地質学者と天才軍師②
「終わったか?」
アイテールは、焼け焦げたように見えるマルクが、光となって消えてゆくのを目の前で確認した。
いくらなんでもあっさりし過ぎではある気がしたが、そこは
「やはり、私って、強いな!!!」
という謎の尊大さを心の中で表す、それが終わると丁寧にあたりを見回すが、既に魔獣どもの影すら無い。
そんな筈なのだがーー
不意に、ただの勘で。
アイテールは一歩後ろに下がった。それは何気ない行為、ヘビースモーカーか煙草を手に取り、吸うまでのようなそんな気安さ。
別にアイテール自体も何か思ってしたわけではない。
結果的にその何気ない行動が、アイテールの命を救ったと同時に、天才謀略家の策を砕いた。
瞬間、彼が元々いた場所へ炎氷台風毒その他諸々のレーザーや魔術の域を集めたかのような攻撃が入り、アイテールは更に後ろに吹っ飛ぶ。
「な、なんだ!?」
あれ喰らってたら流石に重傷だぞ!
気づけば、誰も居なかった筈の場所が大きく変化していた。上空ではSランク級の魔獣が10体ほど浮遊し、その中央にマルクはいた。
「幻術か!!!!!」
「やべ、ショックで幻術魔法が解けたな。最悪だ・・・・」
「どこまでが幻術だ、コラ」
「見たまんまだよ、僕は生きてここにいる。」
「・・・クソが」
イデオムは数発しか撃てないとっておきだっていうのに。
そう、これまで見たほぼ全てはアイテールが見た幻術だった。幻術に対してほぼ絶対とも言える耐性を持つアイテールが、幻術とも言える少しずつの光景のすり替え。
具体的に言えば、Aランク級のモンスター相手に無双していたアイテールはまさしく本物の景色であり、事実である。異なったのはあの一撃。
イデオムが撃たれた後、モンスターと共にマルクが吹き飛んだ映像である。マルクの偽死体も、マルクの指揮の元にモンスターが作成したものだ。
そもそも軍師があんな目立つところで浮遊しているという視点でナンセンスだ。軍師とは総大将と並び戦場の脳であり、核である。そんな彼は何がなんでも生き残らなくてはならない為、通常は隠れていたりする。
今回は、自らを囮にした罠ですらない、幻術でのトラップだ。彼は最善を尽くした。
「念には念を入れた最善の策が完全に見破られた・・いや、なんとなくで破られちゃあ世話ないなぁ〜」
「フン、甘く見過ぎだ。」
実際アイテールはなんとなくした行動や行為が結果として身を結ぶといったことは少なくない。
元々卓越した防御力...下手するなら壁役としてならフレイヤやアヌビスより優秀な能力を持っているであろうアイテールは、このような勘通りなにかをすると良いということを知っている。
その勘と言う名の適当さ加減が、現在マルクを苦しめている最大の要因だった。
(う〜ん、策はあるけど手駒がない。そもそも騎士と子供の戦い並みのパワーバランスだしね。何人子供の仲間を連れて来ても結果は同じか、気分は子供を率いるガキ大将........)
自分の実力は良く知っている、また何度か共闘をしたことによりアイテールの実力もおおよそ把握していたつもりだし、共闘していた際にこれが本気ではないと言うことも気づき、分析できていたつもりだ。
戦力は見誤っていない、ほんの少しの偶然。この差は明確で、そして大きい。
(う〜ん、ここでアイテールに手傷を与えておかないと、少し厳しいところになるんだけどな・・・後々響く可能性がある。良くて戦闘不能まで持っていきたいんだけど)
無論、彼にとっての最善手は勝利ではあるが。
「神獣、突貫。世界を滅ぼしかけた3体の反逆の獣どもよ・・行け!」
岩の巨亀(個体名ロックタートル) カイセキ
空飛ぶ巨鯨(個体名スカイホエール) マゼルダ
光龍(個体名ライトドラゴン) ライデン
いずれもSランクオーバーの巨獣達である。
そんな巨獣達と、既に巨人化したアイテール。しかし、その姿は明らかに変貌していた。モンスターとしては既に神々の領域に頭を突っ込んでいるような連中に対して、アイテールも本気を出さざるを得なかったのである。
『邪神化』
神話の一端、アヌビスの変身と異なり、特別なデメリットがあるようなものではない。巨人としてのステータスの増加により、名実共に世界最強の防御力を持つ。
姿は刺青のような黒い線が体のあちこちに伸び、犬歯のような歯を口から覗かせている。
「こうなったラ・・・・少シ凶暴になるぞ!!」
顔面の筋肉をビキビキと膨張させながら、アイテールは答える。
神獣と邪神の戦いが、始まろうとしていた。
◇◇◇◇
「ギャーーーーーーー!!!!」
「ボォォオオオオオオオオオ!!!!」
「ガァァァァァァァァァ!!!!」
うるさい!迷惑だ!
