アヴァロムの戦い⑤sideクロ
sideクロ
テーマで言えばロッキーのテーマソング
え?聞いたことない?
やだな〜有名なのに、ボクシングの試合とかであるでしょう?
パパーパー!パパーパー!
パパーパー!パパーパー!
って奴、脳内再生でそんな音を響かせながら、確かに私はこの獣人の男の槍を受け止めている。
背後にいるのはベリアス、すっかり苦労しきったような顔つきになっちゃって、疲労困憊、目にくままであるよ。イケメンなのに変わりは無いけど。
「何者だ、貴様!」
「あぁ!?」
お前に名乗る名前なんかねーよ!
そう言うと、私の持つ大剣が唸りをあげて男を薙ぎ払う。受け止めた体ごと思い切り薙ぎ払ったので、綺麗に飛んでいった。
王ぅぅぅとかいう情けない声が聞こえて来るが、知らん!
ちなみにこの大剣は神器である
神器『ゴリアテ』能力「人体改造」
その名前の通り、環境に適した肉体へ持ち主を変貌させる神器。これでアヴァロム世界の端から端までを冒険し尽くして偶然手に入れた逸品である。ちなみに名前が綺麗に書いてあった。
名札まであったぞ!なんだったんだ一体?
まぁ、それはともかく武器自体は便利に使わせて貰っているのでどうでもいい。
「クロか、グリーンからも話は聞いてるし、会ったこともあるが。確かにあの時の雰囲気のままだな、体は完全に別のものとなっているが」
「そうだな、ウルフィアスめ。へんな体にしおって・・まぁいいか」
そう思いながら、改めて3年経ち、すっかり女性の体に慣れてしまった。
「さて、状況は最悪だ。左右軍は大きく後退を余儀なくされ、中央軍は見た通りこの精鋭っぷりだ。先程お前が吹っ飛ばしたのがボス、名前をイシュタリア・ランスロード、神の1人だが・・・それを倒すとは、ほとほと規格外だな、お前は。」
「ん?あれでか?」
弱くないか?とは思ったが、死者の身で実力が十全に発揮できるなどそんな都合のいい話もないので、何かしら縛りが発生しているのだと勝手に邪推する。
実際にはそんなもんはないけど。
「ともかく、傷空いた将兵を癒してやらねばな。ピンクー!」
「はーい!」
「どぅわっ!どっから出てきた!?てかピンクか!」
既に取り繕うような言葉遣いから素に戻ったようで、ベリアスがそう言いながら驚く。
それもそのはず、急に王国に現れた聖女を名乗る(一部上層部には他人格であることは説明済み)女性は、その優れた回復魔法で王都各地で人気を博し、ファンクラブと求婚が止まらないという有様だった。
私が連れ出して来た!戦いの匂いがしたからな、その時にこの戦争のことをピンクに教えてもらって来たということだ。遠かったな、一日かかったぞ!
ちなみに肉体年齢はウルフィアスの配慮で12歳ほどの少女だが、精神年齢は7歳程度である。
だが教会の仕事や、復興時のゴタゴタに奔走しているうちに精神的にもかなりの成長を果たした。
その世界一とも言える回復魔法は、他の追随を許していない。
今も、ピンクの杖(教会が持っていた宝具)は、確かに戦場に広がる騎士達を癒す。その人を選ばない光は、傷ついた冥界軍の傷すら癒した。
「って!敵まで癒してどうするんだこのバカッ!!」
「ゴメンクロ〜誰をやれば良いかよくわかんなかったから、全員やっちゃった」
テヘッという独特な仕草を見せるピンク
イラッとした、うん、絶対後でグリーンを殴ろう。
てか、遠くから「神様・・」とか、「女神様」とかいう声が聞こえてくる。
そうだ、ピンクも世界的に見れば結構有名人だった。
だが
「あの可憐な少女は一体!?」
「私の傷を治してくれた、あれが現世のものだと言うのか!?できん、わたしにはあの少女を手にかけることなど」
「あのお方の名前だけでも知ってから消えたかった・・しかしこの傷では、もう」
「お前傷治ってるぞ」
「え????」
最後はともかく、戦意を喪失した敵方が多く、なんなら自ら冥界へと帰還している面々もいる。
おい、私の出番だろ!これ!
「これは戦いを辞めろという女神様の啓示だ!俺は子孫の顔を拝んでから冥界に帰るぞ!」
「俺もそうしよ、そもそもそれが目的だし」
「アヌビス様も今冥界で戦っててそれどころじゃないだろうしな」
「てか、ランスロード様がやられた時点でなぁ・・」
えーーーーーーーー!!!!
戦意低すぎるだろう!
「帰ろうぜ」
「そうだな」
えっちょっと待て、知性ある魔族とか、人間とかは全部帰るか戦場を離脱しちまって、残ってるのが知性のない魔獣と、獣神隊しかいなくなったぞ?
「こ、これが狙いだったのか、流石女神様!」
「これが奇跡か・・絵師を呼べ!あのお姿を絵にしろ!金は幾らでも出す!」
「えへへへへへへへ、ヤッタネ!」
「ふざけんなよぉ!!!!」
私の出番を返せ!!
ピンクのサムズアップと、私の絶叫が辺りに響く。まぁ目の前に残っている獣神隊で我慢しておくか。
「認められるか!!」
あ、まだ生きてたんだ。
思いっきりのフルスイングを不意打ちでやったのにな。
「貴様等・・逃げ出しただと!!アヌビスに仕事を任された奴らが!神に命されたのだぞ!その命尽きるまで何故使命を果たそうとさんのだ!」
あのさ
「身勝手な奴だな」
「何が可笑しい!!」
「笑えてくるよ、そもそもお前たち神域に達したとか言ってるけど、それって1柱が認めただけって話だろ、仲良しグループなんだよ要するにお前たちは。」
アヴァロムと呼ばれているこの世界は、あくまでも人間が住んでいると確認できる範囲のみだ。
魔族の侵攻から逃れて魔族領から更に北へと逃れた民
ウォルテシアの港の外に広がる世界
そこが含まれていない。
神々だって、『アヴァロムと呼ばれる地域で伝説を残した面々』と言うだけだ。
外に目を向ければもっと強い奴らはいるし、頭の良い奴らだっているだろう。
「神様だからってなんでも命令できる訳じゃないんだ、兵を率いて戦わなきゃいけないオマエが、何故そんな簡単なことに気づかない。馬鹿な私ですら知っていたぞ」
「・・・・兵を感情を軽んじた結果がこれだとでも言うのか?」
「そうだな、さっき見たときから4割くらいに人減ってるぞ。そんなもんなんだよ、どんなに偉い奴らだって、どんなにカリスマを持ってたって、人の心が離れちまったらおしまいなんだよ」
先程見た冥界軍の数から、既に4割にまで人数は減っていた。それも士気は最低である。逆にここまで残っているという現状がランスロードという神が生み出すカリスマの為せる技かもしれない。
「そうか、だが認めぬ!アヌビスと人間が課した誓約がそんなことで反故にできる筈もなく!」
「おおそうか!なら来いよ、タイマン張ろうぜ!」
最初っからこれでいいんだ
殴って言うこと聞かせようって言われた方がいくらかわかりやすい。
そんな私の思いを向こうも理解したらしく、敵意を存分に漲らせ槍を構える。
私の大剣と奴の槍が、ぶつかった。




