれば存分に技を競い会えたのだがな。」
速さで同等でも、その程度では向かい風程度の障害にもなり得ない。
イエローは自らの弱さに赤面する、敵を知り、己を知ればの言葉通り、イエローは敵と自分の力関係を何も分析できていなかった。アヌビスの言葉の端々には、そんな惜しむような声が出ていたのだ。
「ふん、そんなことを言って、私に止められている程度では2柱の名が泣くぞ!」
「ゲンム、自ら魔族を滅びに向かわせるとはな!いいだろう、語るべき者もいないが、魔族史上最も愚かな魔王として歴史に名を残してやろう!」
「誇りを失くした魔族に未来はない!人間が居なくなった世界でどの面下げて生きて行けると言うのか!」
ーーまだ世界は融和にはほど遠い、人間と魔族の確執は未だ続いている
「だが!!!」
それでもなお諦めずに人間の里へ行き、汚泥を飲まされ、石を投げられても我が命に従い、道を諦めない魔族は大勢いる!
「そんな者達の為にも諦める訳にはいかない!」
確信した目で、ゲンムは自らが持つ武器の力を高めていく。
だがーーーーーー
「ほざけ、未熟者が」
アヌビスの4本の手のうちの一つが、確実にゲンムを捉える一撃。同じ土俵に立てている中でもゲンムの力はイエローの次程度しかない。
大人と子供を遥かに超えるその力の差もそうだが、その身体にある魔力量の差が、生物としての格の違いを知らしめるのだ。
だがそれを、この場で自他共に認める最強が受け止めていた。
「ち、父上・・・・」
「やれやれ・・甘さは無くなったが、未だ神に至らずか。シンヤ、少々王位を譲るのが早すぎたんじゃないか?」
そんなことはない、シンヤ=カワサキがこの場にもし居たならば、全力で相棒の言葉を否定した筈だなと、シンは1人そう思う。
アヌビスの爪を自らが持つ剣『覇魔』で弾く。剛と剛とぶつかり合いは、膂力でも技術ですら敗北しているであろうアヌビスの力を互角以上に押しとどめていた。
「貴様どこにそんな力が!?」
既にアヌビスからの魔力供給は絶たれていた、冥界に存在するものはアヌビスに管理されなければ3日と持たない、自ら魔力を保持できている時点で超越者級、だが前魔王であるシンの実力は、上位神に匹敵していた。
「非合極まりない技・・気合いだぁ!」
剛、という音と共に、超質量のダイヤモンド同士がぶつかりあったような鈍い音が当たり一面を支配している。
シンの体の鎧は少しずつだが剥がれていた、アヌビスの魔の手から逃れる為にあらゆる手段を使っていたが、それも小手先のみの手段に過ぎない。
「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「前魔王、復讐の権化と聞いていたが、なかなか人には甘いではないか!」
前魔王シン、アヌビスにとってその男は異色であった。強さだけなら冥界に存在する神を除けば、超越者を入れても5指に入るほどの腕前を誇る剛の者。
でありながら好戦的でもなく、日がな座禅と呼ばれる座り方をして暇を潰しているという情報をアヌビスは聞いていた。
今回の戦争では不参加を決め込んでいる、アヌビスを倒そうという面子に誘われたらしいが、手前の支配下に置かれているのに、どうやって手前に勝つつもりなのか?
理解はできないが、少なくともシンはそんな愚かな真似はしなかった。
シンヤ=カワサキのもう一つの人格、魔王。
彼の性格は徹底した合理主義だ、魔族を世界の頂点に君臨させる為ならありとあらゆる手を尽くす。
だからこそ、シンは自らの息子であるゲンムはこの冥界にいるということを目の当たりにした時点で絶望した。
そこにあったのは息子への限りない失望心だ。
この戦いに魔族が参加するメリットは全く無い。だがゲンムは立った、立ってしまった。弱者を守るヒーローのように、それが愚かな行為だと知っていながらも。
ーーーー助ける、そこに意味なんか関係ない!
やめろ
ーーーー魔族だって助け合えるさ、僕たちは思考できる
やめろ
ーーーー遠くを見よう、転んだって起きればいい。
あの男と被る行動はやめろゲンム!!
だが
「結局・・親子ということか」
気づけば倒れていたゲンムに手を取り、シンは起こしていた。アヌビスを威風のみで押し出し、立っている男は、まさしく魔の王と呼ばれるに相応しい。
「立て!魔の王がこれしきで倒れられんぞ!」
「ハッ!父上!」
親子の構えはほぼ同じであった。
その姿にアヌビスはギラリと目を向ける。
「未来・・未来か、その未来、摘み取ってやる」
その殺気は、間違いなくこの2人に向けられたものだ。
だからなのだろうか。アヌビスのその圧倒的とも言える威風に隠れて来た
エルザに誰も気づかなかった。




