裏の神と、鍛治師④
互いの技の応酬が始まる。
フレイヤの、一見粗暴にも見える戦い方、一般的に言うなら大柄な男がするような喧嘩の仕方・・まぁ彼女は現に滅茶苦茶大きいサイズなのだが、ともかくそんなスタイルで戦っている。完全なるフリーファイト、そこに型の介在する隙はない。しかし、自由であるからこそやりやすいといった例もあるのだ。
凡人には理解しがたい領域と言えるだろう。
超巨体から繰り出されるヤクザキックとテレフォンパンチを、アヌビスは受けきれずに喰らい続けている
比べてアヌビスは構えが美しい、先程とは打って変わり直線的な暴力から洗練された武術へと昇華さしている。アヌビスは今、4本の手を持ち、暴走態であらにも関わらず既に理性を取り戻している。
7柱ケテルマルクトの弟、ウェザーを覚えているだろうか?
彼の方法はただえさえ数百年は生きるエルフの中でも更に長命なハイエルフと呼ばれる種族が、理性と寿命を犠牲にして圧倒的膂力を得た例である。
彼と意思疎通を行うことは不可能だった。
しかしアヌビスの場合は怒りに身をまかせるだけで済み、それでいながらも少しずつ理性を取り戻している。
アヌビスもまた、稀代の天才。
天才同士が戦った場合、どちらが勝利するか?
答えは、『より戦闘というものに対して真摯なものである。』
徒手空拳においてそれは顕著である。
故に後半は、ただひたすらフレイヤの拳が空を切り、アヌビスの拳がフレイヤへと当たり続ける一方的な展開となった。
そして勝利の女神はーー地に伏した。
「冥界之炎・弱」
アヌビスの手から青く光る炎がフレイヤの体を燃やす。一言も言わないまま、フレイヤの全身は消えた。
フン、これが本気か。
これで人種の守護者であるフレイヤは封じた、殺すことは不可能だから、これ以降もあれこれ邪魔してくる可能性はあるが、直接敵としてはもう立ち塞がることはないだろう。
『奇跡の女神』その実力、堪能した。
他の神は、スアレス、マルクが抑えてくれている。フォルテだけは心配だが、あやつも神の端くれなれば、仕事はしてくれるだろう。
ジョーカーはニコラス・セヴレイブか、しかしあやつへの魔力供給は既に切った。放っておけば消えるだろう。
冥界の主たる私の魔力供給無しには冥界に住むもの全ては活動できん。神とて、死ねばその理から逃れられん。
それに、冥界へ来ていた人間と、魔王か・・
其奴らは地上に降り立った際に障害になり得る可能性がある。
ここで排除しておかねばな。
アヌビスは、自らを叱咤して歩く。
その覇道を阻むものはいない。
◇◇◇◇
「終わったかな?」
「終わりましたね、いやはや。おかげさまで体がボロボロです」
『修復魔法』
「ありがとうございます、ニコラス様」
2人が立つのは、冥界のある一角。死屍累々といった様子で人や亜人、魔族が倒れ伏している。
彼らは超越者、文字通り神予備軍と言って差し支えないほどのレベルの実力と知名度を持った者たちである。
スアレス=ヴァン=ケイアポリスと肩を並べるそんな彼らが、たった2人によって無効化され、地面に打ち捨てられていた。
1人は老人、枯れ木のような全身を車椅子に預けて弱々しく長い杖を手に取っている。
もう1人はモンスター、西洋のフランケンシュタインを模したような怪物。
ご存知ニコラス=セヴレイブとドッガである。
「これだけの奴らを相手にするのは骨が折れるわい」
「攻撃を受ける私の身にもなって欲しいところではありましたがね。さてこれからどう致しますか?」
肩をトントンと叩くニコラスを心配するように、ドッガは尋ねる。だがその問いにニコラスは、呆れるようにこう答えた。
「聞こえなかったか?ドッガ。終わったか、とそう聞いたのじゃが」
「それはどういう意味で?・・・なるほど、そういう意味でしたか。」
「気づいたか、いやまぁ『予知魔法』でこの結末は知っていたのじゃがな。」
「アヌビス様からの魔力供給が切れた・・成る程、このままでは現世に存在出来なくなりますね」
この世界に意識を保てなくなる、今までは死んだら冥界に行き、幸福に暮らせる。これがアヴァロムでの常識だった。冥界で死んだとて、アヌビスに復活してもらえるという意識まであった。
しかし、その供給が断たれたら?
次こそ、魂は完全なる死を迎える。
その魂は、魔力供給が再開されるまで2度と目覚めることはない。
全ての世界が停止する、それはアヴァロム世界では誰もが恐れることだ。
「流石にやりすぎたな・・読めていたからこそここまでの悪戯ができたのじゃがな。アヌビスがそれをする余裕ができたと言うことは、やはりフレイヤは負けたな。」
「私にまでとばっちりが来たのですが・・・・まぁアヌビスが敗北するということは冥界の崩壊を意味する、つまりは自分たちの死を意味する。超越者達がアヌビス様に味方したのも頷けますね」
「ふん!元々死んでおろうに、何故今更生にしがみつくのやら!」
「超越者達も、2度目の死には勝てなかったということですね。まぁ戦いに参加せず、静かな消滅を選んだ者もいるようですが」
「死など!1度目で死んであるならもう十分じゃ!十分長く生きた、ドッガ、お前はどうじゃ?」
「我が命は貴方様と共に」
そこまで言うと、ドッガはニコラスの前に跪く。
ドッガは、まだ人間が世界を牛耳るずっと昔、ある一族が世界を支配していた際の人類の守り手であった。
人種族の生活圏にその種族を入れないように配置された、魔導技術と人工生命態が作り出した人口生命。
それがドッガである
彼の戦いは、その種族を神々が鏖殺するまで続く。彼は1日、1分、1秒足りとも休むことなく人を守り続けた。
そこに通りかかったのがニコラス・セヴレイブだった、彼はドッガを勤めから解放した。それに意思を植え付けられたのがドッガである。
「最後になるかもしらん言葉がそれか!臭いわ!」
「ニコラス様、あたりが強い・・・・」
「まぁ、それだけ儂がいい主人であったということよな。」
ニコラスは、真っ直ぐに前を見据える。
全ての地ならしは終了した、後はルート通りに進んでくれさえすれば・・
「儂らは復活する、必ず。」
そのための置き土産は、既に残した。
「それも予知ですか?ニコラス様」
「いいや、ただの直感じゃな」
4柱、ニコラス=セヴレイブ
彼は初代魔王、魔王という言葉には2通りの意味が存在した。
1つは魔族を統べる者、彼は魔人と人間のハーフ故に、魔族の頂点となるに相応しかった。
もう1つは、魔導を統べる者。故に彼は魔導王、初代魔王としての彼の名は知られていないが、彼の名前は後世にまで残る。
半魔人のしての彼の生は、決して魔王としての生だけではない。
しかしながら育ての親である人間から多大なる影響を受けていることは疑いないだろう。
冥界のある一角に、一振りの杖と戦斧が横たわっている。
1つは、魔導王が使用した王杖
1つは、太古の守護者の使用した大斧。
そのうちの1つ、魔導王の愛用した王杖は、何かを祝福するように。
淡い輝きを絶やさなかった。




