地上戦終結②
親父のことは何も知らない。
気づけば、母さんと2人で生きていた、ウォルテシアで生まれた俺は、どちらかと言えば貧民と呼ばれるウォルテシアの最下層の民達の中でも飛び切りの貧困層に住んでいた。
・・にも関わらず、家の生活はそんなに苦労しなかったし、母さんとの2人暮らしは楽しかった。母さんは遊女だったけど、それにしては珍しく学のある女性で、教養についてはウォルテシアの貴族にも負けない程度の教養は受けた。
そして、16歳、母さんが死んで、俺は次の日には家を出て旅に出た。
ずっと商人になりたかった、色々な場所を、生まれ故郷のスラムのゴミ溜めなんかよりもずっとすげぇ場所を見たかったから。
母さんから、一度だけ、秘密にしておくなら俺の親父のことを話すって言われたことがあったっけ。断ったけど。俺の親は、母さんだけで良かった。
旅に出て、師に出会い、友に会い、護衛を買って出た女戦士と出会う。
「人」
商人として生きていく上で人脈ってのはかけがえのないもんだ。
それがたとえ、魔族だったとしても、だ。
驚いた、あの魔族が魔王になっちまうとは。既にその頃には商人としての暮らしは安定していたから、別に儲けるつもりのない変な商いに手を伸ばしていた。
それが魔族との交易だ。
魔族と人間との間には確執があり、魔族と人間がエンカウントすれば即戦闘!が俺的には普通だったのだが、この魔族は俺に変な確執を持たなかった。むしろ剣を抜くのがアホらしかったな。
シン、そう自分を呼んでくれたそう言った魔族は、びっくりするぐらい変な奴だった。
魔族との交易、魔族領には資源が少ないのは、誰でも知っている常識だ。でも危険だからこそ、魔族領にしかないお宝だってある。
そんなものを売ってそれが大当たり。
オレは世界一の商人になった。そこから、今まで得て来た人脈を使い、物の流通と売る人を分業したりして、商人と顧客、商人と商人の間の物の流れが活発になるように工夫する。
それが今の商人ギルドの仕事だ。
昔から商人ギルドって言う名前はあったらしいが、ここまで大きくしたのは初めてだろう。
そんな俺の歴史を作ってくれた人が母さんと、師匠だ。
そのうちの1人が、俺の目の前にいた。
「なんで、ここにいる?師匠?」
身長180センチ、夕日に照らされて鮮やかに光る金髪、彫りの深い顔立ちは、歳老いてなお美しい。年齢は70代程度だろうか、にも関わらず杖すらついておらず、背中も曲がっていない。緑色の目をした、時が止まったかと錯覚させるほど静かな印象を与える老人。
チェットウインド・ギルドバスターは、確かにこの場にいたのだった。
◇◇◇◇
「冥界軍としてここへ来た、何かおかしいかな?我が弟子よ」
そう、老人らしい、深くそれでいてジャンを試すような声を出して、師匠は話かけてきた。会うの何年ぶりだと思ってるんだ。
「・・・・元気そうだな」
「なーにが元気そうだ、死んどるわ」
「それもそうだなって死んでも毒舌は治らないのかよジジィ!」
「仕方ないな、死んでも死にきれんことが1つだけあってな化けて出てやったわ」
「何故死んだ?」
チェットウインド・ギルドバスターが死んだなどという噂は、現状ジャンは聞いていない。
「2日前に、気づけばポックリな」
「老衰かよ!!まだ教えてもらってないこと山ほどあんだぞこのクソジジイ!」
「じゃーかしい!だからここに来たんだろうが!」
師匠は、そこまで言うと剣を抜いた、不可視の剣とまで言われた師匠の剣は、特別な魔法や、技術を持っていたわけではない。ただ最後の一瞬まで磨き上げた型という名の技が、師匠の持つ技の全てだった。
師匠の剣は神器『戦乙女』
ウォルテシアにある、1人に生涯尽くすと言われた神器。ウォルテシアの天才魔道士が自らの一生をかけてようやく生み出した奇跡の一本だが、適合者が師匠しかいないという特例中の特例の一本だ。
「で?冥界軍に入ってまでやりたかったことってなんだよジジイ、察してるけどな」
「ジャン、闘えるか?私と」
「勿論」
この神器に認められる方法はただ1つ、前の持ち主よりも技量が優っていれば良い。
完全な敗北を経て、この神器は新しい主人に仕える。まるで理想の騎士のような武器であるワルキューレは、当然ながら神器としての格も高い。
神器に強化された自分の師匠に勝てと言われているのだから、無理くせーのがわかるだろう。
俺のは宝具クラスの細剣だ。勝てる保証はない。
だがそれでも俺は笑う、笑い続ける。
師に認められる為に
師もそれを望んでいる
『ア・トラベア!!!!!」
お互いの超高速の突きが入る、それが、2人の戦いのゴングとなった。




