正月スペシャル ラスト
「ふんふふーん!これまでのパターンから察するに、グリーンとコレットがイチャイチャし、儂とレッドが酷い目に遭うのが恒例のパターンだも思うでしょう?」
そんなことは絶対にもう起きません!レッドはもう手遅れですが!
イエローはそこまで言いながら、自分の自室にこもっていた。
イエローの部屋はグリーンの屋敷にはない、他の重臣達と同じく家が当てられているのだが、他の臣下に対してその外見はシンプルだ。良く言えばシンプル、悪く言えば地味だ。
正直その辺の稼ぎが良い商人の家か、下手をすれば農村で働く百姓の家と言っても不自然は無いかも知れない。
しかしイエローは、そんな木でできた家を愛していた。
勿論グリーンが設計した家の為木とは言っても暖房設備等はあるが、家具は最低限しか置かれておらず、自分が身につける者でない限りにはシンプルなものしか無い。
強いていうならコタツがあるぐらいか。
イエローは今、そんなコタツに入り込みながら寝正月を決め込んでいる。
イエローはどちらかと言えば派手な方が好きだ、祭りもなんででも。下品な派手さではなく、上品なものと後ろにつくものの。
しかしそんなものよりも今は疲労の方が打ち勝った。
ただそれだけの話。
そんなつかの間の休日は、一瞬で終わる。
「イエロー様」
「・・なんだ?」
イエローは天井から現れた自分の部下に対して、仕事時のテンションで答える。これでも一個部隊を預かる身だ、余計な隙は見せない。たとえそれがコタツの中に首以外全身が入った状態であろうとも。
「未開発地区よりモンスターが出現しました。現在詳しい状況の確認をさせていますが・・『氷の魔女』かと。」
「Sランクモンスターですか・・」
春、夏、秋、冬。この世界にも四季は当然あるが、冬の精霊は総じて悪霊になりやすい。
氷の魔女は元は単なる精霊である、そこに世界の悪意が溜まって人の形を取る。
そんな魔女は知恵と周りの環境を極寒の吹雪に変える為に単純な戦闘力はAランクだが、その脅威度からSランクに認定されている。
「索敵をさせて情報を集めていますが、ほぼ間違いないかと。Bランクの氷の悪霊も多数出現しております。」
ふむ...
現在自分が動かせるのは10人、いずれもBランク冒険者程度の部隊だ。そろそろB +程度の面々も出てくるだろう。
元々ラトランダ領にはダンジョンらしきものや魔獣が巣食う場所だった。
それでも田舎の領内の一般的なものだが、その魔獣はグリーン以下ラトランダ勢が9割型駆逐した。
つまり、今回のSランクモンスターは最後っ屁ということですな。
イエローは、Sランクモンスターの出現に軽く思考する。
幸い未開発地区は情報の出入りが少なく、人々もラトランダ領の中央に集まっている。箝口令を敷けば問題ないだろう。
だが、Sランクモンスターですか・・
「グリーン様に連絡をして、対策チームを組みますか?」
「いいえ、私が行きます。ジャック殿を呼んで下さい」
「はっ」
部下が消えるのと同時にイエローは立ち上がる。
な...何故...!?
自分は寝正月を過ごしたかっただけなのに...
しかし、こんなことでグリーンを出す訳にはいきませんぬな。
イエローは着替えて装備を整える。
彼は基本的な戦闘スタイルはナイフである、それを2振り。彼のナイフは刀匠からの頂きものだ。いずれも宝具クラス、特別な能力を抜きにすればその鋭さは神器にも匹敵するだろう。
そんな業物を身に纏い、マントを翻しイエローは歩く。
グリーンは多忙だ、イエローも多忙だが、グリーンの仕事量は常人のそれを超えている。天才とされている頭の回転の速さとその事務能力を持ってすれば不可能ではないが、それでも重労働。10代の若者のする仕事量ではない。彼自身が選んだ道だとしても、だ。
故にイエローは1人で行く、自分の持てる人脈を使用してそれに当る。
自分の信用した男に、負担を与えない為に。
◇◇◇◇
「で、俺が来ると?」
「応援感謝致します、ジャック殿」
ジャックは戯けたようにするも、次の瞬間には生真面目な顔に戻る。それもそのはず、ここは既に氷の魔女のテリトリーだ。
ジャックとイエローは氷の魔女の討伐に当たっている。
「氷の魔女は目が悪く鼻も効かない、気づかれずに接近できれば儲けものだ。」
「霧払いは部下たちがやってくれていますな、後は我々が決めれるか否か。」
2人とも、意識さえすれば気配どころか透明になっているのではないかと勘違いするほどの達人である。その卓越した技はジャックは長年生きてきた経験で、イエローも同じく経験が活きていくものだ。
