地上戦終結①
目の前には、ライオンを彷彿とさせるような顔立ちと、人間と同じような体躯を持った『獣人』と呼ばれる生物。
2メートルを超える大柄な体躯と、真っ白な毛。
ホワイトタイガーって奴かな?
「例え1人になろうとも、私は自らのやるべきことを全うするのみだ!」
「そうか、好きにすればいいんじゃないか?」
互いに会話はそれまでだった。
一般の騎士ならば痛みを感じるまでもなく絶命していたであろう一撃が、私の頭を正確に射抜こうとしてくる。
それをギリギリまで引きつけて、首の動きと僅かな体の傾きのみでかわし、かわした重心を利用して体験をぶん回し、相手を横薙ぎにせんと降る。
槍を放った後の隙だらけの身体では避けられず、鎧を貫通...しない?!
「ふぅん!」
「なに?!」
防御をする素振りすら見せなかったランスロードの槍をかわし、クロはあまりの違和感に首を捻る。
クロが使う大剣は神器ゴリアテ、その破壊力は斬るというよりかは叩き潰すことに特化している。ダメージが通らないということはないのである。
そもそも、これより前に不意打ちでランスロードを吹き飛ばした際も、ランスロードは無傷で復活した。
「クロ!」
そう呼ぶ声がして私は少しだけ背後に意識を向ける、ベリアスの声だな。
「イシュタリア・ランスロードの神具は『戦士の魂』!人類最高硬の防御力を持つ!ソイツは戦場では一度も傷を負ったことのない戦士だ!今のように、鎧の部分を斬られても刃が通らないし、傷を受けても直ぐに復活する。」
「ふむ、バレてしまったか。だが、タネが割れても勝ち続けるのが本物の戦士と言うものだ!」
不屈の戦士、最強の軍団の長は引いてはならない、傷を負い、部隊の士気を下げるわけには行かない。
「自分は死なずに危険地帯に身をおける」
指揮官としては理想的とも言えるであろう神具である。
「それでも、槍が当たらなければどれほど硬い武器を持っていようが意味があるまい?」
その言葉を待っていたかのように、ランスロードの加速が、一段階早まった。
「何?」
クロはそれすらもかわし続ける。見れば、魔力量が増えているようにも見える。
(冥界からの魔力を使って、身体能力を上げたということか。ランスロード自身ではないな。さしずめお供の部下達の誰かが、ランスロードに援護をしているということか)
ちなみに、背後の獣神隊は人間達に攻められている。クロと主人であるランスロードの戦いの邪魔をさせない為に、必死で護衛を繰り広げている。
ライト王はそんな思惑と嚙みあわせるかのように、遠くから矢を射かけるなど消極的な戦法に切り替えたようだ。
クロが勝つと、信じて疑っていないかのように。今この場にいるのは、帝国皇帝ベリアスとその旗下数人と、クロのみであった。
気づけば回りは背後以外全て囲まれている状況である。
「・・余計なことをするな」
気づけばランスロードは立ち止まっていた、そして、1人の獣人を睨んでいた。
「で、ですが王、私は・・」
「2度は言わん」
そう言うと、ランスロードの体から魔法の気配が消える。
「良いのか?私は一向に構わなかったが?」
「ここで部下の援護で勝てば、私は私の正義がわからなくなる。これで良い」
「強情だな」
「お互いにな、そうでなきゃこんな得1つない戦いの最前線などに出るものか?」
「得ならあるぞ?楽しい!」
「・・戦闘狂という奴か、脳筋はこれだから。いや人のことは言えんな!!」
クルクルと不規則に回していた槍を、真っ正面へと構えてランスロードは叫ぶ。
その次の瞬間には、ランスロードの槍先は私の真正面へと到達しそうになっていた。
あれ?魔法かかっていた時よりも早くなってないか?