そう言いながら焦るように3体の攻撃を躱す。
空いた右手で、カイセキとそう呼ばれた最悪の巨亀を頭からぶっ潰す。巨大亀は別名毒島とも呼ばれ、常人なら1秒ともたずにあの世いき、存在するだけでも風の流れて匂いだけでも強力な攻撃となる。
しかし、ここでアイテールの耐性をもってするならば、その毒は汗程度の不快感しか与えないものとなる。
はっきり言えば無効化だ。
前回は全力を出せない状態でアイテールはカイセキを撃破した。本気ならば相手にもならない、カイセキはそのイデオムにも相当するであろう一撃を受けて即死した。
「ボォォオオオオオオオオオ!!!」
「ガァァァァァァァァ!!!!」
同僚をものの一撃で殺されたことに、驚きと畏怖心を感じられる。
「じゃあかやしい!安眠妨害に死を!」
そう言うと、アイテールはマゼルダの浮遊している宙まで一気にジャンプして、華麗なヤクザキックをお見舞いした。
アイテールの全体重をかけた一撃に対して、マゼルダは最早空中に浮かぶただの鯨と化した。
錐揉み回転をしながら壁に激突し、その後光となって消えた。
残りはライデン、光の龍ただ一体のみ。
以下3体は、いずれも過去英雄と呼ばれたものに倒されたり神々が複数で仕留めた怪物である。
それに翻弄されている、いや昔よりも圧倒的な力で蹂躙を受けている。曲がりなりにも神獣と呼ばれていたこともある自分たちがである。
過去十体いた彼らのうち7体が、何故神々へ再度反旗を翻さなかったのかわかった気がした。
そもそも、多少知恵があればわかる筈なのだ。
神々に勝てる道理など無いと。
それでも、とマルクの鞭で高揚した調子の中、ライデンは口から光の奔流、白い炎からなる白炎を出し、その出した炎に自分ごと突っ込み、全身に白い炎を纏う。
そして、アイテールに体当たりを狙う。
これならば確実にダメージを与えられると信じて。
返答変わりに来たのは、アイテールの緑色の魔力の奔流。
撃滅の抜き手、『イデオム』
最後にライデンが見たのは、緑色の、この世のものとは思えないほどの美しい魔力の奔流だった。
こうして最後には正真正銘、マルクのみが残った、邪神化も解けたアイテールは、肩で息をする。無双とはいえ疲労は溜まる。決着を急いだことも要因としては大きかった。
「もう・・使える駒が無い。いくら策士でもキングだけじゃあ勝てない」
そう、1人じゃ生き物は偉業を成さない。それがマルクが初期に気づいたこの世界の真実だ。
だがらマルクは人の輪を求めた。理想郷を創り出した。
神々に比べれば凡夫に過ぎない彼が、集団の力を求めたことは至極当然だと言える。
そんな彼の理論が崩れようとしていた、彼の持つ集団戦法は、アイテールというたった1人に破れた。
・・・・敗北?
何をもってして敗北だい?
僕が死ねば敗北?
諦めたその時が敗北?
違うね!
たとえ負けたと当人が見たって負けじゃない!
周りが負けと見れば負けなんだよ!
そう!
故にこの敗北は絶対か?
否、否、否
上には上がいる、絶対の最強や最高は存在しない。エルフに毛が生えたような自分では、数千年の歴史を持つ巨人には勝てない。
だがそれが何だ?
僕には見えた、彼に勝てる未来が!めっちゃ少なくて、か細い未来だけど・・
少しずつ収束されていく『約束された未来』
未来は確定していく、その未来に近づけば近づいていくほど。
ただのエルフが、上位神の地位を脅かした。
その快挙を知る者は誰もいない
「だが僕は知っている」
気づけばマルクは呟いていた。アイテールの、ボロボロの身体が近づいてくる。
恐らく数秒で意識が刈り取られ、この冥界から完全なる消滅を果たすだろう。
それでも彼は、無限にも思える時を思いながら鞭を構える。
もう彼に諦めるという心はなかった。
あの時、アヌビスのペットであるアスクロルを沈めにいった際、1人輝く青年を見た。
地上へ攻めた際、弟を楽にさせる為に全てを投げ打った後、神器を手渡した青年がいた。
その、誰が見てもお人好しさを隠しきれない顔をした男をマルクは思い出す。
彼に神器を渡したことは、マルクにとって失敗だった。結果的には自らの首を絞めただけだ。この世界全体の幸福を鑑みてマルクは最善手かそれに近い行動をとった。 叡智だけならば世界最強である彼の仕事が決めてとなるかは別だが、彼の動きは無駄にはならない。
彼があげた一本の神器は、後の戦争を大きく揺るがす。
それを知ることになるのは、もうすこし後の話。
結局イディオムにするかイデオムにするか判明していない件