常人が懸命に努力し続ければイエローやジャックのようになれる、というと少し違うが。
そんなことを話していると、氷の魔女がその姿を現した。
彼女は真っ白なドレスに身を包み、真っ赤な目と白い髪が特徴の、見た目だけなら美しい女性そのものだった。
作り物のような無表情な顔と、周囲から漂う冷気が、違うという印象を強くさせるが。
「行きますか?」
「もう少し待ってください。」
イエローは、そう声をかけるジャックを制止して、茂みに隠れて気配を消す。氷の魔女はしばらくあたりをウロウロすると、少しずつ体を鈍らせていった。
これは、イエローが作成した麻痺煙の成果である。
部下に命じて獣を麻痺させる煙を焚く、氷の魔女は鼻が効かないとはいえ、それでも呼吸を行うならばそれを多量に吸うだろう。それも実感なく、体の変調に気付き、この場から離れようとした瞬間が狙い目だ。
「行きますぞ!」
「了解!」
イエローとジャックは2人ほぼ同じタイミングで飛び出した。
先制攻撃とばかりにジャックが投げた投げナイフは、氷の魔女に当る直前で弾かれた
「魔力障壁か!キッツいねぇ!」
「魔力の籠ってない武器では通りませんな!」
そこまで言うと、イエローとジャックはお互い示し合わせたかのように氷の魔女のまわりを囲みだす。
氷の魔女は動かない、悠々と次の魔法を放つ為の詠唱を始めている。
「じゃあ、もう一本!」
そう言うとジャックは投げナイフを投げた。
氷の魔女はそれを避けようともしない、先ほどと同じように障壁に弾かれるものとタカをくくっているのだ。
しかしそのナイフはさも当たり前かのように障壁を貫き、氷の魔女の肩に刺さった・・
氷の魔女の絶叫が森に響く、それと同時にあたりの気温が更に下がった。
「仕留め損ねたか!」
「・・・・いや、終わりましたな」
「へっ?」
気づけば隣にイエローが立っていた、先程まで真反対に居たはずなのにだ。
氷の魔女は生きていた、先程までの威容とはうって変わって完全に逃げ腰だ。
脱兎の如く逃げ出す、その姿に最早魔女の威厳は少しもない。
「所詮は魔物か・・死にも気づかないとは」
「!?」
氷の魔女は、脱兎の如く走り出したその体が、既に縦2つに割られたのにようやく気づく。
瞬間、老婆の醜い顔のようなものを見せつけた後、この世界でも有数のSランクモンスターは地に伏したーー。
「流石です」
「いやいや、ジャック殿が油断させてくれたおかげですな」
んな訳あるか、そうツッコミたいのをジャックはぐっと堪える。この人は総じて自己評価が高くない、特にこう言う戦闘方面に関してはそれが顕著だ。
戦闘能力という点において、仮に女神の加護などが無かったとするならば、確かにジャックはイエローよりも上を行っているだろう。それは冒険者としての矜持も含まれており、経験というものも込みでだ。
だが、偏に冒険者という枠組みで見た場合のイエローは超一流と言って差し支えない。
魔物を弱らせる為の工夫、そしてジャックというデコイを完全に利用した相手の背後に忍び寄っての斬撃。
それを理由に氷の魔女は、自分が斬られたという事実に死の間際になるまで気づかなかった。
ジャックの身が、僅かに震えた。
「報告します、統率を失った雪の悪霊が暴れまわっております」
「部下どもは何をしている?」
「し...失敗しました、申し訳ありません」
「不甲斐なし、ジャック殿。申し訳ありませんが、もう一仕事お願いできますかな?」
「あ〜まぁ、個人的には戦闘になってすらいませんでしたしね。もうひと暴れしたいところですし、そもそも今日が休日なことを知らなかったまでありますからね」
「相性もありますからな、戦闘力があまり高くないモンスターだったのも幸いしました。」
「ハハハ、あれで戦闘力が高くないとは」
小国ならば一夜で滅ぼせるSランクモンスターの特徴を上手く掴み、的確な罠で弱らせ?仕留める。
全てイエローの手腕だというのに。
「何か言いましたか?」
「いいえ、じゃあ正月早々働きますかぁ!」
「そ、そうだ・・儂の正月・・オロローン」
「いきなりどうしました!?そして泣き方の癖が強い!」
唐突に号泣を始めたイエローを見てジャックが突っ込みだす。
ラトランダ領のはじめての正月はこのような様子で更けていく。
happy new year!!!
あんまり正月関係無かったけど、世界は、誰かの仕事で成り立っているという作者からの熱いメッセージということで・・・・。




