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「ニコラス・セヴレイブが逝きましたね」
冥界のある一室で、優雅に紅茶を嗜みながら、1人の老女がそう発した。
冥界のゴツゴツした鉱山の中のような無機質な岩肌に全く似合わない、高価な食器類、小さなテーブルに3人の人物が椅子に座り、お茶を楽しんでいるように見える。
冥界には何も存在しない、第三世界・・悪魔大帝が収める場所と同じく、無から有は作れない。
着ている服や、その本人さえ、冥界に存在し得ているものはアヌビスの魔力で作られているからだ。
そこにアヌビスの魔力以外で作られたものがある。
それこそが、この場にいる4人・・立ってお茶を継いでいるものを合わせると3名が実力者であることがわかるだろう。
冥界の主であるアヌビスに茶器の使用を許可され、なおかつアヌビスの魔力で生成されていない人物
そう、彼らこそ『超越者』
ニコラス・セヴレイブと戦うことを選択しなかった者達である。
「ニコラス老が・・そうか、彼は誇り高く死ねたのだろうね」
1人は、ひょろりとした、もやしをイメージするような普通の青年だった。この世界特有のローブを羽織る、魔法使いを連想するような青年。
年齢は20代前半ぐらいだろうか。優しい眼差しは、中央に座る女性に注がれている。
「ふン、奴のことだ、死んだらどうなるか知ることができると喜んでいるのだろう。エロゲ野郎は大げさなのだ」
「そのエロゲ野郎って言うのやめてくれない!?なんかよくわからないけど、傷つくからね。」
「断ル、恋人が26人いて子が100人以上いる奴は、オレの世界では爆死しろと言われていた」
「前から思ってたけど未来の世界って本当、どうなってんの・・」
もう1人は、丸太のような巨大で太い腕を持つ男だった。身長は2メートルを優に超え、金髪に黒目をし、その大柄な体と狂犬を思わせる顔を燕尾服に上手く閉じ込めている。西洋人の顔をした大男だ。
彼は今、立って紅茶を継いでいる。
「そもそも、死ぬモ何も既に死んでいるものを悼むも何も無いだろう。」
「本当、オリバーはそのへんドライだよなぁ・・」
「本当のことだ、お前こそ。優しさは身を滅ぼすぞ、タクミ・ジュウモンジ」
「僕の本当の名前教えてから、ずっとそっちの名前しか言わないな君は」
「失礼した、『愛の伝道師』殿?」
「そっちじゃないから!!シルフィールドだ!」
「せっかく本当の名前を教えてもらっタんだ、やらねば損だろう、マダム、お茶を」
「あら、ありがとうオリバー。」
そして、オリバー...オリバー・ジャクソンJr.と言う名の大男は、中央に座っていた1人の女性に紅茶を手渡す。
その女性は、70歳くらいの老婆だった。しかしその背筋は他の誰よりも真っ直ぐに伸び、格好は登山に行くような冒険家風の格好をしている。とても紅茶を飲む格好ではないはずなのだが、彼女がその格好をしてそれを飲むと、まるでこの格好が一番似合うとばかりに映えるのだ。
そんな、美しい老婆の名前はアリア=マルクト。別名『英雄の母』数多の英雄を輩出した女傑である。
「本当に良かったんですか?アヌビスにもつかず、かといって人間にもつかず。アヌビスの腹心として活躍しているケテル=マルクトは貴方の・・」
「いいの、シルフィールド。私はどちらにもつかない、私は好きにしなさいと言った、だからね、みんなそれぞれが誇り高く生きようと足掻いたり、アヌビスに挑んだりしたわ。」
そう、みんな、みんな決断した。
決断しなかった卑怯者は、わたしだけ。
私の愛弟子、孫弟子、その傘下は優に冥界軍や人間たちとは独立した第3軍になり得る可能性があった。
その戦力は、恐らく悪魔大帝抜きの悪魔達全体の戦力に匹敵する。だからこそ、私は決断しないという決断を下した。
ここで最後まで残った誰よりもおかしくて、誰よりも変な仲間たちと最後を迎えるために。
「いや、実際僕たちって、それぞれ自分でそれなりの魔力を保有してるじゃないですか?別にすぐさま消えるなんてことは無いんですよねー」
「まぁな、このまま行く末を見守るのも一興か。一応アヌビスのライバルとしては」
「あれ?オリバーっでアヌビスと戦ったことあったっけ?」
「生きてた時代に一度、死んでからは何年かに一度な」
「結構やってるなぁ!勝敗は」
「決着前にアリア嬢がお茶を入れてくれるでな」
「あれ?これオリバー今行けば勝てるんじゃない?僕の千里眼によると、アヌビス今すっごい弱ってるよ?」
「弱ったアヤツを倒して何の価値がある?」
「あ、すいません理解しました。」
「そうね、私たちはただ見守るだけ。そう決めたんだものねぇ」
「そうでしたアリアさん、どーにも僕は人間びいきでいけないですよね」
「いいのよ、人間が人間を愛して何が悪いの?貴方は普通だわ」
「ありがとうございます」
目の前のシルフィールドが、ぽっとした顔で俯く。この子は本当女の子にモテるのに、初心よねぇ。
だから寄ってくるのかもしれないけど。
「ニコラスが死んだとイウコトハドッガも死んだということだろう?」
「まぁ、そうですね。ニコラスさんのついでに魔力カットされてしまたね」
「オレの認める数少ない男の最後が、アレで終わりトハナ」
「あれだけの数の超越者相手に戦えてる時点でですからね、流石はニコラス老といった感じでした。」
「あの人は強い人よ、勿論ドッガ君もね。」
生前から、アリア=マルクトはニコラスとドッガを知っている。彼女と彼らがどういった関係だったかはさておき、彼らが眩しく見えたのは間違いない。
あの2人は主従の関係じゃなかったから。
まるで親子のような・・・・
「既に冥界の魔力は3割を下回っています。戦闘を行っていた冥界軍が次々と瓦解、居住区の面々も現界できずに消えています。このままだと我々への魔力供給もなくなるでしょうね。」
そう、冥界は終焉を迎えようとしている。
アヌビスが死ねば冥界は終わる
アヌビスの種族は冥界を収める一族、その当主が死ねば冥界は破滅を迎え、新しい冥狼族が冥界を治める。
その時に、冥界で生きていた面々は全て消滅する。
太古、人間より前に地上を統べていた一族が何故冥界にいなかったかと言えば、そういった理由があるのだ。
そして、アヌビスに子はいない。
これは、冥界が文字通り消滅することを意味する。
つまりはこの世界の定義である、死は冥界への新しい旅立ちではなく、消滅ということになってしまうのだ。
この世界の価値観ではあり得ない事態である。
まさしく、勝っても負けても人間には宜しくない事態ね
「貴方はどうするの?このまま黙って見ている気なの?」
そう、1人だけ紹介を忘れていたわね。
彼は????
彼は何もしない、見守るだけ。
彼は参加しない、悲しむだけ
彼は力は貸さない、憤るだけ。
そんな彼は、私の質問に決まりが悪そうに、手を振りながら答えた。