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ランスロードの猛撃は止まらない、その証拠に、クロの服装の所々に、掠ったような跡が残っている。かわしきれれず、紙一重でかわした跡だ。
あ、危ないな・・
この気迫、この気合い
正々堂々を主とする騎士感
戦場では傷1つ負わず、常に高潔さを追い求めた戦士。
なるほど、獣王と呼ばれるのに相応しい。
だが
「悪いな、もう適合した」
「なんだと?」
次の瞬間、クロは瞬時に間合いまで詰めると、その硬い鎧ごと、ランスロードの体を
深々と大剣で切り裂いた。
「な・・・・!!」
ありえん!大声で否定したい事実か眼前の元に現実となっている。その現実がランスロードの心を折ろうとする。
今まで自分を無事に守って来たという強い自信が、粉々に打ち砕かれた。
「この大剣が適合する神器じゃなかったらまぁもう少し苦戦したのにな。」
目の前で倒れ臥すランスロードを前に、クロはそう言う。倒すだけなら、鎧の無い頭を殴って気絶させるなどの方法はあったが、それをしなかった。ただ純粋に、混じり気のない、完璧な敗北。これを与えたかったからだ。
よくわからんが、お前が間違ってる!
何故ならな...う〜んわからん!
とにかく、約束を破ったなら謝ればいい!
それで許して貰えれば終わりだ!
「今から私が謝ってくるぞ!」
「いきなりなんの私だ?!」
「謝って許して貰えればそれで終わりだ!仲直りしに行く!いやちょっと待て、何故私は何もしてないのに謝らなくてはいけないのだ?やっぱり殴りに行く!」
「いやどっち??」
あぁもう、どうしようかな!
◇◇◇◇
ランスロードside
なんだコイツは
唐突に謝りに行けばいいだの、殴りに行けばいいだの。 一体何を言ってるんだ、子供の喧嘩じゃないんだぞ。
だが、そうか、フフ
聞いたことがある。
1人の身体に複数の心の入った男
アヌビスから聞いたわ
お前がそのうちの1人か。
マルクトの小僧もこいつらの1人に負けたとか言ってあったが
なるほどなるほど。
承知した。
「お前は・・力ずくでことを為そうと言うのだな?アヌビスを倒して、世界のルールを塗りかえようとするのだな?」
かつて、我々がそれを為したように。
力で手に入れたものは力で踏みつけられる、これも因果か。だが見ておれ、力で手に入れたものは、力で踏み潰され返すとーーーー
「いや、そんなことはしないぞ?規則?おいおいやめろ、私は難しいことはわからん!約束を破れば謝るのは当たり前だろ?レッドにそう教えられた。ならば私はアヌビスに会いに行く!あって...謝るかどうかはそれから決める!」
「力で押し潰すという選択肢はないのか?貴様ほどの腕ならばひょっとしてアヌビスにも届くかも知らんぞ?」
「アヌビスとは勝負はしてみたいが、殺し合いをする気はない!そうか、アヌビスは強いのか!?なら行く理由ができたな」
「・・貴様、馬鹿だな?」
「誰が馬鹿だ!失礼な!名前すら名乗りあっていないと言うのに!」
「あれ?私が名前教えなかったっけ?」
「忘れた!!!!!!!!すまんなベリアス!」
「はぁ、いい。」
「・・イシュタリア・ランスロードだ」
「うん、ランスだな!覚えたぞ!私はクロだ!」
なんだこの小娘は、こんな間抜けに私は負けたのか?
ハハハハハ、おかしいな。
案外気分は悪くない、戦さ場で死ぬとはこんなに清々しいものなのか?
わからん
わからんが
少なくとも、1度目の生よりは、良い死に様であった。
クロが与えた傷は、立てないようにしてはあるが決して重傷ではない。だが彼の体は消えようとしていた、敗北を認めてしまった。
敗北したと言うのに
勝者から見下ろされていると言うのに
彼の心は、穏やかだった。
まもなく、獣王は光となり、アヴァロムから冥界へと帰還する。それ以降何も彼が言葉を発することは無かったが、それでも彼は満足そうな笑みを携えていた。
リーダーであったランスロードの死によって、獣神隊もそのほとんどが自主的に光となって消え、他の一部の部隊は、獣人の行く末を見にこの場を去った。
残るアヴァロムの戦場は、1つ。
ジャン=ギルドバスター
商人ギルドマスターの生い立ちに関わる事件が巻き起ころうとしていた。




